超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第五章 覚醒める拳士

第三節 依  頼

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「――成程ねぇ……」

 渋江杏子と明石雅人――

 勝義会のチンピラに誘拐されそうになっていた杏子を助けた雅人は、彼女から或る頼み事をされ、現場から離れた神社の境内で向かい合っていた。

 繁華街の喧騒を離れた真夜中の神社は、管理人もおらず、唯一の関門は昼間でさえ頂上の見えない長さの石段である。

 雅人は途中のコンビニで缶ビールを二本と、菓子パンやおつまみを買い、杏子と共に石段を登って境内にやって来た。そこで社の階段に腰掛け、ビールを開けておつまみを喰っている。

 レジ前の保温機から取り出された焼き鳥を、雅人は食べた。包み紙の上からがっしりと掴んで、串だけを引き抜く。包みの上に乗ったものを、粉薬みたいに口に流し込んだ。ネギマを二本、レバーを一本、皮、ぽんじりを一本ずつやっつけた。レバー以外はどれも塩だ。

 レタスを千切ったものを詰めた袋を開けると、瓶の塩の蓋を取って、中身を全て使い切るようにして振り掛けた。それを手掴みで口に放り込んでゆく。塩分によって濡れたキャベツが引き締まり、しゃきしゃきとした食感に生まれ変わっていた。

 ビールを飲む。

 水も一緒に飲んだ。二リットルのペットボトルを四本買っており、缶ビールを二本開けるまでに一本と半分を空にした。

 レンジで温めて貰った餃子と麻婆豆腐と青椒肉絲と炒飯を、掻き込んでゆく。濃厚な味付けが口の中で混ざり合った。口の端に張り付いた細切りのピーマンを親指で掬って、指の腹に付いたタレをしゃぶりつつ舌で舐め取った。

 ビールで流し込んだ。

 呑み終わったビールの缶は、上下を掌で挟んで押し潰す。プレス機に掛けたようにぺしゃんこになった空き缶を、一つ折り、二つ折り、三つ折り、拳の中に閉じ込めて圧縮した。

 蕎麦にペットボトルから水を流し込んでほぐしつつ、付属のカップにツユを入れ、ネギとワサビを滑り込ませた。これに蕎麦を溢れる程に放り込み、一枚を文字通りぺろりと平らげてしまう。余ったツユをぐい飲みのようにやると、溶け切っていなかったワサビが鼻につんと抜けて、雅人は顔を顰めた。

 次はつけ麵だ。こちらも水でほぐすと、味噌ベースのツユにメンマとチャーシューを浸し、太麺をつるつると呑み込んでしまった。水で薄めてツユを飲んだ。

 〆とばかりに醤油ラーメンだ。黄色くつやつやした麺の上に、緑色も鮮やかなホウレン草、メンマ、分厚いチャーシュー、夏の浜辺で寝そべる女の尻にも似た味付け卵が乗せられている。時間も経っているので良い具合に冷め、油が固まり掛けていた。これを一気に啜り上げ、スープまで飲み干す。

 ビールだ。
 水を飲んだ。これで六リットルを空にした。

 四本目を開けて半分まで飲み干すと、粉末プロテインとヨーグルト、一度口の中に入れてペースト状にしたバナナを入れ、蓋をきゅっと締め直して片手で振り回した。しっかりと混ざった自己流プロテインドリンクを、咽喉を鳴らして飲み下す。

 その間、杏子は自分の事情を雅人に説明していた。

 友人の美野秋葉が、勝義会の悪逆非道によって心身共に破壊され、自ら死を選んだ事。
 その内容を記録したものが病弱であった秋葉の母の許に送り付けられ、その母も憤死した事。
 咄嗟にそのビデオディスクを持ち出した自分が、勝義会のチンピラに追われていた事。
 ネットカフェでディスクをコピーし、マイクロフィルムとUSBにそれぞれ保存した事。
 ネカフェを出た所で彼らに攫われ、車の中に連れ込まれた事。

 これらを、時折言葉に詰まり、嗚咽しながら、杏子は語った。

 そして自己流プロテインドリンクを嚥下し終え、焼き鳥の串に刺したボロニアソーセージに塩を振り、一〇〇円ライターで炙り、赤ん坊の腕くらいはある肉塊に齧り付いていた雅人に、杏子は言ったのだ。

「改めて、お願いがあります。あの男を……紀田勝義に、復讐して欲しいんです」

 美野秋葉を自死に至るまで追い込んだ、報復だ。
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