獣神転生ゼノキスァ

石動天明

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第一章 襲撃

第五節 armament

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 アーヴァンやトゥケィが倒したディバーダ族の下級戦士たちや、ダブーラ・アブ・シャブーラは、砦の近くまで音もなく潜行して来た者たちである。

 彼らと同行していた他の敵戦士たちは、森の入り口付近で、ヴァーマ・ドゥエルの戦士たちと戦いを繰り広げていた。

 ディバーダ族の戦士たちは、殆どがゾデ・ナージですらない名もなき残虐者たちであった。彼らは獣染みてすらいない、作戦はおろか理性の欠片すら見出せない戦いを仕掛けて来た。一人を殺せばその一人を喰らい、それだけに集中している間に敵に殺されてしまう。

 一方、彼らを率いるゾデ・ナージたちは、彼らよりも理知的に戦う。小さな金属の武器を扱い、洗練された格闘術を用い、ヴァーマ・ドゥエルの戦士たちを圧倒した。

 ゾデ・ナージは、ディバーダ族の階級の中では最下層に位置する筈だが、彼らと下級戦士たちの間には技術的に大きな隔たりがあるようであった。

 ゾデ戦士たちと下級戦士たちの実力差――この事が、ディバーダ族の総数の底の見えない事を意味している。

 ディバーダ族は上げた首級、即ち殺した人数によって階級を上げてゆく。一人を殺す事は出来ても二人と戦えば呆気なく敗れる下級戦士たちが、侵攻のたびに減る事がないという現実と、その下級戦士の中でもゾデ戦士に昇格出来る者がいる事を考えれば、彼らが如何に膨大な人口を誇るのか、分かろうというものだ。

 例え今回の侵攻を防いだとしても、次も下級戦士たちは途切れず、より強くなったゾデ戦士たちが送り込まれて来る――そう考えると、防衛する側のヴァーマ・ドゥエルの戦士たちも、戦いへのモチベーションを保つ事が難しくなっていた。

 何十人もの戦士たちが、互いの肉体や武器をぶつけ合い、汗と涙と血を吹き出し合う凄惨な戦いを繰り広げる中、特に目立ったのはオウマという人物であった。

「けぇぁーっ!」

 怪鳥が如く気声を上げながら暴れ回るのが、オウマである。体格だけを見るとそこまで優れているという訳ではないのだが、その中肉中背から迸る裂帛の気合に、本能で敵を追い詰めるディバーダ族の戦士たちは一瞬であっても怯んでしまうのだ。

 オウマはその隙に敵に駆け寄り、手製の武器で急所を切り裂き、貫く。

 オウマが握っているのは、身長程もある長い棒であった。しかしその両端には、ディバーダ族の戦士から奪い取った金属の刃物と、岩を磨いて造った見事な球が取り付けられている。

 近付いて来たものを石の球で突いて怯ませ、その間に返す刀で切断する。一対一の戦闘ではこうだ。
 多対一の時は、その棒をぶんぶんと振り回して敵を近付けさせず、一歩退いた敵から順に攻略してゆく。

 また、その棒は頑丈でありながらも、しなるようになっている。罪人の懲罰や、高所から高所へ渡るのに造られるバリザにも使われる植物を使っているので、強度も威力も申し分なかった。

 そして両端の間にはそれぞれグリップ部分まで、丈夫な蔓が渡されており、木の枝を尖らせたものを遠くまで飛ばす事が出来た。

 オウマはこの武器を、ヴォールランギンマを組み合わせたヴォルギーンという風に名付けている。

 このヴォルギーンは様々な武器として使えて、あらゆる戦況に対応出来る一方、扱いが困難で、開発者であるオウマが最近になって漸く使いこなせるようになった程度だ。又、長さの問題もあり、森の中では使い難いという事もある。
 その為、殆どがオウマ専用の武器となっていた。

 ディバーダ族の下級戦士たちは、オウマのヴォルギーンが繰り出すテクニカルな攻撃にたじたじになって、一人、又一人と打ち倒されてゆくのであった。

「殺した敵からは武器を奪え! そして戦うんだ! 逃げてはいけない、戦え‼」

 オウマは常々、共に戦う仲間たちにそう言っていた。

 ヴァーマ・ドゥエルは平和を愛する一族だ。その為、生活に必要な以上のものを持とうとしない。石で包丁を造る事はあっても、人を斬り殺す剣を造る事を厭っているのだ。

 オウマには、この事が理解出来ない。自分たちには敵がいて、どれだけこちらが和平を叫ぼうと敵は関係なく襲って来る。ならばこちらも、武器を持つしかないではないか。

 このヴォルギーンを造った時もそうだが、長老連には何度もその提言をしている。だが頭の固い長老たちはなかなか頷かなかった。せめて自衛の為だけでも最低限の武装をするように言っても、日常的な武器の携帯は出来る限りしないように戒めていた。

