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第十七話 帝都衛兵隊二十四時! 凄惨なる聖餐!邪教本部摘発にカメラは迫る!

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 「開けろ!衛兵隊だ!」



 帝都の治安は猖獗を極めつつある。殺人や暴動などの凶悪事件は少なくなっていたが、その代りに麻薬汚染とカルト宗教の台頭が著しいのが、今の帝都の現状だ。



 「構わん!ぶち破れ!」



 此処は商業地区にある、とある大商人の持ち物になっている邸宅だ。長い内偵調査の結果、ここで邪教崇拝と、麻薬使用、人身売買の疑いが濃厚になった為、衛兵隊は総力を挙げて大捕り物を行おうとしていた。



 鎖帷子に皮兜、鋲入り軍靴で身を固め、短剣と長盾を持った完全武装の衛兵が打ち破られた扉より殺到する。踏み込んだ。その先に有ったのは淫猥で退廃的としか言えない空間であった。



 立ち込める月光草の煙、幾人もの男女が裸で混じり会い、貧困と飢えが日常の、スラム街が広がりつつある帝都からすれば、信じられない程の美酒と珍味が並べられている。



 「皇帝陛下よりの勅令である!神妙に縛に付け!」



 これまで賄賂で懐柔された貴族共の圧力で邪魔をされたが、今日こそ年貢を納めて貰う。此方には強い後ろ盾がいるのだ。皇帝陛下が跳梁する犯罪組織を一掃する為、第三皇子を臨時衛兵隊将軍に任じた今、怖い物などない。



 忽ち辺りは悲鳴と怒号が支配する修羅の巷と化していく。狼藉もの共は、刃を潰した短剣と盾で殴り付けられ、血まみれになりながら、捕縛されていく。



 小一時間は掛かった大捕り物の末、大部分の参加者は逮捕された、男は財産没収の上、ガレー船徒刑囚。女は奴隷か良くて帝都所払いの運命が待っているだろう。



 「いい気味だ」衛兵隊の兵士からすれば、そんな感想しか出ないだろう。真面目に仕事をしている自分たちが薄給で、魚醤で味付けした麦がゆばかり食べているのに、こいつ等は白パンとワインの生活、その上に邪教崇拝だと!舐めんじゃねぇ!



 「隊長、移送終わりました」



 「ご苦労。何人か残して後は戻れ、俺は調査の為に此処に残る。其れとな、略奪は懐に隠せる分だけしろと伝えろ、後で五月蠅い」



 「分かっております。では失礼します」



 「ん」



 あいつは付き合いも長いから大丈夫だろ。役得とは言え、俺たちは所詮下級官吏、後ろ盾になって下さる、皇子様のご機嫌を損ねる訳にはいかない。



 「それにしても、邪教ねぇ。あのあま、今度は何企んでいやがる」



 昨今、帝都で蔓延し始めた邪教のご神体、退廃の宴の中心に据えられた、エルフの裸婦像を見ながら、百人巡察官に出世した男は呟いた。







 



 「それはまあ、ご災難でしたねぇ。だから言ったでしょ、流行りだからと言って、そんなお遊びをすると、火傷するって。助かったから良いじゃありませんか、家に感謝してくださいよ」



 どうも、クライムサスペンス映画のラスボス事、エルフ娘です。私の決意から約四年、どうも話が拗れてきました。人間さんの欲望は凄いですねぇ。



 帝国に真の信仰取り戻せ作戦、又は婿殿教皇化計画は順調に進んでいます、、、、とは何時もの様に言えなくなってきました。



 私が今、サメの巣亭で愚痴を聞いておりますのは、商業地区での楽しいパーティの参加者様。それなりに、稼いでる商人さんなんですが、取引先との繋を付ける為行った秘密集会で酷い目に会ったと言うのです。



 運が良いですよこの人。あのバカ騒ぎは兼ねてより監視していましたので、家の息子がこの人を見つけて助けたのですが、危ない処でしたね。



 「怖い事は忘れるのが一番ですよ、今日はサービスしますから遊んでいらしたどうですか?私、今、暇なんですけど?」



 逃げられまた。命の危機に二度も会いたくないとの事。覚えてろよ。





 しかし、困りましたね。よもやこんな爆発の仕方をするとは思いも依りませんでしたよ。ご説明しますと、私の布教手段が間違えたのが原因なんです。刺激が強すぎたんですかね?



