産むし 増えるし 地に満ちる 私がママになるんだよ!!

ボンジャー

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第五十六話 鈍器をは持ったな!アザラシ狩りだ!

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 「あ~ちょい右、はい、そのまま、そのまま、あと一束分投げて終わりです」



 凡そ三百といったところでしょうか、私のつぶらな瞳に移りますのは、円陣とシールドウォールで空から降り注ぐ死に耐えるオークの皆さまであります。



 連れて来た女子供を含む後方部隊を除いても五千は超えていたであろう大部隊は、愚かにも美味し過ぎる餌と押せば引く弱弱しい敵を前に統制を失い、小部族単位でバラバラに別れて獲物を探しに出てしまったのです。



 敵陣地でばらけるなど愚の骨頂ですが、如何せん、筋肉思考をしているオークの皆さまにとりまして、好機を他部族に取られるなどあってはならな事態ですので、大族長クラスの抑えも効かないご様子。同士討ちを発生させてないだけ立派と言えるかもしれません



 下手に止めるとマジで同士討ちするんですよ彼ら、民族総猪武者。そこをトンでもにゃー暴の力で抑え込むのが族長の務めです。同士討ち覚悟で確保するプラスより、その場で族滅くらう事の方がマイナスな事くらいは頭に血が上った彼らでも分かりますから、大族長ともなれば、常に動かせる子飼いの執行部隊を暴と益で傍に置いているわけです。まぁ一緒に暮らして観察した結果大体暴が八割くらいですがねぇ。



 そんな大族長たちが従わせるより、手綱を離した方が良いと判断したんです。余程に切羽詰まっていたんでしょう。貧しいんですねぇ、辛いんですねぇ、窮鼠が猫を食いに来るくらには飢えているんです。げへへ。



 こちらが弱いとの読みもあるんでしょう。オークは一度掴んだ物をそう簡単には手放しません。奪われるくらいなら例え寡兵であってもギリギリまで抵抗します。押し返せる可能性がゼロでない限り彼らは諦めません。

 

 ですので、今まで彼らが略奪した裕福な村落が、抵抗一つせずに村を放棄するなどあり得ない事なのです。あり得るとすれば余程に人数がいないか、罠かのどちらか。



 罠と考えるだけの頭は持っているでしょう。ですがその合理性がない。自分達は略奪だけではなく征服に来たのであり、悪戯に逃げれば土地を失う。それを同じオークならば分かっているだろうになぜ?



 軍を分けたのは、だからなのかもしれませんね。辺り一帯に散らばったのが伏兵の潰されるのを確認してから、頭の回る族長だけで固まって伏兵ごと撃破するつもりなのでしょう。



 でも駄~目!そんな事、私も我が義理の娘である乙女ちゃんも許しません。オークの皆さんは理解できないでしょうが、こちらは二千を超えるエルフが投入可能です。主力であるブスゾネス軍団はその倍以上



 死ぬが良い!できれば半死位でで踏ん張ってくれると嬉しい!頭が取れたとか心臓無いとか以外ならなんとか救命できますから(森の奥で一生種馬生活が待ってるけど)



 

 私の眼前(それでも一キロ以上離れてますが)で耐えている部隊はバラけた部隊でもそれなりに有力な戦士団なのでしょう。雪の残る大地に赤い物を零し、かなりの人数が倒れていますが、負傷者を円陣内部に収容しながら耐えております。



 さっから何してるか?分かりません?あれですよ着弾観測って奴です。大砲はどうした?無線は?要りませんよそんな物、伝令もです。



 これは種族チートと知識チートの有効活用という物。千里眼で遠方から観測、種族総地獄耳のエルフ投擲部隊が遥か遠方から投槍を行っております。



 何故に弓でないか?言って無かったんですが、エルフの代名詞である弓、これ残念な事に今のエルフの主武装ではございません。我が子らは力一杯に弓を引くと絶対に壊すんよ。



 人間さんの使う最大の強弓でもダメ、帝国エルフの使っていた弓の製法は失伝、試しに作った竜皮製合成弓も十も全力で放てば弦が切れ、五十で本体が割れると散々でした。特に弦が持たない、緋熊、白獅子、獅子鷲、竜の腱でも駄目ですし、朝露蜘蛛の糸をより集めた品の良いのさえ耐久力に難あり。



