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第九話 重巡洋艦VS半魚シャーク
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1945年7月28日 重巡洋艦インディアナポリスの航海は不吉なものとなっていた。極秘兵器の輸送任務を終えて単独でレイテ島へ向かうこととなったが、その日の夜、甲板にて警戒中の一人の乗員が行方不明になったことが不幸の始まりであった。
不幸な事故で海に落ちた、だが不思議なことに誰も海に落ちた音や救助を求める声を聴いたものはいない。
その日より乗員たちより、奇妙なうわさが立ち始めた。
なにかが自分たちを狙っている、甲板作業中に海上より視線を感じる、船に追随する大きな魚の影を見たなどである。
この様な噂を艦長以下、士官たちは連日の任務により疲れによるものとして取り合わなかった。
むろん警戒を怠ったわけではない、何しろ今は戦争中、まして太平洋上の日本軍が忽然と姿を消したなどと言う異常事態が起こっている。乗員たち特に水兵たちが不安になるのも当然だと受け止められた。
むしろ、噂により士気が低下していることを重く受け止め、夜間の海上監視を強めていた。
そんな士官たちの思いをあざ笑うように29日の夜に事件は起こった。
当直中の士官を含む3名の乗員が姿を消したのである。
この時は目撃者がいた、証言によれば姿を消した乗員たちは何かに襲われたというのである。
それは海中より音もなく艦上に這い上がってくると三人を海に叩き込み自分も海に飛び込むと姿を消してしまった。
海に落ちた三名は必死に助けを求めたが、水中から伸びてきた何かにあっという間に夜の海に引きずり込まれていった。
こうなって来るとただの噂と笑っているわけにはいかなくなった、武器庫が開けられ乗員を武装させることになった。
グアム島へ引き返すと言う意見もでたが、「海から来た化け物に、乗員が襲われたから戻りました」
などと言ったら乗員一同病院に送られるか、悪くすると命令違反で軍法会議にかけられる可能性すらある。ここは危険ではあるがジグザグ運動での航行を止め最短でレイテへ向かうこととなった。
30日の00時それはおこった、突然に艦の航行スピードが鈍くなりそのまま航行が止まってしまったのだ。
調べるとスクリューの破損が原因だとわかった、すわ敵潜水艦からの攻撃かと思われたが、爆発音を聞いたものは居ない。
ただでさえ謎の化け物に狙われているのになんたることかと応急修理にかかろうとした時、第2撃目が艦を襲った。
船底より、鉄を無理やり引き裂く様なギギギーという音がしたところで、浸水発生の報告が艦内に響き渡った、続いて艦内の電源が消失、機関室への浸水が報告が艦橋にもたらされた。
雷撃を受けたわけではないその証拠に爆発音は一切しなかった、そうは思いながらの急ぎ隔壁閉鎖を指示する艦長の耳に艦内に響く銃声が聞こえた。
「艦長ー、外を、外を見てください」
悲鳴を上げるような副長の声に外を見ると、そこには甲板に這い上がろうとする何かがいた。
「なんだあれは」
インディアナポリス艦長チャールズ・B・マクベイ3世大佐はそう言うのが精一杯だった。
己の脳が状況を理解することを拒んでいる、それもそうだろう、身の丈3メートルはありそうな魚とも人ともつかない名状しがたき存在が己の船に這い上がって来る、そんなものが現実に起こるわけはない、そのはずだ。
大佐の思いをよそに這い上がってきた魚人?たちは発砲を続ける乗員に掴みかかると次々に海へ放り込んでいく。
「総員、白兵戦用意、甲板に上がれ、奴らを艦内に入れるな!」
一瞬呆然としてしまった大佐であったが、海軍軍人としての責務を思い出し声を張り上げた。
「これは海戦といって良いものだろうか?」
沈む夕日に照らされた、沈みゆくインディアナポリスを遠く眺めながら、旧伊58艦長橋本以行はそんなことをポツリともらした。
化け物(自分たちの事だが)に襲われ泣き叫びながら海に叩き込まれた米軍人たちを思うと、いっそひと思いに沈めてやったほうが良かったのではないかとさえ思えてくるのである。
「死んでしまっては何にもなりません、感傷よりも家族が増えたことを喜びましょう」
橋本のそう呼びかけたのは回天搭乗員だった、林義明 一飛曹だ。
「暗い海のそこでサメの餌になるより、我々と共に家族の一員になる方が彼らにとっての幸福でしょう。なに、彼らも海軍軍人です家族となれば鉄の塊に乗って海を航海するよりも、自由に海を泳ぐ楽しさに夢中になりますよ」
そう言うとポチャリと音をたて林は海面に潜り込んだ。必死の兵器に乗り、出口のない海に漕ぎ出すことを余儀なくされた男は誰よりも肉体の変化を楽しんでいた。
「それもそうか、こうなったからにはもう楽しむしかないか」
