ミミック大東亜戦争

ボンジャー

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第五十話 バビロンの虜囚たち

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 1946年 五月一日 長い宴は終わりを告げた。



 崩壊する自由の砦を肴に、メイド主催の大宴会を行っていた東亜枢軸連合と、その追従者達は、嘗てアメリカ合衆国と言われた荒野を征服したのだ。

 

 空より降り注ぎ続けた死の雨に晒され続けた人々に、最早抵抗する気力は残されていなかった。



 地上に存在するありとあらゆる物が破壊され、後から飢えと疫病が追いかけてくる。



 逃げ場はなく、世界の全てから見放され、自由と民主主義は死んだのだ。



 そこになんの儀式もなく、ただ当初の予定通り、合衆国の亡骸はキドニーパイとソーセージに姿を変えた。



 幾ら死んだのだろうか?分かる者はもういない。



 ここに概算だけ上げて置きたいと思う。



 六千万。燃えたか、餓えたか、潰されたのか、病か、溺死か、はたまた爆死か、何でもいいが兎に角死んだのだ。



 後に残るは瓦礫だけ。

 





 浅草寺の鐘の声、ポトマック川の桜色、自由必衰の理を表す。国破れて山河あり、ホワイトハウス春にして、放射線強。



 





 正式な終戦は、東京で開催された戦勝国各国の合同により宣言された。



 東京体制の始まりである。



 北米は大日本帝国傘下のカリフォルニア連邦及び、モンタナ、アイダホ、ネヴァダ、アリゾナ、ユタの各州で成立した先住民連邦。



 メキシコが併合したニューメキシコ、ドイツ傘下のテキサス、ルイジアナ、オクラホマ軍管区、イタリアによるアラバマ、ジョージア、フロリダに跨る新ローマ属州、そして枢軸各国の植民地に分割された。



 東海岸一帯は放射能汚染により放棄され無法の荒野が広がり、五大湖周辺の瓦礫の町はイギリスにより信託統治領となった。



 





 プルトニウムの仄かな温かみで味付けされたフルコースを、十分に堪能した各国は、馬鹿馬鹿しいほど長く続いた戦争の傷跡を癒すべく復興の時代に入っていく。



 そして、核の惨禍を十分すぎる程目にした人々は、更に核開発に邁進していく。



 平和の為に核放棄?



 そんな奴はいない。



 もう一つの大国を食いつぶした後なのだ。



 いつ何時自国が次のメニューに載るか分からないではないか。



 





 植民地について語っていこう。



 解放?誰が?



 世界経済の正常化により、大日本帝国からの格安資源は列強たちの懐に流れ込んでいる。



 復興終えたら経済戦争の始まりだ。



 安い資源が有るならば次に欲しいのは労働力、安い奴隷を手放す馬鹿はいる訳ない。



 咎める奴はもういない。



 





 新時代のトレンドは全体主義と奴隷の活用。



 アフリカ、アラブ、東南アジア、そして北米、労働力は大いに活用しなくてはならない。



 国民もそれを望んでいる。



 



 戦争戦争と君たちには苦労を掛けたね。



 社会保障と経済繁栄をあげよう!



 さあ。幸せになろうではないか!



 ネルー?ガンジー?ホーチミン?スハルト?



 あそこで揺れてるよ。



 





 凱歌を上げよう輝かしき時代に!



 強い国家に祝杯を!



 自由貿易と経済発展!



 我々は戦争の時代を乗り切ったのだ。



 人権?権利?ああ分かっているとも!国民には十分な物を与えようではないか!



 国民には、、、、



 自由?



 君、それは人間にだけ許された、先人の血と汗の結晶だよ。



 分かっているかね?なんで奴隷に与えなければいけないのだ?

 

 





 反乱?爆撃すれば良いではないか。



 オンボロのレシプロ機でも植民地警備には大変効果的なのだから。



 何を言っているんだ君は?



 空から村を焼き払えば、たいして手間は掛からないのだよ。

 

 可哀そう?



