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第三十一話 ぶらりエルフ妻一人旅 雪国編序章

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 狩りの成功から一夜明け、私は森の館に籠り、一人資料をひっくり返しております。これからのエルフの強化案について思案する為です。



 帝都、、、今は聖都と名前を変えた都市が、頓智機宗教改革に異を唱えた連合軍に攻められた事は、前にもサラッとお話しましたよね?



 あの時は、攻め込んできた人間さん連合の後方で、都市エルフが好き放題に暴れ回り包囲を瓦解させたのですが、包囲軍の方も大群ではありましたので、何度か聖都の三重防壁に取りつく事には成功していました。



 尽くが旧近衛連隊に撃退されましたが、私はその戦いぶりを特等席で見ておりました。侵攻してきた皆さま、殆ど相手になっていませんでしたねあれ。



 十はあった攻城塔は壁に取りつく間もなく半分以上が髭製弩砲にヤラレ、雨と飛んでくる機械式弩弓に盾は役立たず、破城槌は火炎壺で炎上、やっとこさ取りついたと思ったらそこに出迎えるのが黒鉄装備の兵団です。



 攻め手もどこから引っ張りだしてきたのだか、往年の兵団装備の者も多かったですが相手になっていませんでした。壁に卵をぶつけるとはああ言う事でしょう。



 野戦であればやり様も有るのでしょが、あれは攻城戦でしたから酷いものでした。攻者三倍の原則と言うもは有りますが、攻め手は三万は超えていた筈なのに、三千しかいない防衛側に手も足も出てませんでした。



 まああの攻撃が二度三度と続いていれば、疲労と弾切れで押し切れたのかもしれませんが、それでも万単位の総攻撃を凌いだ事は驚き。連合軍はその大軍のせいで、暗躍する都市エルフのゲリラ戦の前に撤退を余儀なくされた訳ですが、その戦いの様子は良い戦訓を新エルフに残してくれました。



 私はこれまで、量をもって人間さんに戦いを挑む計画でした。その考えは今でも変わっておりません。ですが、ある程度は質と言う物も必要なのではないか?と近頃考える様になっております。



 具体的には武器の質。今まで森のエルフは石器時代を生きて居りましたので、打製、磨製石器の武器が主力です。都市エルフは人間さんから盗むか買う事が出来るので鉄やら青銅を扱えますが、これから開催されるワクワク蛮族大運動会に必要な分は流石に確保は難しいでしょう。



 人類社会はエルフの後押しにより、斜陽の時代に向かっていきます。彼らがその時代に抗おうと必死に生産する分を取り合いしても大した数にはならないでしょう。今でも森の周辺にある村々では鉄器は貴重品、畑を耕すのも木星の鍬だの鋤だの使っている有様なのですから。



 何処かで安定した生産ラインを確保する必要があります。白金?無理!あれは白金の都の星の炉が必要なんです、それを再現するなんて技術も人員も有りませんし居ません。



 とっくの昔の技術者は皆殺し、炉は破壊され、永遠に燃えている筈の星火には水を掛けられています。あれ隕石の落下地点で拾ってきた燃えカスに月光で火を付けるんですよ?今の我らにそんな物悠長に待っている余裕ありません。



 当てはあるんですよ。大量に確保でき、それでいて強力、なおかつ蛮族にも安易に利用できる資源の当ては、でもねぇ、それが有る場所が問題なんです。



 





 「こればかりは連絡待ちですねぇ」



 「どうした御婆?一人事が多いぞ?」「飯はさっき食べた」「まだ昼、夜には早い」



 「失礼な事お言いでない!貴方方だって直ぐに私と同じ歳に成るんですよ!何度も言ってるでしょ!私達は不老で不死なの!何万年たっても呆けたりしません!」



 まったくこれだから若い子は!自分がエルフだって事忘れてるんじゃないですか?困りましたねぇ。仕方がないか、、、この子らの殆どは片親が人間さんですから。



 森の人間さんは見た目は若く保てても中身、特に魂の方は長生きに耐えられない様で、百近くなるとボケ始める人がいるんですよ。そんな親を見てると年寄りは呆ける者だと思ってしまうのでしょう。