林の言葉を受けた橋本はそう言うと海中に泳ぎだし新たな作戦へと思考を切り替えた。
海軍特別潜水実験部隊、その体を海に適合させた大日本帝国の新たな海の群狼たちが去ると、獲物となったインディアナポリスはその姿を海中に消した。
不幸な事故で海に落ちた、だが不思議なことに誰も海に落ちた音や救助を求める声を聴いたものはいない。
その日より乗員たちより、奇妙なうわさが立ち始めた。
なにかが自分たちを狙っている、甲板作業中に海上より視線を感じる、船に追随する大きな魚の影を見たなどである。
この様な噂を艦長以下、士官たちは連日の任務により疲れによるものとして取り合わなかった。
むろん警戒を怠ったわけではない、何しろ今は戦争中、まして太平洋上の日本軍が忽然と姿を消したなどと言う異常事態が起こっている。乗員たち特に水兵たちが不安になるのも当然だと受け止められた。
むしろ、噂により士気が低下していることを重く受け止め、夜間の海上監視を強めていた。
そんな士官たちの思いをあざ笑うように29日の夜に事件は起こった。
当直中の士官を含む3名の乗員が姿を消したのである。
この時は目撃者がいた、証言によれば姿を消した乗員たちは何かに襲われたというのである。
それは海中より音もなく艦上に這い上がってくると三人を海に叩き込み自分も海に飛び込むと姿を消してしまった。
海に落ちた三名は必死に助けを求めたが、水中から伸びてきた何かにあっという間に夜の海に引きずり込まれていった。
こうなって来るとただの噂と笑っているわけにはいかなくなった、武器庫が開けられ乗員を武装させることになった。
グアム島へ引き返すと言う意見もでたが、「海から来た化け物に、乗員が襲われたから戻りました」
などと言ったら乗員一同病院に送られるか、悪くすると命令違反で軍法会議にかけられる可能性すらある。ここは危険ではあるがジグザグ運動での航行を止め最短でレイテへ向かうこととなった。
30日の00時それはおこった、突然に艦の航行スピードが鈍くなりそのまま航行が止まってしまったのだ。
調べるとスクリューの破損が原因だとわかった、すわ敵潜水艦からの攻撃かと思われたが、爆発音を聞いたものは居ない。
ただでさえ謎の化け物に狙われているのになんたることかと応急修理にかかろうとした時、第2撃目が艦を襲った。
船底より、鉄を無理やり引き裂く様なギギギーという音がしたところで、浸水発生の報告が艦内に響き渡った、続いて艦内の電源が消失、機関室への浸水が報告が艦橋にもたらされた。
雷撃を受けたわけではないその証拠に爆発音は一切しなかった、そうは思いながらの急ぎ隔壁閉鎖を指示する艦長の耳に艦内に響く銃声が聞こえた。
「艦長ー、外を、外を見てください」
悲鳴を上げるような副長の声に外を見ると、そこには甲板に這い上がろうとする何かがいた。
「なんだあれは」
インディアナポリス艦長チャールズ・B・マクベイ3世大佐はそう言うのが精一杯だった。
己の脳が状況を理解することを拒んでいる、それもそうだろう、身の丈3メートルはありそうな魚とも人ともつかない名状しがたき存在が己の船に這い上がって来る、そんなものが現実に起こるわけはない、そのはずだ。
大佐の思いをよそに這い上がってきた魚人?たちは発砲を続ける乗員に掴みかかると次々に海へ放り込んでいく。
「総員、白兵戦用意、甲板に上がれ、奴らを艦内に入れるな!」
一瞬呆然としてしまった大佐であったが、海軍軍人としての責務を思い出し声を張り上げた。
「これは海戦といって良いものだろうか?」
沈む夕日に照らされた、沈みゆくインディアナポリスを遠く眺めながら、旧伊58艦長橋本以行はそんなことをポツリともらした。
化け物(自分たちの事だが)に襲われ泣き叫びながら海に叩き込まれた米軍人たちを思うと、いっそひと思いに沈めてやったほうが良かったのではないかとさえ思えてくるのである。
「死んでしまっては何にもなりません、感傷よりも家族が増えたことを喜びましょう」
橋本のそう呼びかけたのは回天搭乗員だった、林義明 一飛曹だ。
「暗い海のそこでサメの餌になるより、我々と共に家族の一員になる方が彼らにとっての幸福でしょう。なに、彼らも海軍軍人です家族となれば鉄の塊に乗って海を航海するよりも、自由に海を泳ぐ楽しさに夢中になりますよ」
そう言うとポチャリと音をたて林は海面に潜り込んだ。必死の兵器に乗り、出口のない海に漕ぎ出すことを余儀なくされた男は誰よりも肉体の変化を楽しんでいた。
「それもそうか、こうなったからにはもう楽しむしかないか」
林の言葉を受けた橋本はそう言うと海中に泳ぎだし新たな作戦へと思考を切り替えた。
海軍特別潜水実験部隊、その体を海に適合させた大日本帝国の新たな海の群狼たちが去ると、獲物となったインディアナポリスはその姿を海中に消した。
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