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第一章 襲撃
第二節 fort
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俺たちの砦の名は、ヴァーマ・ドゥエル。名前の意味は、神の都。
石造りの神殿や家屋、道路が並び、一三〇〇人程の人々が高い壁に囲まれて暮らしている。
その言葉を使う者たちは、そもそもこことは別の場所からやって来た移民で、地元の連中と和合する事で一族を発展させて来た。その時に先祖が贈られた名前が、移民の言葉で言うとこのようになったという事だった。
移民たちと原住民たちは、それぞれダヴェヌラとヌェズキと言って区別されている。顔立ちや肌の色は、純粋なヌェズキの方が少し黒っぽかったり、赤っぽくもあり、掘りが深い。ダヴェヌラは浅黒さ、黄色さのようなものが混じり、顔立ちが平坦だ。
しかし何百年にも渡る交配のお蔭で、ダヴェヌラとヌェズキの違いは殆ど分からない。ルマ族は基本的にダヴェヌラの純血に近いが、それでも食生活の変化などで体質が変わり、ヌェズキたちと似たような身体的特徴を備え始めている。
俺も、砦で最も多いダヴェヌラとヌェズキの混血だ。肌の色はヌェズキに近いのだが、顔立ちはダヴェヌラに似ており、眼の色は不思議な事に、両方の一族の特徴をどちらも備えている。
右眼が、黒っぽいダヴェヌラの色。左眼は明るいヌェズキの色。
一族の特徴をそれぞれ持った人間は少なくなく別段珍しい事ではないが、流石に眼の色が左右で違うというのは、奇異の眼に晒される事もないではなかった。
さて、このヴァーマ・ドゥエルは、ダヴェヌラの智慧によって造られた密林の要塞都市であった。
ダヴェヌラは森の中で野生動物たちと寝食を共にしていたヌェズキたち複数の部族を纏め上げ、土木工事や石器、水路の確保による水耕、そして石を使った堅牢な建物の造り方を齎し、他の部族たちと比べて生活を高い水準まで引き上げた。
これによってヴァーマ・ドゥエルの民となったヌェズキは、この辺り一帯で最も強い力を持つ集落という事になったのだ。
だが、ヌェズキの族長はその力を用いる事を厭い、周辺部族との関わりを最小限な穏健なものとしようとした。これには、別の地から戦乱を避けてやって来たというダヴェヌラたちも賛成した。
当初は、ヌェズキの中でも族長に反発があったと言うが、元来、争いを好まない部族である。多数決によって民主的に、ヴァーマ・ドゥエルから仕掛ける侵略を徹底的に忌避する方向で、政治が定められた。
ヌェズキはその消極的な姿勢から、他の部族から狙われる事も少なくはなかった。しかしダヴェヌラの協力を得た事で、強固な壁を建設し、砦への侵略の心配もなくなったのである。
そうなるとヴァーマ・ドゥエルの平和的な姿勢を好み、縄張り争いや無意味な戦乱を嫌がる別の部族がヴァーマ・ドゥエルに接触し、自然と勢力が広がってゆく事となった。
ヴァーマ・ドゥエルが神の都と呼ばれるのは、この事を所以とする説もある。
ダヴェヌラは石の建物を造る時、神というものについて説明した。それまでヌェズキが精霊と呼んでいた自然現象を操り、我々人間を知識あるものとして誕生させたのが、神であるという。そして神の都では、あらゆる人種が差別なく仲良く暮らしているという。
数多くの部族が、争う事なく平和に暮らしている集落という事で、ダヴェヌラたちは彼らの言葉で、神の都ヴァーマ・ドゥエルという名前を贈ったのである。
しかしやはり、こうしたヴァーマ・ドゥエルに反発するものもあった。
闘争を好まず、しかし、人や資源の多いヴァーマ・ドゥエルを我がものにしようと、遠方の部族たちが侵略にやって来たのであった。その中には、海を渡った遥か彼方の大陸からやって来たものもある。
