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第二十六話 町はエルフの卵でいっぱいだ!

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 贖宥歴七十九年 四月一日 真実の告発者記す



 これを読む者よ、どうか真実を皆に知らせて欲しい。私は真実の告発者、嘗ては聖都に置いて神に仕えた物だ。名も知らぬ者よ、貴方がこの手紙を呼んでいると言う事は、無事この告発が人手に渡ったと言う事であろう。



 私がこれから述べる事を信じて欲しい、これは消して私の妄想などではない。私達は騙されているのだ、まやかしの荘厳さと神を騙る奇跡の技に。



 聖都、嘗て私が学び、今も猶、人類の信仰の灯として輝く町。騙されてはいけない全てが嘘なのだ。これを読む人よ、貴方は、もしかしたら聖餐の儀式に預かった幸運な者の一人かもしれない。神の存在を身近に感じ高揚する気持ちはよくわかる、私も嘗てはそうだった。だが教会は不遜にも神の奇跡を己の欲望の為に使っている事を知って欲しい。



 私は教会に置いてそれなりに地位のある人間であった、それ故に言おう、教会は神に、何よりも人類に大きな裏切りを働いている。驚かないで欲しい、そして失望しないで欲しい、天に負わします神は実在する、問題は神と人を結ぶ筈の教会が、その実、人類の手に無い事なのだ。



 地上に置ける神の代理を自称する教皇も、神の意志を運ぶ司祭たちさえも傀儡に過ぎない。エルフだ、エルフが全てを支配している。貴方は笑うだろう、此処で読むのを止めるかもしれない、だが、どうか信じて欲しいそれは真実なのだ。



 貴方は、教会の人間が、祈りを込めて作り上げていると言う、奇跡の産物たちが、何処から来ているか知らないのだ。病を癒し、若さを保ち、神を感じる事の出来る奇跡、教会が独占し、民に分け与える事で、絶大な世俗への影響力を得ているこれらの奇跡は全てエルフが人間に与えている、紛い物の奇跡である。



 教会の人間は神に仕えてなどいない。彼らはエルフの力に仕えているのだ。何より私は知ってしまった、聖帝陛下のご崩御よりずっとその至高の御座にはエルフが腰を下ろしている事を。



 私は恐ろしい、エルフは滅びて等いなかったのだ、嘗ての主人たちは奴隷たちに気づかれないまま何かを企んでいる。教皇の諮問機関である筈の円卓に座る、十三人はその殆ど既にエルフに取って変わられている事を貴方は知らないであろう。



 彼らは、人類を嘲笑いながら常に何かを策謀し続けている。私と勇気ある者たちは、力及ばずともそれに立ち向かったが、今では私しか、あの恐ろしい真実を知る者は残されていない。



 もし貴方がこの手紙を聖都で読んでいるので有れば、すぐにここを立ち去るのだ。貴方は聖都の地下と放棄された旧市街に何が潜んでいるのかを知らなければいけない。襤褸を纏った人物の影を見ていないだろうか?街中で排水溝から視線を感じていないだろうか?



 それはエルフの魔の手が貴方に迫っている証拠だ。雑多な人種が行きかう聖都に置いて、奇妙な恰好や、不自然な事態は当たり前に受け取られがちであるが、貴方が件の人物や視線を感じたならば、それは気のせいでも偶然でもない、貴方はエルフに狙われているのだ。



 奴らは夕闇と共にやってくる、下水を走り、屋根を飛び越え、貴方の家の地下室から隙を伺っているのだ。私の友人、勇気ある待祭が、悲鳴を上げて暗闇に引きずり込まれて行った事は、幻でも悪夢でもない。



 あの日、宵闇が迫る街角で私と彼をじっと見つめていた襤褸の影あれが忘れられない。青ざめた顔の待祭は近頃周辺で起こる奇妙な出来事を私に話している最中であった、よく観察しなければ分からない程巧妙に荒らされた自室、自宅の壁の片隅に記された小さく奇妙な文字、餓えた虎狼の視線を共同浴場で感じるとも言っていた。



 奴らは聖都の何処にでもいるのだ。だからこそ君よ、私達の志を継ぐ者よ聖都に滞在しているのであれば、直ぐに逃げるのだ。戦おうと等、絶対ににしてはいけない。現にもう一人の同志、聖都防衛連隊の士官は優秀な戦士であったが、ある日の晩から自室で煙の様に消えてしまった。



 駆け付けた私が見た物は、鞘から抜かれ掛けた剣と、壁に刺さる星型の、木で出来た投げナイフらしき物だけ、あれ程の腕前の男が抵抗一つできずにやられた事を考えれば、貴方がどれ程の腕前を持つものであろうと、逃げるのが最善としか私には言えない。(中略)



 



               (此処からは荒れた筆跡になっている)





 ああ、私にも最後の時が来たようだ。これを書き上げて数日後から、私の滞在するこの場所でも奴らの視線を感じるのだ。夜が来るのが怖い、唯々恐ろしい、逃げなけれいけない、何処か遠くへ。