 さて、私が今何をやっていますかと言いますと、子供達の引率。森から溢れ出た獣たちに踏みつぶされ、遂には森に飲まれた小さな町の廃墟を探索している所です。



 お馬鹿な事に、この町の領主は近づく森を燃やそうと火を付けたんです。森を燃やすのでした万の軍勢を用意しなければいけない所を経った数百の手勢でですよ。



 私達が気づいた頃には遅かった。森から出てきた山の鯨と蜥蜴竜のスタンピートに軍は四散、町も程なく廃墟になってしましました。



 今の人間さんは誤解しているようですが、原初の生き物は火を嫌ったりしないんです。寧ろ好き、邪龍の血を脈々と受け継ぐ獣たちは火を見ると寄って来る位。



 嘗ての人間さんはそこん所を理解してましたから、森を燃やすのはエルフを炙りだす為と割り切り、大軍をを用意して獣を駆逐しながら進撃してきたのです。

 

 まったく人間さん忘れっぽいんですから、ドンドン忘れて下さいね!出来れば文明事態も忘れくれると私嬉しい。



 流石にそんなことはないか。さてお目当ての物は何処かなぁ?



 「あったぞ!これ俺の!」「こっちも!これなんだ?金?要らない!御婆これやる」



 いらんわ!待ちなさい!捨てない!後でお母さんに上げなさい。喜びますよ。



 「金が?フニャフニャでナイフにもならないぞ?」



 それでもです。胸飾りにでもすれば喜ぶでしょう。



 「そうか、じゃあ取っとく。御婆もこれ好きか?」



 私は金より花の方が好きですね、でも人間さんはそれが好きなんですよ、それを巡って殺しあうくらいに。



 「うげぇ、、これを?母もそうか?」



 貴方のお母さんは違うでしょうが、森に生きる人間さんも矢張り人間さん、貰って喜ばない訳ではないでしょう。



 「そんなもんか?」



 そうですよ、其れには魔力があるんです。どうしても人間さんや髭達磨を引きつける力と言う物が。さあ、まだ仕事は終わってませんよ?行った行った。



 「うん、御婆ありがと!」



 行きました。あの子が持って来たのは、金貨でしたが、あんな物まで置いて逃げねば行けない程、スタンピートが凄まじかった事の証拠でしょう。



 まあ、それは置いといて、お目当ての物は何か分かりましたか?そうです金属製品です。便利ですからね鉄や銅は。一度便利さに触れてしまうと引き返すのは難しい物です。地球世界でも、文明と言う物はこんな風に広まって行ったのでしょう。



 人類世界が徐々に森の侵攻を受けていくにつれ、我ら森エルフもその恩恵に預かれる様になってきています。それが現在行っている廃墟漁りです。もっと積極的な子は徒党を組んで治安の悪化に伴い街道に出没している賊のアジトを襲撃している子もいます。



 食い詰めた村が丸ごと盗賊団に鞍替えしている場合も多いので、婿取り嫁取も兼ねて行う成人の儀式と行った具合。そんな村でも意外と金属は持っているので我らエルフにはお宝の山なんですよ。



 ナイフ一本で行くのが勇気の証とか言ってましたね。男も女も森エルフは尚武の伝統が出来つつあります。森エルフはスパルタの皆さまをリスペクトしてしているのです。



  ですが、そんな収穫作業も頭打ち。今のエルフには採掘技術も製鉄技術もありません、拾ってきた金属を熱して再利用するのが精々なんです。略奪するのも拾ってくるのも限られた資源に回収なんですから当然でしょう。



 技術を持つ人間さんを攫ってきて自作するのも無理。そもそも森の中で大規模伐採や炭焼きなんぞしたり、製鉄炉を拵えたりしたら、迷いの森の結界の中でさえ喜んで突撃してくる森の仲間が多いので無理無理。寒い時何かエルフや人間さんに混じって火皮サルや森犬、山九尾猫なんかは焚火に当たってる位彼ら火を恐れません。



 どうも熱量によって、寄ってくる生き物は変わってくるらしく、ある森の人間さんがレンガを作ろうと簡単な炉を拵えた所、突撃してきた白獅子に炉を破壊されると言う事件もありました。



 どうやら千度に近くなる程森の生き物は興奮すると最近分かってきました。これは恐らく大本の邪龍君の体温に近いからではないでしょうか?己の血に流れる僅かな龍の血が懐かしさを爆発させているんでしょうかね?