ヴァーマ・ドゥエルを狙う者たちは、他の集落を侵略して兵を募り、ヴァーマ・ドゥエルに戦いを挑んだ。
細かい部族たちが結託しているが、大きく分けると六つの敵集落がある事になる。
ヌェズキの族長に反発して出奔したものたちが近くの部族と手を組んだ、アージュラ族。
ダヴェヌラと同じく流浪の一族で、現地の人間を殺戮する事で旅団を大きくした、バッグベム族。
大陸からやって来たという、馬に乗った戦闘を好む一族はリオディン・ダグラ族。
不気味な奇術師たちの集まったフィダス族は、アージュラ族とも袂を分かったヌェズキの一部と手を組んでいた。
海を渡ってやって来た、きらきらの甲羅で武装している侵略者たちは、ドドラグラ族と呼んでいる。
そして俺たちが最も嫌っているのは、詳細不明の狩猟の民族である、ディバーダ族だった。
奴らが、森の中に侵攻して来ている。
砦を囲む密林を掻き分けて、獣染みた挙動で進撃する彼らは、こちらの兵士たちを発見すると嬉々として、或いは音もなく近付いて、ゆっくりと殺害する。
ゆっくりと言っても、彼らの一撃は鋭かった。頸や腕、脚を瞬く間に切断して、腹を裂いて内臓を引き摺り出し、時間を掛けて解体するのだった。
ヴァーマ・ドゥエルには人喰いの儀式が伝えられている。死んだ人間の身体を細かく切断して、遺族や恋人、親友がその骸を食すのである。これによって、先祖代々受け継がれて来た血脈を、全て丸ごと手に入れる事が出来るとしていた。
しかしそれは、記録の中に残るだけである。かつてそのような風習があったものの、ダヴェヌラの流入によって文化的に成長したヌェズキが、この儀式を執り行う事は少なくなった。
というのも、その記録というものが出来たからだ。ヌェズキには出来事を記録するという習慣がなく、何かを覚える必要があれば族長や親族から聞かされた話を憶え、そして骸を拝領する儀式で以てその記憶を確固たるものとするとされていた。
だがダヴェヌラが齎した、文字と絵によって彼らは記録する文化を手に入れた。
あらゆる儀式には、意味が込められている。それを達成する為に行なっていた儀式の代替行為が発見され、それが納得されたのならば、そちらに移行してゆく事は何も悪くはない。
今は、形骸化したその風習を、野生の獣を捕らえて喰らうという形にしている。
話が少しずれた。
何故、ヴァーマ・ドゥエルに食人の風習があったのかという話をしたのかと言えば――
「ま、待ってくれよ、トゥケィ!」
俺の遥か後ろから、ン・ダーモの情けない声が聞こえる。
俺は優れた身体能力で、森の中を風のように駆け抜けた。ン・ダーモはそれに付いて来られないのだ。
それは別に、ン・ダーモが身体能力的に劣っているという事ではない。確かに彼の兄貴分であるオウマには敗けるが、それでも平均的な運動神経は持っている。
だから俺に彼が追い付けないでいるのは、俺が本気を出したら部族の中で一番優れているからなのだ。
待ってくれ、と、ン・ダーモは言った。しかし俺は待たない。俺を戦いへといざなう音がするからだ。
すると、俺を追い駆けていた筈のン・ダーモの気配が途切れた。
「ン・ダーモ!?」
俺は思わず足を止めた。
太い立木に背中を付けて、後ろを振り向く。
「トゥケィ……」
奴の情けない……か細い声がした。
走って追い付けないから、制止を呼び掛けた声ではなかった。
「ン・ダーモ!」
俺は、俺から遅れる事、一〇歩分の奴の許へと舞い戻った。全力疾走中の俺の一〇歩は、普通の人間の五〇歩分以上だ。
そこで俺は、地面から浮かび上がったン・ダーモの姿を発見した。
ン・ダーモの身体は、まるで浮遊するように、中空に置かれている。だが、自分の意志でそんな姿になったのではない。ン・ダーモの頸には頑丈で且つ柔軟性のある植物の蔓が巻き付けられており、その蔓が、ン・ダーモの身体を樹の枝から吊り下げていたのだ。
