いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

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第17話「待つことしか」③

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    店の中にシャラシャラと心地よい音色が優しく響いた。千鶴さんはもう土間に置いた椅子に腰かけていて、店を訪れた俺に気付くと立ち上がって歩み寄った。
「樹君...」
    その表情は、想像していたものとは違っていた。

「千鶴さん。志保は...?」
「多佳子さんから連絡があって、手術は無事終わったそうよ」
    そう聞いてひとまず胸をなでおろした俺に、千鶴さんは続けた。
「でも...」
「でもって...志保に何かあったんですか!?」
    今朝の反省も空しく、また千鶴さんを問い詰める。わかってはいても、冷静ではいられなかった。

「大丈夫よ樹君。大丈夫」
    俺の肩に手を置いて、千鶴さんはなだめるように言った。
「すみません...」
「いいのよ。今日は予備校?無ければ、ちょっと上がっていきなさい」
「はい...」
    新学期が始まった今となっては、夏休みのようにほとんど毎日通うわけではない。休講日だったので、その言葉に甘えることにした。ただ、講義があったとしても、まともにそれを受けることができるとも思えなかった。

「さあ、そこに座って。ちょうど紅茶を淹れたところなの」
    駄菓子屋の奥の畳敷きの部屋。六畳ほどのスペースの真ん中に、古びたちゃぶ台があった。千鶴さんに言われるがままに、奥側の座布団に正座した。
「ありがとうございます...」
「あらあら、楽に座りなさい。別に失礼だなんて思わないから」
「あ、はい」
    お盆に紅茶を乗せて現れた千鶴さんにそう言われて、足をくずす。千鶴さんも向かい側に座った。

「さっきと今朝はごめんなさいね」俺の前にティーカップを置きながら、千鶴さんが言った。
「いえ、俺のほうこそ...」ぺこりと頭を下げる。
「さっき、ようやく連絡があってね。手術は無事終わったって」
「はい」
「ええ...手術は無事終わったのだけれど、完全に成功というところまではいかなかったって...」
「どういうことですか?」

「志保ちゃんの場合、心臓の弁の機能に問題があるらしくて...。それを形成...っていうらしいんだけど、もともとある弁を使って正常な状態に戻す手術をしようとしたらしいけど...。術後の状態が期待していたほどではなかったみたい...」
「そうですか...」
「でも、心配しないで。術後の一時的なものかも知れないし、うちの人もむこうへ行ってサポートするって話だから。私を手術したときの経験も何かしら役には立つはずよ」
「はい...」
    千鶴さんと志保は、体質的にみても症状をとってみても、非常に似通っているらしかったので、おじいさんが行動を起こしたことに少なからず安堵した。

「だから樹君も、あんまり気落ちしないで。ね?」
「はい。ありがとうございます」
    紅茶を一口すする。その香りと温度が、騒ぎ立てる胸の内をほぐしてくれたように感じた。今は現地で治療に当たるすべての人を、志保を、志保のおじいさんを、頼れるものすべてを信じることにした。
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