 この手紙は宿の主人に金を握らせて隠させる事とする。願わくば勇気ある人物がこの手紙を白日の下に晒し、人々がエルフの支配から逃れ事を願う。ああ!窓









 



 「有り難うございます。これお代ね」



 帝都、、、今では聖都ですが。此処から人間さんの足でいける距離に逃げたくらいで、私達の情報網から逃れる事など出来る訳ないのですよ。



 裏切り、、、表帰り者は、直ぐに心ある宿の主人の密告で捕まえられる事ができました。私が聖都で行動し始めてから凡そ百年の時が流れ、聖都とその周辺での、都市エルフの地盤は盤石と言っていい物に変わっていますからね。



 婿殿始め、始まりの協力者の皆さまは、皆天に召され、大いなる混沌の向こうに旅立ちましたが、彼らが残した物は、これからも都市エルフを支えていく事でしょう。



 表帰り者君が正気度を失いながらも書いた手紙の通り、婿殿が付いた最高神祇官改め、教皇の位は皇帝に変わる聖都の主権者として地位を確固たる物にしております。勿論、第二代教皇は息子の王鷲がその位に付いていますよ。



 世俗の行政等は、市民の有力者と教会の人間からなる委員会が取り行っているのですが、それもまた、私たちの息が掛かる者か、ハーフエルフが席に着いております。



 始めは色々と揉めました。突然一方的に「はい帝国はお仕舞い!これからは神権制度に変わります!世俗は手放すので神聖と名の付く物は俺のもんね!」と言って素直に従う馬鹿はいません。



 帝国に形と言えど忠誠を示していた諸勢力は「お前馬鹿か?」と言う反応でしたし、実際に陛下御乱心!と聖都に連合を組んで攻め寄せて来た馬鹿もいました。



 まあ、何故か包囲戦の最中に糧秣が燃えたり、指揮官が尽く、謎の事故死を遂げたり、行方不明になったり、朝になったら三重防壁に首が掲げられていたりで、撤退していきまししたが。



 普通に攻略したとしても、一部が崩落したため人間さんの手で補修されたとは言え、エルフ帝国が作った三重防壁を破るには髭達磨の様に坑道を掘るか、皆様の世界で存在したウルバン砲でも持ってこない限り無理でしょうがこれはエルフからのサービスです。



 まあ、彼らも唯の馬鹿ではないので、兵糧攻めに切り替えて、経済封鎖を敢行してきましたが、此処は港湾都市聖都、しかも、入り江に植えた世界樹の子供が根を伸ばし始めた町です。



 下水迷宮を通り、海に流れ出る二十万の汚物は奇跡の力を受け、豊富な栄養となり周辺海域を肥やしていっているのです。聖都周辺の海は青々とした海藻の森に覆われ、魚は幾らでも近海で取れる、それを追って大型生物も現れる、海の猪等、原始の海にしかいなかった子達もいるのですから、どれ程、豊かな漁場かお判りでしょう。



 幾ら兵糧攻めをしようとも無駄無駄、百万都市で有った頃の廃墟を順次潰して都市鉱山と農園を開設、難民の皆さまにも職が必要です、これからはダーチャの時代だ!肥料は下水迷宮からくみ取ればOK、無駄に汚染を広げていた汚物問題も陸海と有効利用しますよ。



 婿殿が亡くなった頃には、聖都とその周辺は二十万を養い得るだけの自給自足体制を固めていました。そして、彼ら反抗勢力も、実際に効力を発揮する奇跡の産物を目にして、次第には態度を変えていきました。



 これには婿殿が生前努力を重ねていた事効果を発揮しています。酔いどれ破戒僧、枢機卿となった彼と協力し、テロの輸出もとい、新エルフ教の布教活動を行って行ったからです。



 地球世界に置いて、宗教勢力が力を失って行ったのは、世俗権力者が学問と権力のインフラを蓄え、それまで宗教が独占していた知識に自由にアクセスできる事に大きいのですが、この世界は古代が終わりを告げようとしている所、まだその段階には超えるべきハードルは多く、諸勢力も宗教の力に頼る部分が多いのが現状、嫌々でも最新のトレンドを受け入れない訳にはいきませんからね。



 これは都市エルフが人類世界に浸透を掛けるのにも大いに役にたちます。我らお呼びで無い異端審問官!我らの力は二つ!いや四つ!



 布教を隠れ蓑とした拠点づくり!各地に作れられる教会や神殿を利用した情報網!暗殺、破壊工作何でも来いの実力部隊としての姿!あとは、、、リクルート!