白眼を剥いたン・ダーモは、血の混じった涎掛けをして、黄色と茶色のフンドシを身に着けていた。全身から血の気が引いており、抵抗する間もなく樹に吊り下げられたのは一目で分かった。
「ン・ダーモ……」
俺はン・ダーモに不用意に近付こうとして、足を止めた。
ン・ダーモが吊るされていた樹の上、生い茂った葉っぱで隠れた枝の中から、何かが飛翔した。
俺は、ン・ダーモの足元に突き刺さっていたものを拾って、それを弾いた。
きぃん、と、甲高い音がして、それは回転しながら近くの樹の幹に突き立った。
ヒヒイロカネ……俺たちが使う石器とは違う、光沢のある硬い物質で造られた、先端の尖った棒だ。
俺が拾ったのも、ヒヒイロカネ製の棒だった。奴ら、即ちディバーダ族は、ガビジとか呼んでいた武器である。
どうやらン・ダーモは、樹上からガビジを投げ付けられて驚いた所、その隙を突かれて頸に蔓を巻き付けられ、一瞬の内に吊り上げられてしまったらしい。
俺はガビジを、ン・ダーモを吊り下げている蔓に向けて投擲した。尖った先端は翡翠の包丁よりも遥かに切れ味鋭く、容易に蔓を切断した。
ン・ダーモの骸を受け止めた俺は、同時に枝を揺らし、葉っぱを落として樹上から飛び降りたそいつと、邂逅する事となった。
「てめぇ……」
俺はそいつを睨み付けた。
俺に敗けず劣らずの見事な身体に、簡単な布を纏っている。腰にクッションを詰めたフンドシを穿き、両手と両足、それと胴体に植物を縦横に織って丈夫にした布を巻き付けているのだ。頸からはヒヒイロカネで作った装身具をぶら下げており、耳や鼻、指にも輪っかを取り付けていた。
肌の色は、俺たちと似ているかもしれないが、もっと浅黒い。いや、蒼っぽいと言っても良いかもしれない。
「よくも、ン・ダーモを……」
ディバーダ族の男に、俺の言葉は分からないだろう。しかし俺の怒りは分かった筈だ。奴は舌を垂らして笑うと、俺に向かって手をちょいちょいと動かした。
上等だ。
「ぶち殺してやる!」
俺は腰から、巨大な鉈を引き抜いた。
石造りの神殿や家屋、道路が並び、一三〇〇人程の人々が高い壁に囲まれて暮らしている。
その言葉を使う者たちは、そもそもこことは別の場所からやって来た移民で、地元の連中と和合する事で一族を発展させて来た。その時に先祖が贈られた名前が、移民の言葉で言うとこのようになったという事だった。
移民たちと原住民たちは、それぞれダヴェヌラとヌェズキと言って区別されている。顔立ちや肌の色は、純粋なヌェズキの方が少し黒っぽかったり、赤っぽくもあり、掘りが深い。ダヴェヌラは浅黒さ、黄色さのようなものが混じり、顔立ちが平坦だ。
しかし何百年にも渡る交配のお蔭で、ダヴェヌラとヌェズキの違いは殆ど分からない。ルマ族は基本的にダヴェヌラの純血に近いが、それでも食生活の変化などで体質が変わり、ヌェズキたちと似たような身体的特徴を備え始めている。
俺も、砦で最も多いダヴェヌラとヌェズキの混血だ。肌の色はヌェズキに近いのだが、顔立ちはダヴェヌラに似ており、眼の色は不思議な事に、両方の一族の特徴をどちらも備えている。
右眼が、黒っぽいダヴェヌラの色。左眼は明るいヌェズキの色。
一族の特徴をそれぞれ持った人間は少なくなく別段珍しい事ではないが、流石に眼の色が左右で違うというのは、奇異の眼に晒される事もないではなかった。
さて、このヴァーマ・ドゥエルは、ダヴェヌラの智慧によって造られた密林の要塞都市であった。
ダヴェヌラは森の中で野生動物たちと寝食を共にしていたヌェズキたち複数の部族を纏め上げ、土木工事や石器、水路の確保による水耕、そして石を使った堅牢な建物の造り方を齎し、他の部族たちと比べて生活を高い水準まで引き上げた。
これによってヴァーマ・ドゥエルの民となったヌェズキは、この辺り一帯で最も強い力を持つ集落という事になったのだ。
