50 / 56
第17話「待つことしか」③
しおりを挟む
店の中にシャラシャラと心地よい音色が優しく響いた。千鶴さんはもう土間に置いた椅子に腰かけていて、店を訪れた俺に気付くと立ち上がって歩み寄った。
「樹君...」
その表情は、想像していたものとは違っていた。
「千鶴さん。志保は...?」
「多佳子さんから連絡があって、手術は無事終わったそうよ」
そう聞いてひとまず胸をなでおろした俺に、千鶴さんは続けた。
「でも...」
「でもって...志保に何かあったんですか!?」
今朝の反省も空しく、また千鶴さんを問い詰める。わかってはいても、冷静ではいられなかった。
「大丈夫よ樹君。大丈夫」
俺の肩に手を置いて、千鶴さんはなだめるように言った。
「すみません...」
「いいのよ。今日は予備校?無ければ、ちょっと上がっていきなさい」
「はい...」
新学期が始まった今となっては、夏休みのようにほとんど毎日通うわけではない。休講日だったので、その言葉に甘えることにした。ただ、講義があったとしても、まともにそれを受けることができるとも思えなかった。
「さあ、そこに座って。ちょうど紅茶を淹れたところなの」
駄菓子屋の奥の畳敷きの部屋。六畳ほどのスペースの真ん中に、古びたちゃぶ台があった。千鶴さんに言われるがままに、奥側の座布団に正座した。
「ありがとうございます...」
「あらあら、楽に座りなさい。別に失礼だなんて思わないから」
「あ、はい」
お盆に紅茶を乗せて現れた千鶴さんにそう言われて、足をくずす。千鶴さんも向かい側に座った。
「さっきと今朝はごめんなさいね」俺の前にティーカップを置きながら、千鶴さんが言った。
「いえ、俺のほうこそ...」ぺこりと頭を下げる。
「さっき、ようやく連絡があってね。手術は無事終わったって」
「はい」
「ええ...手術は無事終わったのだけれど、完全に成功というところまではいかなかったって...」
「どういうことですか?」
「志保ちゃんの場合、心臓の弁の機能に問題があるらしくて...。それを形成...っていうらしいんだけど、もともとある弁を使って正常な状態に戻す手術をしようとしたらしいけど...。術後の状態が期待していたほどではなかったみたい...」
「そうですか...」
「でも、心配しないで。術後の一時的なものかも知れないし、うちの人もむこうへ行ってサポートするって話だから。私を手術したときの経験も何かしら役には立つはずよ」
「はい...」
千鶴さんと志保は、体質的にみても症状をとってみても、非常に似通っているらしかったので、おじいさんが行動を起こしたことに少なからず安堵した。
「だから樹君も、あんまり気落ちしないで。ね?」
「はい。ありがとうございます」
紅茶を一口すする。その香りと温度が、騒ぎ立てる胸の内をほぐしてくれたように感じた。今は現地で治療に当たるすべての人を、志保を、志保のおじいさんを、頼れるものすべてを信じることにした。
「樹君...」
その表情は、想像していたものとは違っていた。
「千鶴さん。志保は...?」
「多佳子さんから連絡があって、手術は無事終わったそうよ」
そう聞いてひとまず胸をなでおろした俺に、千鶴さんは続けた。
「でも...」
「でもって...志保に何かあったんですか!?」
今朝の反省も空しく、また千鶴さんを問い詰める。わかってはいても、冷静ではいられなかった。
「大丈夫よ樹君。大丈夫」
俺の肩に手を置いて、千鶴さんはなだめるように言った。
「すみません...」
「いいのよ。今日は予備校?無ければ、ちょっと上がっていきなさい」
「はい...」
新学期が始まった今となっては、夏休みのようにほとんど毎日通うわけではない。休講日だったので、その言葉に甘えることにした。ただ、講義があったとしても、まともにそれを受けることができるとも思えなかった。
「さあ、そこに座って。ちょうど紅茶を淹れたところなの」
駄菓子屋の奥の畳敷きの部屋。六畳ほどのスペースの真ん中に、古びたちゃぶ台があった。千鶴さんに言われるがままに、奥側の座布団に正座した。
「ありがとうございます...」
「あらあら、楽に座りなさい。別に失礼だなんて思わないから」
「あ、はい」
お盆に紅茶を乗せて現れた千鶴さんにそう言われて、足をくずす。千鶴さんも向かい側に座った。
「さっきと今朝はごめんなさいね」俺の前にティーカップを置きながら、千鶴さんが言った。
「いえ、俺のほうこそ...」ぺこりと頭を下げる。
「さっき、ようやく連絡があってね。手術は無事終わったって」
「はい」
「ええ...手術は無事終わったのだけれど、完全に成功というところまではいかなかったって...」
「どういうことですか?」
「志保ちゃんの場合、心臓の弁の機能に問題があるらしくて...。それを形成...っていうらしいんだけど、もともとある弁を使って正常な状態に戻す手術をしようとしたらしいけど...。術後の状態が期待していたほどではなかったみたい...」
「そうですか...」
「でも、心配しないで。術後の一時的なものかも知れないし、うちの人もむこうへ行ってサポートするって話だから。私を手術したときの経験も何かしら役には立つはずよ」
「はい...」
千鶴さんと志保は、体質的にみても症状をとってみても、非常に似通っているらしかったので、おじいさんが行動を起こしたことに少なからず安堵した。
「だから樹君も、あんまり気落ちしないで。ね?」
「はい。ありがとうございます」
紅茶を一口すする。その香りと温度が、騒ぎ立てる胸の内をほぐしてくれたように感じた。今は現地で治療に当たるすべての人を、志保を、志保のおじいさんを、頼れるものすべてを信じることにした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる