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第三十話 奇祭 人間さん分捕り祭り

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 さて、この様に、森の周辺の村々から、人々を攫う悪夢の集団と化している、我ら森のエルフではありますが、ここでその文化に付いて幾つかお話しましょう。



 先ず、その婚姻方法、悲しいかな第五世代、第六世代まで増えている森エルフなんですが、未だエルフ同士の結婚は少数に留まっています。



 第一世代何かは、そろそろエルフの伴侶を持って欲しいのですが、相手が兄弟の子孫ですからね、難しい処です。子孫の方でも、口うるさい爺ちゃん婆ちゃんと、結婚しろと言われても嫌でしょう。



 こればかりは、遠く離れた氏族との、交流を待つ他はないのかもしれません。皆さまも嫌でしょう?幾ら美人でロリ婆でも、年がら年中顔を合わせている、ひいひいひい婆ちゃんと結婚しろと言われたら。



 何か一部で、「ドンとこい!」とか「良いから俺にロリ婆を寄越せ!」とか聞こえて来た気もしますが、そんなお人はエルフの森に御出で下さい。三食昼寝付きでお待ちしております、、、死ぬまで家に帰しませんが。



 そんな訳で、エルフの婚姻相手は、人間さんが主力打者。彼ら彼女らを略奪婚するのが森のエルフのスタンダードです。何時も何時も略奪している訳ではないですよ?



 話を聞きますと。アプローチの仕方も色々あるんです。



 一番は略奪ですが、そんな事を続けていれば、忽ち森の周辺から人間さんは消えてしまいますからね。森エルフはSDGSを考えられる種族、持続可能な資源として人間さんを利用しております。



 都市でしたらそんな事考えなくてもいいんですがねぇ。森に帰る前には、優良な人間さんの供給元として、教会が運営する孤児院を建てて、エルフ趣味を植え付けた子供の育成なども考えられてた位です。



 これより君達が使うオカズは褐色お姉さんお兄さんのみとする!耳が長い女若しくは男以外、受け入れられない体にしてやる!皆エルフを好きになるのだ!



 資源の乏しい森ではそうは行きません。何れ世界樹の門が安定したら、輸入も検討しようかしらん。



 ですので、略奪以外の方法としまして、遭難者誘致、孤児の保護、幾つかの村への生贄要求など、幅広い経営を森の子供は行っています。



 遭難者は皆さまも分かりますよね?森の糧、薪取に炭焼き、狩人、愚かにも好奇心を出した可哀そうな人間さん等、意外と多くの人間さんが森に迷い込んでくるのです。



 霧の森の浅い所は、確かに危険では有りますが、その豊富な植層と獲物、無限大にある木材が目当て人々はやってきます。我々が、獰猛すぎる生物を間引きするのは、彼らの誘致を目的としている部分も有りますから計画通りと言う訳。



 その次が孤児の保護。今の人類社会は厳しい世界です。森の周辺の人間さん、彼らは、好き好んで危険な森の傍で暮らしている訳ではありません。人類帝国の崩壊により、崩壊しつつある広域物流網と、治安の悪化は、弱い立場の人間さんを直撃し、農地を放棄する者、都市から逃げ出す者と、経済的弱者を産んでいます。



 霧の森の外縁に住むのはそんな人々。私が森へ帰還した時に目撃した、小さいながらも礼拝堂を建てられる安定した村等は少数でして、食うや食わずの村も多くあります。



 産んだ子供を育てきれず、だからと言って殺す訳にもいかず、思い余って森に捨てる悲しい運命の者もいるのです。なんて不幸なんでしょう!誰だこんな事態に追いやった奴は!悲しい悲し過ぎます。



 ですのでその子はエルフが保護します。現代エルフは共同での子育てがディフォルト、一人増えようが二人増えようがエルフのお母さんは気にしません。哀れな捨て子はエルフを兄弟としてスクスク育ち、やがては思春期を迎え、美しく若々しい兄弟もしくは弟妹に恋心を抱き結ばれると言うハッピーエンドを迎えるのです。目出度し目出度し。なんですか?弟妹の方の目が血走っている?獲物を狙う目?



