いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

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第3話「樹と千鶴」①

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「あっつ…」

    頬から顎へ伝う汗を手の甲でぬぐう。まだ朝の八時過ぎだというのに、すでに太陽は手当たり次第に、目に映る全てを等しく焦がしている。蝉のやかましい鳴き声が、暑さを一層引き立てていた。

    今日も一人、停留所でバスを待つ。時間まではあと30分ほどあったが、次を逃せば一時間は待つことになる。それがわかっているから、いつも少し早く来ることにしていた。
    木造の停留所には屋根こそあったが、クーラーはおろか、扇風機すら無い。扇子を持っていたことを思い出し、カバンから取り出して扇いでみる。やはり熱風を浴びせるくらいが関の山だったので、早々に畳んでまたカバンへとしまった。

    学校はとっくに夏休みだというのに、毎日のようにこんな田舎から、わざわざバスで一時間かけて街の予備校へ通っては、黙々と勉学に勤しむ。部活や遊びに繰り出すクラスメイトを横目に、ひたすらノートに向かう日々。羨ましい気持ちはあっても、投げ出すわけにはいかない。
    肩にのし掛かるように感じる何かは、参考書の詰まったカバンのせいだけではないことはわかっていた。漁業と申し訳程度の観光が主な産業のこの町で、医者を目指し、本気でその夢を追っている人間は自分くらいなものだろう。親もその気持ちを尊重して応援してくれている。
    ただ、網元でもないただの漁師の家庭が、こうして予備校通いを続ける為の学費や、うまく志望する大学へ行けたとしてこれから降りかかる諸々の金銭を、なんの躊躇いも無くぽんと出せるほど余裕のあるわけではないことは分かっている。しかし、そんなことを口にすると、父は決まってこう言った。

「ばかやろう!子どもが金の心配なんてするんじゃねえ!夢だけまっすぐ追っかけてりゃいいんだ」

    そしてニカッと笑いながら、俺の頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。ほんの一瞬、嬉しさと父への感謝を感じた後、申し訳なさと、期待に応えられなかったときのことを思い、いつも心に影が差した。
    いわゆるプレッシャーと呼ばれる何かは、言葉の持つありきたりなイメージ以上に、確かな重さと抵抗で、全身にまとわりついて離れなかった。
    いつの間にかアスファルトを見つめていた目線を上げる。太陽の光をうけて、海はギラギラと輝き、目に痛い。何もかもを疎ましく感じていた。
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