 だからオウマは、ディバーダ族を倒したならばその死体から武器になるものを奪い取れと言っている。ディバーダ族の武器製造技術は、ヒヒイロカネという材料からして一級品だ。将来的に、このヒヒイロカネが武器だけではなく、あらゆる生活用品の中心となるであろうと、オウマは見ていた。

 武器を製造出来る方法があるのならば、それを日常生活に生かす技術として使う事も出来る――オウマはそう考えていたが、長老たちは武器と戦争を繋げて考えるのみで、技術発展を拒んでいるのだった。

「であああああああっ!」

 又一人、オウマのヴォルギーンによって、ディバーダ族の下級戦士が命を絶たれた。

 縦に振り回したヴォルギーンの、ランギ(石突)部分が脳天に直撃し、頭蓋骨のてっぺんを口の中まで引き摺り下ろしたのである。

「たっ、助けてくれぇ!」

 悲鳴がした。
 振り向くと、数人の下級戦士に囲まれた仲間のものだ。
 蟻のように群がるディバーダ族の下級戦士たちの身体の間から、血まみれの手がもがいている。奴らは素手で人の肉を毟り、その血を啜る。

 オウマは憤慨して、ヴォルギーンを携えてそちらへと急いだ。
 そのオウマの前に、ハーン・ゾデの戦士が現れた。

 凶暴なディバーダ族の人間とは思えないくらいの、静かな美貌を湛えた人物であった。しかもその胸元の膨らみや尻の丸みからするに、女だ。

 ディバーダ族は女であっても戦士になれる。そしてハーン・ゾデにまで昇格出来たという事は、かなりの実力の持ち主だった。

 ならば、オウマに容赦はなかった。

「きぇぇーっ!」

 オウマはヴォルギーンを構え、一気に距離を詰めた。
 真っ直ぐな突きが、ハーン・ゾデの女戦士に迫る。

 女戦士はふっと身を躍らせた。オウマの視界から、彼女の姿が消えたと見るや、突き出されていた槍の穂先に、女戦士は蝶の如く留まっていた。それでいて、体重を感じさせない。

 女戦士は血を塗った唇を吊り上げると、オウマの頭部に向かって広げた両脚を繰り出した。オウマは顔面に女の下腹部を押し付けられ、そのまま地面に倒れ込んだ。

 女戦士は戦いの中で恍惚としながら、その場で最も強い戦士であったオウマを絞め殺そうとした。

 だが彼女の服の襟ぐりを、後ろから掴むものがあった。
 アーヴァンだ。

 アーヴァンは、先程、下級戦士にしたのと同じように、女の身体を地面から引っこ抜いた。そうして思い切り、地面に叩き付けようとする。

 女戦士は地面に激突する瞬間、低空で身体をひねり、着地した。
 刹那、女戦士はアーヴァンの頭部まで伸び上がる爪先蹴りを放ったのであった。

 女戦士の履物の甲から、にゅっと三日月状の刃が飛び出した。それが、上体を逸らして蹴りを躱したアーヴァンの顎を、ぶっつりと引き裂いた。

 女戦士は更に軸足で跳躍、もう一方の足にも仕込まれていた刃で、今度はアーヴァンの咽喉を縦に引き裂こうとした。

 だがこの足首を、アーヴァンは右手で掴み、止めてしまった。顎を斬られても動じない精神力は、見事と言う他にはなかった。

 動きを止められた女戦士に、横からオウマが襲い掛かった。石突を腰に思い切り打ち付けて、骨盤を粉砕してしまう。

 ハーン・ゾデの女戦士は、白眼を向いて、その場に死んだ蛇のように崩れ落ちた。
 オウマは女戦士の身体を蹴り飛ばして、アーヴァンを睨み付けた。

「何故、手加減した!?」
「……女を殺すのは良くない」
「莫迦が! 敵だぞ!」
「……でも」
「俺たちはそれで良いかもしれねぇが、他の連中には通じないぞ。女だからと油断して殺されちまったんじゃ、間抜けが過ぎるからなッ」

 アーヴァンを一喝したオウマは、すぐに他の敵に向き直った。アーヴァンも、オウマの言葉が分からないではない。しかし――そういう迷いを抱えながらも、すぐに切り替えて、敵に向かった。
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