 その説明は後、先に生贄要求に付いて話してからね。生贄!怖い言葉です。嗚呼怖い!食べられちゃう!ではご説明しましょう。



 貧しい村々は豊かな森の資源にアクセスするのも人食らう、、、、、一苦労な訳です。森の生き物はしぶといですから、そう簡単には倒れてくれません。前に見た、木の葉カエルも、矢でハリネズミにしなければ死にませんでしたし、もし近接で之を仕留めようとしたら、槍を持った健康な成人男子が五人以上は必要になるでしょう。



 森エルフに取っては、七つの子供でも倒せる相手に、この有様。飢えに苦しむことなく暮らせる期待を持って、悲壮な決意で魔の森に来たのに、美味しそうな獲物に手を出せない。出そうとすれば怪我人続出、下手をしなくても死人がでる。

  

 もう帰りたい、でも帰れない、食いたい、でももう狩りをする武器もない。そんな村民飢え死に寸前の時に、伝説の獣人は満月の夜にやって来るのです。では昔話に始まり始まり、



 



  ある満月の日。大きな獲物を抱えた化け物どもは、怯える村の近くで焚火を囲んで大宴会を始めた。村には霧の森特産クリ―チャーの焼ける良い匂いが漂い、何日も満足に食べてないお腹の虫は大暴動。



 恐れと恐怖に囚われながらも、生唾を飲み込み、空堀と土塀の向こうに、宴会を見せつけられる村民に、獣人は話掛けます。



 「さあ、なにをしているんだ人間よ。恐れていないで此処に来い。食おうではないか!飲もうではないか!」



 空腹を抑えきれず、一人の子供が飛び出します。後を追う両親、子供は夢中で獣人から差し出された焼肉に飛びつき貪るのです。追いついた両親も獣人が自分たちを引き裂くことなく、肉を差し出す事に驚き、そして彼らも飢えには勝てず、お肉を頬張る。



 なんと美味しいのでしょう!それはそうです、ここ霧の森の生き物は神代の生き物、その肉は滋味に富、人間世界では味わえない一品です。それを見ていた村人も我先に飛び出しパーティーに参加。お腹も膨れた所で、自分たちがどんな状況に置かれているか気づく始末。



 我を取り戻し、怯える村人に獣人は語りかけます。



 「美味かったか人間?では対価を貰おう」



 ああ自分たちは此処で食われるのだ。でも仕方がない最後に腹いっぱい食えて良かった。覚悟を決める人々、その耳に聞こえたのは、一瞬にして屠られる自分たちの悲鳴ではなく、長く長く村人を苦しませる、残酷で甘美な誘惑の言葉でした。



 「俺たちは一年に一度ここに来る。其の時、一人生贄を差し出せ。それを約束するならば、毎月、満月の晩、お前たちが食いきれない程獲物を持って来てやろう」



 そう言って彼らは去り。次の満月の日、獣人達は約束の通り、村人全員の腹を見たせる程の多くの獲物を抱えて村を訪れました。これを見た時、誰が逆らえると言うのでしょうか?



 こうして村は飢え死にの恐怖から逃れる事は出来たましたが、毎年、獣人に生贄を差し出す事となりました。その年の、生贄は一番最初に飛び出した少年、その次は生まれたばかりの赤子が、その次は老いた村長が、村人は自分たち獣人の家畜となっている事に気づきましたが、もう生贄の儀式を止める事は出来なかったのです。



 互いに対する疑念と疑惑に包まれて、丸々と肥え太りながら、今もなお生贄を差し出し続けている。お仕舞い。



 





 どうです?壊滅寸前の村々を救い、なおかつ継続的なお嫁さんお婿さんの収穫を可能とする、実にSDGSに叶った戦略です。貧困と飢えの撲滅!継続的な農業!皆幸せ!



 子供達も、この生贄ごっこを楽しんでいます。食われる!と思って怯え切った生贄役にドッキリ大成功!とやるのが何度やっても面白いとの事で、獣人役は順番待ちだそうです。立ち悪いな、私の血を引いているのだから当然ですかね?