だが、ヌェズキの族長はその力を用いる事を厭い、周辺部族との関わりを最小限な穏健なものとしようとした。これには、別の地から戦乱を避けてやって来たというダヴェヌラたちも賛成した。
当初は、ヌェズキの中でも族長に反発があったと言うが、元来、争いを好まない部族である。多数決によって民主的に、ヴァーマ・ドゥエルから仕掛ける侵略を徹底的に忌避する方向で、政治が定められた。
ヌェズキはその消極的な姿勢から、他の部族から狙われる事も少なくはなかった。しかしダヴェヌラの協力を得た事で、強固な壁を建設し、砦への侵略の心配もなくなったのである。
そうなるとヴァーマ・ドゥエルの平和的な姿勢を好み、縄張り争いや無意味な戦乱を嫌がる別の部族がヴァーマ・ドゥエルに接触し、自然と勢力が広がってゆく事となった。
ヴァーマ・ドゥエルが神の都と呼ばれるのは、この事を所以とする説もある。
ダヴェヌラは石の建物を造る時、神というものについて説明した。それまでヌェズキが精霊と呼んでいた自然現象を操り、我々人間を知識あるものとして誕生させたのが、神であるという。そして神の都では、あらゆる人種が差別なく仲良く暮らしているという。
数多くの部族が、争う事なく平和に暮らしている集落という事で、ダヴェヌラたちは彼らの言葉で、神の都ヴァーマ・ドゥエルという名前を贈ったのである。
しかしやはり、こうしたヴァーマ・ドゥエルに反発するものもあった。
闘争を好まず、しかし、人や資源の多いヴァーマ・ドゥエルを我がものにしようと、遠方の部族たちが侵略にやって来たのであった。その中には、海を渡った遥か彼方の大陸からやって来たものもある。
ヴァーマ・ドゥエルを狙う者たちは、他の集落を侵略して兵を募り、ヴァーマ・ドゥエルに戦いを挑んだ。
細かい部族たちが結託しているが、大きく分けると六つの敵集落がある事になる。
ヌェズキの族長に反発して出奔したものたちが近くの部族と手を組んだ、アージュラ族。
ダヴェヌラと同じく流浪の一族で、現地の人間を殺戮する事で旅団を大きくした、バッグベム族。
大陸からやって来たという、馬に乗った戦闘を好む一族はリオディン・ダグラ族。
不気味な奇術師たちの集まったフィダス族は、アージュラ族とも袂を分かったヌェズキの一部と手を組んでいた。
海を渡ってやって来た、きらきらの甲羅で武装している侵略者たちは、ドドラグラ族と呼んでいる。
そして俺たちが最も嫌っているのは、詳細不明の狩猟の民族である、ディバーダ族だった。
奴らが、森の中に侵攻して来ている。
砦を囲む密林を掻き分けて、獣染みた挙動で進撃する彼らは、こちらの兵士たちを発見すると嬉々として、或いは音もなく近付いて、ゆっくりと殺害する。
ゆっくりと言っても、彼らの一撃は鋭かった。頸や腕、脚を瞬く間に切断して、腹を裂いて内臓を引き摺り出し、時間を掛けて解体するのだった。
ヴァーマ・ドゥエルには人喰いの儀式が伝えられている。死んだ人間の身体を細かく切断して、遺族や恋人、親友がその骸を食すのである。これによって、先祖代々受け継がれて来た血脈を、全て丸ごと手に入れる事が出来るとしていた。
しかしそれは、記録の中に残るだけである。かつてそのような風習があったものの、ダヴェヌラの流入によって文化的に成長したヌェズキが、この儀式を執り行う事は少なくなった。
というのも、その記録というものが出来たからだ。ヌェズキには出来事を記録するという習慣がなく、何かを覚える必要があれば族長や親族から聞かされた話を憶え、そして骸を拝領する儀式で以てその記憶を確固たるものとするとされていた。
だがダヴェヌラが齎した、文字と絵によって彼らは記録する文化を手に入れた。
あらゆる儀式には、意味が込められている。それを達成する為に行なっていた儀式の代替行為が発見され、それが納得されたのならば、そちらに移行してゆく事は何も悪くはない。