 森に侵入してくる炭焼きなんかは勇気がありますよホント。伏せ焼きですから土に埋めて放っておくとしても取りに戻った所で、愉快な森の仲間と鉢合わせする事も多いのに凄い勇気です。



 



 



 「どうしたものですかね?」



 外からは僅かな虫の声、風に揺れる木々のざわめきと、三つ目鳥の鳴き声が遠く聞こえる夜になり。子供たちの引率を終えた私は、館の自室で呟きました。原始共産制を取っております我が森エルフにも、文明との接触で財産の概念が生まれつつあると言うのですから、頭を悩ませる私が独り言を言うのも無理はありません。断っておきますが、呆けているんではないですからね。



 「今は自慢しあう位ですが、貧富の概念が出来るのは困りものですよね~」



 そうなんです。便利な金属を手に入れられる様になって、子供たちの中にはそれの所有量を巡って些細では有りますが、争いすら起こる様になって来ているのです。



 「特にハーフエルフの子がねぇ、、、エルフの血が入ろうと矢張り人間に近い者はどうしてもねぇ」



 使い古した椅子の背もたれをギシギシさせながら、考えるのはハーフエルフの問題です。この椅子も随分と使い込んできたからガタがきてるな、、頑丈なエルフ帝国製でも二百年使うと流石に駄目ですね。



 「作り直すか?今度は毛皮と骨でできた物にでも、、、、毛皮は矢張りアカガネ熊で、、、骨は影象の物でも使って、、、、、」



 そう、解決の糸口の見えない問題に現実逃避していた所、水晶ガラスの窓を叩く音が聞こえ、私は窓を開けました。



 「なんですか?婆ちゃんいつも言ってるでしょう、急いでいても扉から入りなさいと。これでも乙女なんですよ窓から呼びかけるのはお止めなさい」



 窓の外、館を構成する一部でもある古樫の梢に居たのは、我が子孫、最近、、、と言いましても十以上前に生まれた第五世代の子供でした。



 「だれが乙女だ、、、、、大婆、長達が呼んでる、急ぎだ。村の皆も起きてるぞ」



 「急ぎ?山の鯨でも村に入ってきたのですか?だからいつも言ってるでしょう?火の始末はチャンとしなさいと、大方火事にでもなって火に釣られたのでしょう、、これだから若い子は、、おねしょしますよ」



 「違う!話を最後まで聞け!」



 「それは失礼しました。でっ、何の話ですか?鯨狩りでないなら私が出張る程の事でもないでしょ?」



 「、、、、!まあ良い、至聖所に来いと長が言ってた。帰還した者が居るそうだ。帰還って何のことだ?大婆以外に自分で自分を追放した馬鹿がいたのか?」



 「いる訳ないでしょ!そんな子!でも帰還ですか、そうですか、、、貴方、お兄さまにもその事を伝えて下さい。私は一足先に其方に向かいます」



 「分かった。ああっ!危ない!自分で窓から入るなと言って置いて飛び出すな!」



 御免なさいね!でも急ぎなんですよ!帰還ですか、誰が帰って来たとしてもこれ程嬉しい事はありません。私は窓から外に飛び出し、風を撒き月明りに照らされた夜の道を走ります。



 予感がします。これは新たな物語の始まりになるでしょう。そしてそれは私の旅がまた始まると言う事です。今度は何処へ行くのでしょうかね?先ずは帰って来た懐かしい顔に抱き付いてやる事から始めると致しましょう。

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