 目を付けられた村の中には、不運な旅人を生贄にする村、開き直って獣人を歓迎し、難民を村に受け入れるふりをして、高価な獲物と交換し、富を蓄える奴隷商人の村等、ただではやられない人間さんの逞しさを見せる村も有りますから、霧の森外縁は一種の経済圏を構成しているのかもしれません。



 こうして獲得された人間さんはどうなるかと言いますと、森の中心に送られ処置を受ける事から、新しい人生の第一歩を始めます。殆どの人間さんは栄養状態も衛生状態も最悪ですからね。



 彼ら彼女らは、若返りの泉でよーく泥を落とされ、秘薬入りドングリキュケオーンを食べて心身の健康を取り戻し、シャーマンたちの手により、エルフの恋人の証である入れ墨を施され、既に森の住民となっている先達たちの元、霧の森での生活を始めます。



 森での人間さんの暮らしは穏やかでですよ。狩りなんかさせません、無理ですから。迷いの森の結界を一歩でも出たらそこは野生の掟まかり通るバトルゾーン、弱肉強食の世界なのです。



 逃げようとする奴はいるか?一年もここで暮らせば諦めます。外の世界と違い、此処は三食昼寝付きで寒からず暑からず、病は去り、老いも遠ざけられた楽園なのですから。



 それでも諦めないお馬鹿さん、、、、、意志の強い方は、特別コースがございます。エルフの仲間と森の中で一月サバイバルコースを体験すれば心はバッキバキに折れて大人しくなります。



 虚ろな目をして、担当教官に縋る事しか出来ない人間さんの顔を見れば、その効果は如何ほどの物か皆さまにも一発で分かるでしょう。後のケアだって任せて下さい。担当教官のエルフが一生面倒を見て差し上げます。どうです?皆さまも参加しませんか?



 こうして森の仲間になった人間さんは安全な採集や、皮なめし、機織り、保存食作りなどの軽作業に従事して頂き、最重要任務である子孫繁栄にご協力して貰う事になります。



 この百年形成された新しい文化として、森エルフの子孫繁栄行事は年一変の大きな祭りへと変化しました。普段結界の外で暮らしている若者が集まり、独身の人間さんや少数に留まりますがエルフ同士で交流(意味深)するのです。



 皆さま、私が森で捕らえられた時、私を燻そうとした玄孫たちを覚えていますか?彼らは罰として祭りへの参加を一時禁止されていましたよね?それがこの祭りです。



 一番初め、人間さんを森に迎え入れた時の事を思い出してください。私、催淫剤まで使ってファナティックな乱交行事を執り行いましたが、子供達は流石にあれは不味いと思ったのでしょう。



 奥手で、生物としてそこ如何なのよ?と思えるほど性的な倫理感を持つエルフの為、子供たちが思いついたのが婚姻と生殖をトロフィー行事とする事でした。



 嫁ないし夫を持たぬエルフは一人前ではない!そのチャンスはキビシーサバイバルを潜り抜けた者だけが与えられる!家族に会えるのもこの機会だけだ!



 まあ、エルフに取りまして一年なんぞ、三日かそこいらの感覚ですが、年若い子に取っては、久しぶりの再会と特別な行事と言う括りは興奮を誘う物がありますから、かなりこの制度、成功していると言えるのでないでしょうか。



 そして目出度くカップル成立し、愛の結晶ができますと、夫婦は子供が独り立ちするまで結界の内側で暮らし、子供が狩りに出かけられる年齢になれば、またエルフの妻無いし夫はパートナーを残し、サバイバル生活に戻る運びとなっております。



 年子を作って、年中入り浸るスゲェ奴もいるには居るのですが、この制度上手く回っております。不死の我らと違い、人間さんと一緒に暮らせる年月は短い物、一年に一度の再開は否が応にも燃えて来ちゃうんです。

 







 ??????



 「誰だ!おい誰かいるのか!」



 「おや、新入りか?その怯えようを見れば判るよ」



 今年の生贄に選ばれ、悍ましい獣人の腹に収まる事になっていた少年は、放り込まれた天幕と思しき場所で、訳知り顔の男に呼びかけられた。くじ引きでイカサマをしたであろう、忌々しい村長の息子の顔が思い出せるニヤニヤとした顔をする若い男。



 「そんな顔すんなよ。大方生贄にされた口だろう?ほら縄を解いてやる、目隠しもだ。ホントあいつ等、悪趣味が好きだよな、、、、俺も嫌いじゃないから、此処に居るんだが」



 「何ブツブツ言ってんだ!逃げないと!」

 