 婿殿教皇化作戦の第一段階として、私はサメの巣亭に入り浸っている、一番の破戒僧に協力を仰ぎました。ベットの上で。快く承諾してくれましたよ。彼、一応教会持ちでしたので役に立ってくれましたよ。



 エルフ帝国は、神殿や教会と言う物を、各都市に一つの大規模な物を持つ事で済ませていました。明確に神の存在を感じられる、エルフに取りまして、信仰は家族単位で行い、家長が言わばその家の司祭の役割を担っていました。神殿に求められたのは、大規模な宗教儀式と祭祀の監督運営です。



 対して、疑り深く心配性で想像力豊かな人間さんには、身近に己の信仰を確かめる施設が必要でした。何故か、確実に存在する神を信じられず、ともすれば、迷信に落ち込む人間さんをケアする為に、エルフ帝国は、人間さん専用の宗教形態を考えだしました。それが現在のエルフ式信仰人間派教団の前身組織になっています。



 宗教にしろ、哲学にしろ、広まるのに必要な物は、地道な努力と衝撃的な体験と私は考えました。希望と恐怖と言い換えても良いでしょう。このエルフ教に終末論は有りません。なにしろ出来たばかりの世界ですから、終末も何もあるわけない。ですので作ります。



 この部分は人間さんに丸投げしました、私がやると天罰が来ますからね。出来ましたか?何々、大内乱は神の罰、このままでは人類はエルフと同じ運命を辿る、飢饉と疫病はその予兆だ、滅びの時は近い。



 悪くないですね。私でさえ、生産力とインフラがこの二十年、ジリジリ下がって来ているのを実感してますので、一般庶民や明日のご飯も知れない人間さんには効くでしょう。OKです。



 先ずは下層民を狙いますよ。炊き出しと医療支援に合わせて辻説法を行いなさい。金の心配はご無用、悪事で貯めた金がタンマリあります。自分では使わないから増えて困ってたんですよ。



 此処までは良かったんです。問題が出たのは此処から。下層民ばかりを狙っていたのでは、影響力の拡大は望めません、私は新エルフ教の売りを考えました。



 集まって祈って、訳の分からないエルフ語擬きで、フニャフニャ説教するだけでは、皆寝てしまいます。そこまで熱心な人も食うに困らない中間層にはいません、そこで考えたのがサクラメントです。エルフ教には、そんな物無いんですが、この際導入しましょう。



 難しいのは駄目。エルフ名付ける訳もいかないので洗礼も駄目です、許し、、、誰の名前で?許しも何も、神様は、人間さんに地上の支配を許可している事になっていますし、後は、、、。



 聖体とかどうでしょう?聖餐式の事皆さんご存じ?あのパンくれる奴です。私、人間の子供であった時分、あのパン、聖餅が妙に好きでして、神父様の目を盗んで、全部食べた事がありました。後でエライ怒られましたが、いい思い出です。



 あれやりましょう。理由は、うーん、エルフをみじん切りにして食べて勝利を祝った故事?そんなの無いか。エルフが持ち逃げした力を取り返す儀式とかそんなので良いでしょ。どうせ千年もしたら元の意味なんて、皆忘れるでしょうし。ワインも使えます、グフフ、飲んだら度肝を抜きますよ。安易な考えでした。反省します。始めは良い考えだと思ったのですよ。私、ワインに混ぜ物をしたんです。



 人間さんが神様の事を、イマイチ信じられないのは、神様を感じる能力が無いからなんですが、これを補填出来るかと思いまして呪術を使いました。



 本来、聖餐は十字架に掛けられた、最強のジョニーの体を、聖体拝領、として分け合う儀式な訳です。日本の皆さまからすると、なーんかカニバルを感じてしまうかもしれませんが、肉をパンに、血をワインに見立てて行うこの儀式結構重要な奴なんですよ。



 私そこに細工したんです。肉は流石に分けたくないのですが、血なら良いかもと思いまして、ワインに神と結ばれている私の血をね、混ぜたんよ。良かれと思いまして。



 事前に相談したんですよ。誰にって?脳内通信で講師の先生方にです。お答えになられた先生が不味かったのですよ。



 「「血の儀式になんで、我らを呼ばないのだ?遠慮するな、ドンと相談しなさい。効果的でインパクトのあるやつを授けてやろう」」



 講師の先生は、基本的に、暇をしている地球の神々にお願いしているの言いましたよね?聖餐だからと言って、本家のロン毛のスーパースターや、そのお弟子はお忙しいので答えてくれないのですよ。



