いつかまた、バス停で。

第１４話「邂逅」④

    ちいちゃんは樹の隣に立って、肩に手を置いて言った。
「昨日言ったばかりでしょ？樹くん」
「すいません」
「ほらまた。謝り合戦はもうおしまい」

「昨日？」いつの間にか、二人は親しくなったようだ。
「ええ。ちょっとね」ちいちゃんは笑って言った。

「随分懐かしい夢を見てたのね」
「お父さんにも会ったんだ」
「貴志に？」ちいちゃんは目を丸くした。
「うん。しっかり前を向きなさいって…」
「そう…あの子らしいわね」そう言って、ちいちゃんは指で涙を拭いた。
「あと、お母さんに伝えて欲しいって…」

「私に何って？」
    ベットの足元、ちいちゃんに助けてもらいながら、体を起こして声がした方を見ると、そこに母がいた。

「いつかみたいに倒れたって聞いて、慌てて飛んできたっていうのに夢の話だなんて。まったく…あなたらしいわね」
    母は本気で呆れているように見えた。

「ありがとう、お母さん」
    私がそう言うと、母は小さく溜息をついてこう言った。
「で？あの人は何だって？」
「老けるから、あんまり根を詰めるなって」私がそう言うと、母はガクッと項垂れた。

「何それ。ふざてるわけじゃないでしょうね」まずい、私は慌てて付け加えた。
「あ、あとこうも言ってた。お母さんは笑顔が一番だって、あと、約束を忘れるなとか…」
    私がそう言うと、母は大きく目を見開いた。そして、目からは涙が溢れて、ついには口元を手で押さえて、声を押し殺して泣き始めた。
    突然の母の涙に私は狼狽うろたえた。母が泣いたところなんて、父が亡くなってからは、一度も見たことがなかったからだ。あの日から、いつだって母は毅然としていた。
「お母さん…？」何が起こっているのか、理解が追いつかない。

「約束って、あれかしら」
    ちいちゃんは、同じように泣いてはいたが、どこか少し愉快そうに見えた。母はさっきの姿勢のまま、泣きながら声を出さずに小さく何度も頷いた。

「ちいちゃん？」私は何がなんだかわからず、ちいちゃんに助けを求めた。すると、あることを教えてくれた。