 「身寄りのないショタ何だってね君?エルフのお姉さんの所こない?」「尼寺を建立?どうよ見てくれ、この肉体美!ここはエルフハーレムとする!」「教会で出世したいんだろ?おら!エルフの婿になれ!」



 大っぴらにはしてませんよ、ですが、聖職者は妻帯禁止を旨にしましたので付け込む隙は幾らでもあるんです。ほら児童虐待だの性的なアレコレも防げて人間さんにも都市のエルフにもウインウインの関係でしょう。



 これでもし何処かで少年十字軍でも起こったら、その子らはエルフの森にご招待するかもしれませんね。







 さて遂にこの町を後にする時が来たのかもしれません。私は聖都でのエルフの揺り籠、世界樹の子供が大きく葉を広げた、この地で最も聖なる場所である、入り江に子供達を呼び出しました。



 帰り路ですか?世界樹の門を通って帰る予定だったんですが、まだどうも安定して無い用で、時たま空中に輝く鏡みたいな物が出たり消えたりしているだけで、迂闊に潜ると、次元と次元の狭間で胴体が泣き分けれするかもしれせんので諦めました。



 揃いましたか。この場に集まった子供達は三世代、二百人。私が最後に産んだのは、隊長さんとの奥さんの前での寝取りプレイで出来た子ですが、増えましたね。このままネズミ算的に増えてくれると嬉しいのですが。意外と一途な所が有る子が多いので、連れ合いを無くした傷が癒えるまで、時間が掛かるでしょうし、そう簡単に人口爆発はしないかもしれませんね。



 よく来ました、子供達。予想は付いているでしょうが、母から重大発表があります。



 「「帰るのか?」」



 そうですよ、海猫、海燕、可愛い私の娘たちよ。此処でやる事は殆ど終わりました。私が居なくなれば貴方たちが都市エルフの長となります。心配はしてません、貴方たちは優秀です、その役目を難なくこなすですしょう、



 「これでサメの巣亭は私の物」



 「姉さんずるい!私も宿六との思い出の場所の女将になりたい!」



 「姉の特権。お前は王鷲の補佐、それに、、アイツ、、戻る、、、、、捕まえ、、、」



 「分かった、諦める」



 何を二人で言ってるんですか?



 「なんでもない。森の兄弟に宜しく母さん」



 ええ、貴方たちの事は森の子供達にもちゃんと伝えておきます。貴方たちは彼らに負けない程の大きな氏族を打ち立てたと。



 「母ちゃん帰るのか?」「家の子の顔、見てから帰れば?一月も立てば生まれるぞ」「家の母ちゃんのお腹も大きいんだが、母さんが取り上げてくんないの?」



 悪ガキ軍団は相変わらずですね。ですが貴方た達も父になったのです、何時までも母がアレコレ言う事は無いでしょう。取り上げ親もねぇ、流石に名前のレパートリーも無くなって来ましたし遠慮しますよ、海縛りなんて無しです、これからは都市のエルフらしい名前を親である貴方たちが決めなさい。



 「おお!」「溝走り、屋根飛び、スリの早業、うーん、どれがいいか?」「忍び足か、女殺しはどうだ兄ちゃん?」



 子供に恨まれない名前にしなさいよ。エルフは、一度ついた名前を変える事を、千年はしないのが伝統なんです。女の子が、千年も「お化けネズミ」なんて名前でいたら可哀そうでしょ。



 「「「うーい」」」



 最後になりますが、此処に集ったものに、母としてではなく、エルフの指導者として言っておきたい事があります。此処に居ない子には後で教えてあげてくださいね。では。



 「都市の子らよ、人の欲と弱さを操る新しいエルフの氏族よ、増えなさい、そして人間の築く文明の中に広がりなさい。お前たちは人類がその弱さ故に群れる都市の捕食者です。惑わし、付け込み、同時に人類の弱さを愛しなさい。彼らは、お前たちの獲物であると同時に大切な隣人です。何れ彼らは追い込まれ逼塞し、都市に囚われる存在になるでしょう。嘗てのエルフ帝国と同じく。そして、其の時こそ、お前たちが、彼らの背に短剣を突き入れる時です。愛と慈悲を持って止めを刺しなさい、彼らが膝を付き、己の血で溺れた時、優しくその手を取り、同胞として迎え入れる事ができるでしょう」



 抽象的すぎました? ?マークでてます?要するに蜂起の時まで、良ーく人間さんを観察し、その弱さも強さも知っておきなさい、そして観察するには愛情を持ってしなさい、愛が無ければその行動を本当に理解する事等出来ない、そして事あれば躊躇せず、森の兄弟に生存権を奪われた、人間さんの文明に襲い掛かりなさい、コテンパンになってボロリンちょになったら人間さんも諦めてエルフを受け入れる他は無いと言う事です。わかりました?



 「やる事は変わりないと言う事だろう?脅し、篭絡し、裏切り者に仕立て上げる」



 「愛する云々は置いておくとして、狩りに観察は大事な事だ、どんな小さな獲物も侮ればこちらが死ぬ」



 「そも俺らは人間が好きだ問題ない。だが、獲物としてなら躊躇はない」 

 

 でしたら結構、期待してますよ。ではさらばだ!愛する子達よ!母はお前たちを何時でも思ってますよ。



 「早!もう出るの?」「村の連中に挨拶は?」「サメの巣亭の引継ぎ!」



 知らん!何時までも母を頼るな!このままいるズルズルともう百年は居そうだから良いの!さようなら帝都!君は、色んなイベント目白押しで飽きない場所でした。それでは皆さま、また逢いましょう!

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