裸日本本土決戦 

ボンジャー

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第十話 空ではあなたの悲鳴は聞こえない

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 1945年8月6日 日本帝国にとどめを刺すべく派遣された超空の要塞、B29エノラゲイの乗員は任務を無事に終えた安堵に包まれていた。



 日本本土に対する史上初めての核攻撃、この重大任務を成し遂げた達成感は、巨大なきのこ雲の下にいたであろう数十万の人間を、自分たちが吹き飛ばしたことに対する一抹の罪悪感も吹き飛ばしてくれると。



 

 エノラゲイ機長ポール・ティベッツは困難な任務を見事やり遂げたクルーたちへの感謝と共に、これで戦争は終わると楽観的な気分になった。

 

 いくらしぶといジャップ達でも、この様な攻撃を受けて抗戦し続けられはしないだろう。聞いたことによると本国では今投下した原子爆弾が量産中だという、もし今回の攻撃で白旗を上げなければ彼らの頭上には原子爆弾の雨が降ることになる。

 

 願わくばそのような事態にはなって欲しくはない、いくらなんでも一民族を絶滅させるようなことはしたくないものだ、自分たちはナチではないのだから。



 彼はそんなことを考えていた。



 その時である、尾翼近くに何かが当たる衝撃が響いた。

 

 迎撃か!いくら重大任務をこなして嬉しいからといって気を抜き過ぎた。

 彼は警戒を怠った自分への怒りもあり後部機銃座に無線で怒鳴りつけた。



 「ジョージどうした!敵機か?ジョージ敵はどこから来た」



 返ってきた返事は悲鳴と機体が避ける音、そして猛烈な風の音であった。



 「後部機銃がやられた!くそっ・・誰か敵機を見たものは居ないか?ジェイコブ、レーダーに何も映らなかったのか」



 彼は一瞬、戦死したであろう後部機銃手の黙とうを捧げると己の任務へと意識を切り替えた。



 「レーダーに反応なし、こちらのでは誰も敵機を確認できていません」



 レーダー手の報告に、では高射砲のまぐれあたりかと考えをめぐらした時、レーダー手から報告が入った。

 

 「ちょっと待ってください、後方の交通パイプから音がします・・ジョージの奴かもしれない、確認します」

  

 B29はスーパーフォートレスの名前が記す通り、巨人機と言う他はない大きさを誇る爆撃機である。

 その巨体には米国の最新科学の粋が込められている、それ故か機体内部は意外に窮屈で、移動は交通用のパイプを通して行われる。

 

 この交通パイプ、人が腹ばいになり這いずって、やっと移動できるほどの狭さである。人が中を通っているかどうかくらいは近くに居ればすぐわかる。



 それに、後部との連絡通路はレーダー手の真後ろである、レーダー手のジェイコブ・ビーザーはジョージが自分の後ろにいると思うのも無理はない話であった。



 「おい、勝手なことをするな、聞いてるのか!敵機がいるかもしれないんだぞ」

 

 全員気が緩み過ぎだ、怒りを覚えながらレーダー手に向けた通信に答えるものはいない、もう一度呼びかけようとした時、かれの耳に聞こえたのは胴下機銃手の動転した声だった。



 「機長、ジェイコブが連れてかれた、化け物だ、化け物が入ってきて、ジェイコブの奴が」

 

 胴下機銃手のロバート・H・シューマードの声はひどく動転していて言っていることも要領を得ない。



 「落ち着けロバート、いったい何を言ってる、化け物?ここは空の上だぞ、気を確かに持て」



 やはり、何がしかの攻撃を受けて機体が破損したのだろう、急な減圧でジェイコブが放り出され錯乱したに違いない。



 ポール機長は彼を落ち着かせるべく言葉をかけようとした時、悲鳴と銃声が無線から響いた。



 しばし呆然とする機長に副操縦士のロバート・A・ルイスが呼びかけた。



 「機長、銃を貸して下さい、自分が確認しに行きます」



 「ルイス、お前まで何を言ってる」



 「念のためです、後ろで何かが起こってるのは確かなんです、誰かが見に行く必要がある」



 副操縦士の覚悟を込めた言葉に機長は無言で非常用の拳銃を手渡した。何かが起こっている、信じたくはないが、本当に化け物が機内にいるのだろうか。



 頼むと言いかけたとき、バキバキと音をたてて交通パイプから何かが迫って来る音が確かに聞こえた。

 機長が振り返ると、自分たちの後方にいる無線手と航法手が叫び声を上げて何者かに交通パイプに引きずり込まれていくではないか。



 この光景を見た一同は覚悟を決めた。どの道逃げ場はない、ここで奴を仕留めるか、奴を道ずれにしてやるかである。



 化け物を迎え撃つべく後方に行った乗員たちが去ってしばらくのち、機長の耳に銃声が届き、そして周囲は静かになった聞こえるのはB29のエンジン音のみである。



 己が一人になった事を悟った機長は、奴を道ずれにするべく操縦桿を握りしめた。



 野郎が入ってきた、すぐ後ろに奴の息が聞こえる、俺の大事な乗員を殺しやがった野郎の息が。

 だが、それもここまでだ、独りじゃ死なねぇ、てめぇも道ずれだ。



 機長は目を瞑ると操縦桿を思い切り押し込んだ。



 なんだ?機首が下がらない、一向に下がらない高度に目を開けると、操縦桿を握る己の手を包む様に、かぎ爪のある毛むくじゃらの手が操縦桿を握っている。



 恐怖と困惑に包まれる彼の頭の上から嘲るような声が聞こえる。



 「うぇるかむ じゃぱん あー ゆー ふぁみりぃ おーけー?」



 エノラゲイ機長ポール・ティベッツは絶望の叫びを上げた。

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