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第三十一話 アブラオオメニクヤサイマシマシ

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 唐突ですが、面白愉快な森エルフの婚姻と生殖に付いてお話しましたので、今度は食文化に付いても少し触れるとしましょう。



 前述しました、人間さんがエルフに婿入りする際食べる、ドングリ粉製キュケオーンも新たに生まれました食文化。オリジナルとは大きく違いますよこれ、特にボリュームの面が凄い。



 一言で例えるならば「へいらっしゃい!コナアブラニクヤサイ増し増しキュケオーン一丁!」と言った具合。



 素焼きの大甕で煮られる、ドングリ粥の中には、大牙猪の脂身、山の鯨の塩漬け、野蒜をタップリと加え、其処に秘薬を少々、、これをウィッチドクターたちが時間を掛けてコトコトに煮立てて作る一品となっております。



 男衆が参加しない所に、本家たるキュケオーンの残り香が微かに漂っては居りますが、本家の神秘性からはかけ離れたバーバリアンな料理です。



 講師の先生方もこれをキュケオーンと認めるか?と喧々諤々の争いをしていましたが、巫女でもあるウィッチドクターたちの手で作る事、必ず魔法の秘薬を加える事を条件に認定マークを貰えた料理でもあります。キルケー先生は最後まで抵抗していましたが、、、、

 

 森のエルフの料理は万事こんな物でして、嘗ての繊細極まる料理は影も形もなくしております。焼く煮る蒸す位しかできませんが、後は量と素材の良さでカバーするのが現代エルフの料理です。



 ああ、刺身もありますか、、、、これは人間さんが食べれないので、勘定に入れてませんでした。忘れて貰いましては困りますが一応完璧な生物であるエルフは、病気と言う物をまず致しません。ですので寄生虫関係も無視できます虫だけに。



 てな物で、特に血気にはやる男衆は食べてますね、、、、生肉を、、、実は私も大好き。アレですよ私も昔は限界中年だったもので、レバ刺しやらユッケやらが大好きでねぇ。我が血を引く者達にもこれが遺伝でもしましたのか、モリモリパクパクしているのです。



 ですので肉膾は森のエルフの名物となっております。お兄さまは眉をしかめて、そんな物を食べるな!それでもエルフか!と怒りますが、からし菜とワイン酢でやると美味いんですよこれ。地球世界のもつ焼き屋で食べたレバ刺し何か目じゃありません!



 余談ですが注意喚起!あんなものは、食中毒上等の酒クズダメ人間が食べる物なんですよ皆さん。健康で文化的な生活を営む皆さんは食べては駄目です!フリじゃありませんからね!生で食べられる程新鮮なレバーはちゃんと焼いて食べましょう!お腹痛い痛いになりますよ!





 蛮族エルフはそんな物気にしないので、美味しく食べております。新たな美味を求めるエルフたちは、新鮮な獲物を探して日夜努力していますよ。最近人気なのは麒麟の生き胆!清浄な湧き水に生える黒山葵を食べている個体が最も美味しい!山葵を食べて満腹した胃を焼いても美味しいので、生が駄目な方も大いに満足する森の御仲間です。



 なに罰当たり?瑞獣を食うな?良いんですよ、この森には腐る程いますから、あっちも此方を見ると殺しに掛かって来るのでお相子です。食うか食われるかがこの森に住まう者の掟なんです。



 話てたら涎が出てきました。うーむ我慢できない、誰ぞ居るか!一狩り行こうぜ!男衆で腕が立つものを、集めなさい!今夜のご飯は麒麟ステーキと麒麟の煮込みあと麒麟刺しです!





 



 しー!静かに、向こうの大木の根元の所が見えますか?あそこで湧き水を飲んでいるのが、麒麟です。あの獣は霊獣と言って良い存在で、霊的位階が低い獣は彼らを襲いません、ですので警戒心は弱くは有りますが、敵意にには敏感です。特に殺生なんてする知的生物が近くに寄ろうものなら、その爪と牙でズタズタにしようとしてきます。



 昔は違いました。草食って生きていた頃のエルフに取っては正に友達、家畜化は出来ませんでしたが、心を通わせたエルフと麒麟は家族として暮らす場合もあつたそうです。頼み込む事で戦車を引かせる事も出来たそうですよ大昔はですが。



 しかーし、肉食って生きる今のエルフに取って彼らは獲物。絶滅?希少種?此処は混沌領域と接する森の中、世の常識の範囲を超えた頓智機時空のです。過去と未来と可能性が混じり会い、どんな貴重な動植物も文字通り湧いて出てくるのですから、遠慮なく狩らせて頂きましょう。



 狩りのセオリーに従い、我らは風下から半包囲する様に接近していきます。狩りの獲物は投槍とエルフ御用達の半弓が主ですが、男衆はブーメランやら投石機なども持っております。



 穂先や矢じりには黒曜石、これを森エルフの剛腕を持って投げ掛かれば、生半可な動物は串材間違いなし、地球世界でのアフリカの狩猟民に言わせれば、狩りの名人とは、必殺の間合いまで獲物に近づける豪胆で慎重な者なんですが、此処ではそれは少し違います。



 森の獲物はその殆どが気配に敏感で一たび此方に気づけば、手痛い反撃を食らわせて来る連中ばかり、逃げるスピードも凄まじく、本能として奇跡の力を振るい、霧や風を纏い逃げる技まで使ってきます。



