WWW再設部隊

脳内企画

文字の大きさ
4 / 8
Chapter0 プロローグ

Chapter0-4 立ち上がり、止まらず走り続けろ

しおりを挟む

 ポスターは自らの意識がだんだんと薄れていくのを感じた。 
 吹雪の中の巨影は、ただポスターを観察するように静かにゆらめいている。

 倦怠感に耐え切れず、ポスターは雪の上に膝をつく。
 上を見上げると、巨影の姿と、その上に吹き抜けた夜空が目に入る。
 井戸の底に落ちたみたいだ。彼は朦朧とする頭で思った。

 夜空よりもずっと高い、宇宙と呼ばれる場所には、「人工衛星」と呼ばれるものが漂っているのだと聞いたことがある。
 いつか子供の頃に聞いた話をポスターはぼんやりと思い出していた。

 かつて人間には、テクノロジーによって個の知恵を別の個と接続し、共有していた時代があった。
 個の限界を破り、宇宙へと飛び出した知恵は、惑星を包み、さらなる繋がりを形成し、何もかもを支配していた。

 それがある時、大地が隆起し、それまでの人類の発展をリセットするかのように惑星は姿を変えた。
 海溝から火が噴き出し、プレートは変形し、島々を繋ぐ海底ケーブルは壊滅した。
 地上文明の土台は一夜にして崩れさり、多くの命と知識が失われた。
 当時の一連の災害は星の「再起動」と呼ばれ、地上にあった都市と都市の間は、地面の隆起によって形成された山脈に分断され、人々の繋がりも断たれてしまった。

 辛うじて残ったインフラと人工衛星を使い、人々は生きるほかなかった。
 それから長い時間が経ち、先人の技術も次第に壊れ、薄れ、人々の繋がりは完全に途絶えようとしている。

 体の力が抜け、吹雪の中で意識が薄れていくなか、背負った荷物が体から離れそうになっていることに気づく。

 これだけは失くしてはいけない!

 ポスターは慌てて荷を掴み直し、かろうじては意識を取り戻すことができた。
 ここで屈すれば、人々の繋がりは断たれてしまうのだ、ポスターは自分に言い聞かせた。

 繋がりを失った人間は、とても脆い生き物だ。
 孤立すれば、たちまちの内に理不尽な自然と跋扈するグールたちの餌食となる。
 それはポスターの両親も、彼が親しくしていた友も変わらなかった。
 彼は何もかもを不当に奪われてきた。

 己を害する者に抗い、命をつなぐことは当然の権利である。
 リンクに所属していた頃から今に至るまで、ポスターは一貫して輸送任務を請け負っている。
 繋がりを断たれ、不当に命を奪われようとしている人間たちを、全て自分が繋いでいく。
 そんな現実的ではない傲慢な考えが、これまで不当に害され続けてきたポスター・アクロイドが全身全霊をかけて世界に挑む闘争であった。

 悠然と動かず、ただ吹雪の中からこちらを観測し続ける巨影を、もはやポスターは気にしていなかった。
 たとえ吹雪だろうが、巨影があのグールと同じように自分を取り込もうとしようが、もはや彼の行動には何も関係はなかった。
 奪えるものなら奪ってみろ、と言わんばかりに巨影を睨みつけ、それからただ目的地を目指すことだけを考えて彼は足を動かした。

 結局、巨影はポスターを見送るように、ただ吹雪の壁の中に佇んでいた。
 得体のしれない視線をどこかから感じながら、ポスターは駆けていった。

 どこか後ろの方で咆哮がした。
 大地は揺れ、轟音とともに山頂から雪崩が起きる。

 巨影について判明している事実は少ない。
 唯一わかっているのは、それが現れた場所では必ず大災害が起きるということであり、巨影の気まぐれで起こされる出来事に人間は何ら対抗することができないということだった。

 幸いにも雪崩の音は遠かった。
 足を緩めなければ逃げられるだろう。

 ポスターは背後を振り返ることなく、ただ進む。
 しばらく吹雪の中を進むと、地面に突き刺さる鉄の板が目に入った。
 それは都市間を移動する者たちのために建てられた目印だった。

 ポスターの目指す町、『新宿』までは、あと二キロメートルを切っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...