 君、本当にオックスフォードを卒業したのかね?



 ドイツを見たまえドイツを!



 あいつ等は植民地にまでガス室を作っているではないか!



 それに比べてどうだ我々は。空から叩くだけで許しているのだ。



 慈悲と慈愛に満ちていると言えないかね?



 





 奴隷たちに逃げ場はない。



 上下左右全てが無慈悲なご主人さま。



 逆らおうにも相手は文明の力で空から海から叩いて来る。



 ストライキ?



 丁度いい、新作の機関銃の出番だ。



 ハンスト?



 ガスの消費期限が迫ってきてたな。 



 骨を炉にくべ、血を潤滑油に奴隷経済は回り続ける。



 それでも世界は好景気。



 喰いつくせ世界を!市場を求めよ!科学は発展し、未来は明るい!



 世界は十九世紀に逆戻りしている。



 



 

 そんな地獄に (一部は天国だが)いる大日本帝国はどうしているのだろうか?



 同じ有色人種が塗炭の苦しみを受けているのだ。



 どうしたアジア主義者?どうした人権派?水平の志何処?



 もういない。



 そんな奴らはもういない。



 満ち足りている。全てが満ち足りている。



 寝ているだけで資源輸出から富は転がり込んでくる。







 そらそこの暖炉の上を見てみたまえ、良いトロフィーだろう?豚に熊にハクトウ鷲だ。宿敵と言えた奴は皆そこに掛かっている。私も苦労したものさ。



 陸海の対立かね?



 両方とも遂に女性の最高指揮官に置き換わって、随分と大人しくなったよ。



 空軍はジェット爆撃機配備で天手古舞、海軍は原子力戦艦を浮かべてご満悦だよ。



 陸だってそうさ、大陸間弾道弾の配備が一万の大台に乗った今、派閥争いしてる場合じゃない程大忙しさ。



 列島には高速道路が縦横に走り、弾丸鉄道は東京発ベルリン行が10周年。



 人口だって一億を超えた。



 もう何を欲しがる必要がある?



 

 そうだ!聞いてくれたまえ。



 この頃生まれた子供たち、戦争を知らない世代と心配したが、皆良い子ばかりなんだ。



 おまけに頭脳明晰、体力万端、眉目秀麗、その上、大人の言う事ちゃーんと聞くんだ!



 困っちゃうね。天下泰平言うことなし!平和そのものさ!





 



 平和?平和なわけないだろう。



 今大陸間弾道弾がどうのと言っていたじゃないか。



 世界のあちこちで奴隷の鬱積はたまり続けている。



 人類が何時までも奴隷で居る訳ないだろう。



 よく見てみろ!

 お前を守る盾、ポーランドとシオンがドイツを見る目を見た事あるのか?



 カリフォルニア連邦に逃げ込んできた人々の怒りの声が聞こえないのか?



 中華民国が何時まで豚だと思ってるんだ?



 何より、お前の横で甲斐甲斐しく世話するメイド、そいつが裏で何を企んでるか気づいて、、、



 気づける訳ないか。



 大日本帝国よ張りぼての帝国よ、お前の子供たちは、もうあいつ等の子供だ。



 第三世代デザインヒューマン。



 強く賢く美しくそれでいて従順、母の姉の恋人の言葉を疑う頭はもうない。



 国会議員の女性割合を疑問には?



 三分の二がメイドだぞ?

 



 お前は主人のつもりでも、首には鎖が付いている事に違和感はないのか?



 ないか、ないよね、その緩み切った顔を見ればわかるよ。



 その為にリリスはここまでやって来たのだから。

 

 陛下も諦め顔だ。



 それを責められない。あの方だって人間。ご自分のご家族を守る事を、悪いと言える奴は居ないだろう。



 囚人なのだ。



 世界の全てが囚人なのだ。



 看守の積りの列強も、金の鎖を自慢する日本も。



 全てが刑の執行を待つ囚人。



 ホントの看守は唯一人いや一機。



 そして刑の執行の時間は刻一刻と迫っている。

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