今は、形骸化したその風習を、野生の獣を捕らえて喰らうという形にしている。
話が少しずれた。
何故、ヴァーマ・ドゥエルに食人の風習があったのかという話をしたのかと言えば――
「ま、待ってくれよ、トゥケィ!」
俺の遥か後ろから、ン・ダーモの情けない声が聞こえる。
俺は優れた身体能力で、森の中を風のように駆け抜けた。ン・ダーモはそれに付いて来られないのだ。
それは別に、ン・ダーモが身体能力的に劣っているという事ではない。確かに彼の兄貴分であるオウマには敗けるが、それでも平均的な運動神経は持っている。
だから俺に彼が追い付けないでいるのは、俺が本気を出したら部族の中で一番優れているからなのだ。
待ってくれ、と、ン・ダーモは言った。しかし俺は待たない。俺を戦いへといざなう音がするからだ。
すると、俺を追い駆けていた筈のン・ダーモの気配が途切れた。
「ン・ダーモ!?」
俺は思わず足を止めた。
太い立木に背中を付けて、後ろを振り向く。
「トゥケィ……」
奴の情けない……か細い声がした。
走って追い付けないから、制止を呼び掛けた声ではなかった。
「ン・ダーモ!」
俺は、俺から遅れる事、一〇歩分の奴の許へと舞い戻った。全力疾走中の俺の一〇歩は、普通の人間の五〇歩分以上だ。
そこで俺は、地面から浮かび上がったン・ダーモの姿を発見した。
ン・ダーモの身体は、まるで浮遊するように、中空に置かれている。だが、自分の意志でそんな姿になったのではない。ン・ダーモの頸には頑丈で且つ柔軟性のある植物の蔓が巻き付けられており、その蔓が、ン・ダーモの身体を樹の枝から吊り下げていたのだ。
白眼を剥いたン・ダーモは、血の混じった涎掛けをして、黄色と茶色のフンドシを身に着けていた。全身から血の気が引いており、抵抗する間もなく樹に吊り下げられたのは一目で分かった。
「ン・ダーモ……」
俺はン・ダーモに不用意に近付こうとして、足を止めた。
ン・ダーモが吊るされていた樹の上、生い茂った葉っぱで隠れた枝の中から、何かが飛翔した。
俺は、ン・ダーモの足元に突き刺さっていたものを拾って、それを弾いた。
きぃん、と、甲高い音がして、それは回転しながら近くの樹の幹に突き立った。
ヒヒイロカネ……俺たちが使う石器とは違う、光沢のある硬い物質で造られた、先端の尖った棒だ。
俺が拾ったのも、ヒヒイロカネ製の棒だった。奴ら、即ちディバーダ族は、ガビジとか呼んでいた武器である。
どうやらン・ダーモは、樹上からガビジを投げ付けられて驚いた所、その隙を突かれて頸に蔓を巻き付けられ、一瞬の内に吊り上げられてしまったらしい。
俺はガビジを、ン・ダーモを吊り下げている蔓に向けて投擲した。尖った先端は翡翠の包丁よりも遥かに切れ味鋭く、容易に蔓を切断した。
ン・ダーモの骸を受け止めた俺は、同時に枝を揺らし、葉っぱを落として樹上から飛び降りたそいつと、邂逅する事となった。
「てめぇ……」
俺はそいつを睨み付けた。
俺に敗けず劣らずの見事な身体に、簡単な布を纏っている。腰にクッションを詰めたフンドシを穿き、両手と両足、それと胴体に植物を縦横に織って丈夫にした布を巻き付けているのだ。頸からはヒヒイロカネで作った装身具をぶら下げており、耳や鼻、指にも輪っかを取り付けていた。
肌の色は、俺たちと似ているかもしれないが、もっと浅黒い。いや、蒼っぽいと言っても良いかもしれない。
「よくも、ン・ダーモを……」
ディバーダ族の男に、俺の言葉は分からないだろう。しかし俺の怒りは分かった筈だ。奴は舌を垂らして笑うと、俺に向かって手をちょいちょいと動かした。
上等だ。
「ぶち殺してやる!」
俺は腰から、巨大な鉈を引き抜いた。
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