 ですので彼らの間合いの外から必殺の一撃をお見舞いする事が肝要です。ほら、御覧なさい、麒麟の奴、顔を上げて辺りを警戒し始めました。虫の声が小さくなったのでも聞こえたのでしょう。殺気を感じたのかもしれません。



 空気の揺れや、我々の僅かな息遣い、目には見えずとも感覚で魂の気配を感じているのかもしれんせん。森の生き物はこうだから厄介なんです。



 もう少し近づきたいですね。私は周りの男衆に目で合図、彼らは音もなく散開、木々の影に入り込み己の姿を隠す者もいます。



 良いですよ子供たちよ、私のいない間、彼らの技は各段に進化しているのが分かります。森の拡大と原初への回帰に適応した森エルフは、人間さん達は想像にも及ばない程、熟練で冷酷な狩人へと変わってきているのです。



 さーて、もう少し。私が槍を投擲しようと握り締めたその時です。麒麟と目が会いました。此方との距離は五十を超えているでしょうが確かに会ったのです。私も未熟ですね、千里眼を持つ我らと同じく、彼ら獣も同じような事が出来るのを忘れてました。



 麒麟の奴、前足で地面を掻く動作を、、、マズ!



 「放っ!うげぇ!」



 ドカン!私が攻撃合図を言った直後、近くを雷が直撃、痺れる~。これですよ、今や、森の生き物は限定的ながら奇跡の御業を使うまでなっています。麒麟でしたら逸話の通り、周囲の天候操作。斑虎でしたら暗闇の召喚と一体化など厄介で面白い事してくるんです。



 痺れて倒れる私の横から、数条の槍が光の如く麒麟に向かって投げつけられのが分かりました。此処に至っては隠れる事など無駄と言う物。



 持てる火力を最大限に投射し、後は白兵戦あるのみ。人間さんでしたら即死の一撃を受けた私も、及ばずながら、帝都で購入した鉄製短剣を抜きまして参加させて頂きます。



 一歩!二歩!三歩!捕まえた!どうです、驚いたでしょう麒麟さん?私たちだって縮地位出来るんですよ!



 「御婆!無茶するな!」「死にたいのか!」「歳考えろ!」



 同じく麒麟に飛びかかった男どもが好きに言いますが、気にしません。麒麟の鱗の間に短剣を捻じ込みその急所を狙っていきます。



 首筋に齧りついた私を援護しようと男衆も次々に麒麟に飛びつき、大地に押し倒して止めを刺そうとしているのが、振り回される私の目にも見えています。てか、こいつしぶとい!刃が通らない!鉄かお前の毛皮は!



 後ろ脚で吹っ飛ばされる者、振り下ろされる前足を避けようとする者、影から染み出し下腹に槍を突き込もうとする者、麒麟はエルフと言う名のアリに集られ、人間さんの間では、伝説の霊薬と伝えられる血を撒き散らしながら暴れ狂っております。



 五分程格闘のお時間の後、麒麟は悲しげな声を上げて大地に倒れました。止めは男衆の一人、母を心配して久しぶりの狩り参加した我が子、熱き鉄の繰り出した石斧の脳天への一撃。



 「取ったど~」



 勝利の雄叫び!ガハハ!エルフを甘く見るからですよ!我らは森の生態系、最大の捕食者なんですよ!逃げればいい処を素直に挑んでくるとは愚か者め!



 しかし、、、解体される麒麟を横目に、私は周り、、狩りの参加者を見渡します。手に持った武器はボロボロ、始めに投げつけた投槍や矢は、半分以上が欠けて落ち、怪我をした者もいます。



 いけませんねぇこれ。如何に麒麟が森でも上位の獲物とは言え、私含め八人掛かりで怪我人まで出してしまうとは。



 矢張り武器が貧弱なのが問題です。磨製石器や打製石器では無理が出てきています。もしこれが黒鉄装備の髭達磨でしたどうでしょう?あいつ等の黒鉄の前には、毛ほどの傷も与えられないのではないでしょうか?



 勿論、人間さんの貧弱な鉄器や青銅器でしたら問題はありません。鎖帷子程度、兜事、エルフの振るうマクアウィトルは両断出来るでしょう。それは自信が有ります。



 ですが、これから我らは、髭達磨や筋骨隆々で分厚い装甲を身に纏う事を苦にしないオークを相手に回して戦う事になるのです。如何に遠距離から、鎧の隙間目掛けて、雨あられと投射武器を撃ちこめる今の我らとしても苦戦は免れないでしょう。



 森の生き物の大型化もこれで止まる保証はありませんし、、、うーむ。どうしたもんですか?矢張り、此処は文明レベルを上げる時が来たと言う事なのでしょうかね?



 「どうした母よ?珍しく思案顔だな?」



 「失礼な子ですね!母は何時でも深ーく考えているのです!何時も何時も勢い任せに見えるのは気のせい!貴方も長ならそれ位分かりなさい!」



 失礼な事を言う息子の返しながら、私は森エルフ強化案を実行する事を静かに決意したのでした。



 「そこ!それは一番槍であるこの私の物です!逆鱗の裏は一番美味しいんですから、勝手に持っていくな!」



 「嫌だ!」「独り占めはずるい!」「大人の余裕を見せろ!」



 まあ、いいや。今は目の前の事に集中しましょう。おいそこ!尻尾を捨てない!テールスープにするんですから!



 「深い事考えている様には見えないんだがなぁ」



 呆れ声の息子を後ろに獲物争奪戦へ私は突入したのでした。

 
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