 結論として、隠し持てる短弓を都市エルフが使う位で、長弓等、森の蛮族には運用不可能。その様な訳で現在のエルフの主な武器は投げ槍等の投擲武器になっております。



 兎も角、馬鹿力でそこに奇跡パワーが乗りますから飛ぶ。其処に投槍器なり投石紐等が付くと正に弾道ミサイルの如く飛ぶんです。



 マックスで五キロ位かな?チートと言って置いて何なのですがこれでも帝国時代には遠く及びません。帝国の「弓の司」たちは地平線の彼方から当ててきたと言います。勿論観測も無し修正射なしの一発必中で。 最盛期の帝国全体で千も居なかったと言うオチは付きますがね。



 こちらはそれには劣りますが数が違う。それは眼前のオーク部隊がハリネズミに転生し、遂に崩れた事からも明らかです。



 「はい、放ち方止め。止めを刺しますから集合!早くしないと死んじゃいますからね!駆け足!」



 撃ち方止めの号令を風に乗せ後方に伝えます。眼前のハリネズミたちは生き残った物もボロボロで息も絶え絶え、運の悪いのは転がっております。



 何と言う悲劇でしょう!これは早く救助しなければ!では子供たちよ狩りの時間です!そこの貴女!初めての参加の人ですね!刃物は仕舞いなさい!持つのは鈍器だけでは行きますよ!









 「終わったのか、、、、」



 誰知らず俺は呟いた。血を流していない奴は一人もいない。どいつも此奴も汗と地に塗れ先ほどまで続いた槍の雨が再開しないかと怯えている。



 そう怯えている。こんな事初めてだ。敵が見えない中ただ一方的に嬲られ翻弄されるなど自分たちに有って良い事ではない。



 嬲るのは蹂躙するのは自分達の筈だ。例え立場が逆になったとしても、せめて敵を死ぬまで睨みつけてから祖先の元に行きたい。全く意味の無い死など耐えられる物ではない、爺どもが酔っ払いながら話す城攻めでも挑むべき城なり街が見えていたと言うではないか。



 息が荒い。掲げた盾を貫き肩に刺さった槍の穂先、それが作った傷が痛む、いや冷たい、刃傷と言ったら焼ける様に疼くものだが、空から降ってきたこのクソ共はそうじゃない。



 普通、刺さった矢や槍は直ぐには引き抜かない物だ。急いで引き抜いて血が止まらなくなる時もあるからだ。だが此奴は違う。雪交じりの土に刺さった槍を蹴飛ばしながら、腹にささった槍を掴んで転がっている野郎をみる。



 野郎はさっきまで生きていた。それがどうだ、霜に覆われている。冬に作る貯蔵肉、一晩外に晒した干し肉はああいう色だ。



 最悪だ。訳の分からない敵に、どう考えても呪われている武器で俺たちは襲われている。早くずらかるべきだ。



 俺は体から熱を奪っていく傷を抑えて陣の中心にいる頭を振り向いた。この期に及んで何悩んでいやがる。あんたが嫌でも俺は此処で抜ける、こんな死に方では名誉も何もあったもんじゃねぇ。



 そう言ってやるつもりだった。だが声は出なかった。頭はまっすぐ遠くを見ていた。釣られて俺もそっちを向いた。それで分かった。俺たちは嵌められたんだ。



 嫌でも分かるさ。さっき迄なにも無かった雪交じりの場所、そこから土に汚れた白い狼の毛皮が迫ってくるんだからな。伏せてやがったんだあいつ等。



 もう一度俺はお頭を見た。お頭は無言で盾を捨て、背負っていた斧を引き抜いていた。覚悟を決めたって事だ。こっちを見るといっちょ前に顎をしゃくって前を見ろとやりやがった。



 テメェが間抜けだからここで殺られるんだろうがなにカッコつけてやがる。そう言いてぇがまあ良いか、少なくとも喧嘩して死ねる訳だ。俺は安心して一息ついた。肩の傷も、もう気にならねぇ。周りの野郎どもも同じようだ。



 敵はもう目の前だ。俺はこれから自分達を先祖の元に送るだろう相手を見た。狼の毛皮で覆われていても顔位はこの距離なら見える。その目を見た時俺を声が出ちまった。そりゃ出るさ。だってなぁ。



 「なんなんだよ。その目は!そんな目で見るな!こりゃ喧嘩だぞ!何だよそのいやらしい目!どこ見てやがる」



 目があった毛皮。その目は確実に俺の股ぐらを見てた。ああ絶対だ。賭けても良い。
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