 此奴なんでそんな顔をしていられるんだ?俺たちはこれから食われるんだろ?少年は、獣人達が持ってくる、一抱え程もある牙猪の丸焼きに、自分たちがこれからなると分かっている筈なのに、ニヤニヤ笑いを収めない男に疑問符を浮かべる。



 「あんた、なんでそんな顔してるんだ?俺たちこれから食われるんだぞ!なんで笑っていられるんだ!」



 「ククッ、すまんすまん。でもなあ。いつ見ても同じ事言う奴を見てると可笑しくなっちまうんだ」



 少年の怒声に男は笑い声をあげて謝った。いつ見ても?そうか!此奴獣人の手下なんだ!此奴は人の肉の味を覚えた悪魔に違いない。でなきゃこうまで落ち着いていられる物か!父さんが言ってた、人の味を覚えた連中が獣人の手引きをしているって。こいつがそうに違いない。



 「何時までふざけてる?早く連れてこい」



 「あいよ。ほれ坊主、付いてきな驚くぞ、フフフ」



 ここで切り刻まれるくらいならいっそのこと。そう思い、目の前の男に飛びかかってやろうとした時、天幕の外から呼びかける者の声がする。駄目か、、、当然だろう見張りが居るんだ。諦めた少年は男に促されるまま天幕の外に出た。



 「引っ張るな!一人で歩ける!えっ?」



 そして声を失う。立ち並ぶ天幕とその間に行きかう人々。誰もが明るい顔をし、大きなお腹を抱えた者や、懐かしそうに抱き合う男女、周りには肉を焼く良い匂い。香辛料だろうか?少年が生まれてこの方嗅いだことのない不思議な香りもする。



 「なあ、おっさん?これは?」



 「どうだ、驚いたろ。そうだその顔、長い事、新入りの歓迎をやってるがいつ見ても良い。周りをよく見ろよ坊主、変なモンが見えないか?」



 少年の驚きに男は嬉しそうに言う。変なモン?見渡せばそこに居る人々の半分は見た事もない姿をしている人間ばかりだ。



 半裸に入れ墨、皆赤銅の肌をし、美しいと言って良い顔の横には長い耳が、、、、、。



 「エルフ!おい、おっさん!エルフだ!エルフがいる!」



 「そうさ、おうおう、目を見張ってまぁ。そうさ、此処はエルフの村だよ、、国と言って良いかもな、、何しろ広い所だ。」



 「でも俺、、獣人、、、あいつ等、、何処に?」



 驚きに言葉に詰まる少年に男は顎で向こうを見ろと示す。見れば獣の被り物を抱えた少女が駆け寄ってくる。



 「父!久しぶり!元気だったか?そいつか?俺の婿」



 「??????」

 

 少女は男に抱き付き、男を己の父親と言うではないか?その上、こっちを見て婿だと?なんだこれ?



 「おうそうだ。そろそろお前も大人の仲間入りだろ?大婆様に頼んだら、今度の獲物をお前の物にして良いとさ」



 男は、混乱の極みにある少年をチラリと見ると。少女、、、自分の娘であるエルフの少女に答えた。



 「そうか!御婆も良いとこあるな!いつも大爺とイチャイチャしてるだけでない。流石大婆。お前こっち来い」



 少女はそう言い、抱き付いていた父親から離れると、少年を引きずり走りだしていく。その力に哀れな少年は両足を地面に引きずりながら連れ去れて行った。



 「おーい!後で返せよ!まだ儀式も終わってないんだ!そこいらで襲うな~死んじまうぞ~」



 「は~い」



 遠くなる少年と少女に呼びかける男。周りの男女も微笑ましい物を見るように少女を眺めている。



 「まったく、まだ子供だねぇ。それにしても時が立つのは早いや、俺も孫を持つ歳か、、、」



 男は嘗て生贄として連れて来られた時を思い返し、感慨深く呟いた。あの少年も何れは自分と同じように、此処を受け入れ、新しい家族となるだろう。その後ろから声が聞こえる。



 「まだそんな歳ではないぞ夫よ。新しいのが出来た」



 「マジか!これで暫く一緒に暮らせるな!初孫と餓鬼が一度に出来るとはねぇ」



 後ろを振り返れば愛しい妻がいる。新しい子供を授かりまた暫くは一緒に暮らせるのだそうだ。幸せだなぁ俺は。男はそう思うのだった。
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