 アステカな神々が電話に出ちゃいました。それもやる気満々で。専門家ですから無下には出来ないんですよ。怖かったですよ。



 「ケチケチせずにどばっと使いたまえ、」



 「血だけ?皮は?授けるんでしょ?皮を剥いで授けなさいよ」



 「心臓は?心臓は生命よ?大丈夫!一日も寝てれば生える生える」



 「ジャガーに変えるのは駄目?戦士は喜ぶでしょ」



 「教会でやるのか?そこはピラミッドだろ常識的に」



 怖え。善意百パーな分、スゲェ怖え。この神々、私を神代の半神半人と誤解してますよ。幾らエルフでも、皮を剥いだり、心臓を抉って差し上げるなんてできません!



「「「ケチ!」」



 駄目な物は駄目です!死んじゃうじゃないですか!まだ子供も百人も産んでないんですよ!若い美空でオラ死にたくないだ!



 危うかったです。説得には時間が掛かりましたが何とかなりました。恍惚の中で心臓を抉り出す場面を脳内に送られた時にはクラっと来ましたが耐えました。あんな感じなんですね神代の中南米。



 それでもワインに一度だけ大量の血を混ぜる事は承諾せざるを得ませんでしたが、皆さまもトラロック先生にあの怖い顔で迫られてごらんなさい。ウンと言うしかないですよ。



 そして当日ですよ。酷い事になりました。もの珍しさに集まった人間さん達は、ワインを飲んで暫くすると、床を転げまわるやら、壊れたテープレコーダー、、、古いかな?の様に異言を吐き出すマシーンになるやら、服を脱ぎだして踊り狂うやら、衛兵隊が直ぐに飛び込んできましたよ。



 陰で見ていた私の脳内にサムズアップするアステカの神々。



 「「「物足りないが良い感じのフェスだろ」」



 私の血はペヨーテじゃないんですよ!どうしてくれるのですかこの有様!



 「「神と交信してるよ?」」



 あれは交信じゃなくてトリップと言うの!此処は帝都!チチェン・イッツァじゃなくて此処は帝都!



 



 キマッテル人々はグルグル巻きにされて連れて行かれました。私はこの事態に、サメの巣亭に戻って頭を抱えて、脱出できた破戒僧と善後策を考えていました。其の時です、店の扉をブチ破らんばかりの勢いで、飛び込んで来た人物がいました。一番初めに摘発されていた大商人の店の者です。



 「次いつやるんですか?直ぐにやるんですよね!あんな体験初めてだ!」



 邪教の宴に変わってしまった聖餐式ですが、効果は確かにあったようです。聞いてみますと、確かに彼は神様を感じていました。自分がコンドルになってたり、密林を駆け回るジャガーになっているビジョンを伴ってでは有りますが。



 念のため神様に確認しましたが、久しぶりに人間さんの祈りが届いたとご満悦。マジか、マジであんなので良いのか、すげぇな流石、神様とアステカの神々。



 



 ここで時間は今に戻ります。あの後、直ぐに帝都では密かなムーブが起りました。エルフの血の混じったワインを回し飲みし、月光草のお香を焚きしめて恍惚に浸る危ない儀式です。



 教会の方は、混ぜる血は一滴にしたところ、ボンヤリ神様の存在を知覚できる程度に抑えられたので、新エルフ教の信者も爆上がりしてますが、邪教の集いの方はねぇ。



 止められないんですよ。遂に中間層上層さえも汚染し始めてしまいました。お陰で婿殿の地位も上がっているにはいるんですが、、、これは予想外としか言いようがない。



 良い儲けにはなっています、実際の所。元手は血だけですし、あれしきの出血、お肉を少し多めに食べれば、次の日には傷も残りません。ですが。



 睨まれてるんですよ。これまで裏から暗躍する程度でしたから、衛兵隊や他派閥からは隠れていられたのですが、ここまで事が派手になると、勇気と献身を忘れない職業倫理豊かな人々からは睨まれます。



 邪教集団は、エルフの奇跡だの、真の信仰はエルフ時代に戻る事だの言って、近頃は何処から手に入れた物かエルフ帝国時代の像をご神体として崇めていますし、困りましたね。エルフ血酒の供給を止めますか?



 混乱を巻き起こしているのは良いのですが。うーん。どうしたもんでしょ?

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