いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

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第19話「いつかまた、バス停で」②

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    秋。二度目の手術が行われることになった。身体への負担を考えれば最後のチャンスだった。事の重大さは、千鶴さんも志保のもとへ向かったことからもはかり知れた。

「すぐに戻るから、心配しないで。もしかすると電話もろくにできないかもしれないから。何かあれば必ず連絡するわ」
    日本を発つ日の朝、見送る俺に千鶴さんはそう言った。『何かあれば』その言葉がやけに耳に残った。

    その日を境に、俺は受験勉強に没頭した。昼も夜も無く、ただただ一心不乱に机に向かい、教科書や問題集と格闘した。そんな俺に対して父は何も言わず、必要な時に必要なものを与えてくれた。それは、参考書であったり、授業料であったり、温かい夜食であったりした。

    矢のように時が過ぎた。センター試験を迎えるころには、俺の成績はまずまずのところまで伸びていた。それでも、志望する国立大学に合格するには五分五分といったところだった。
    当然俺は諦めなかった。ただひたすらに自分の夢に向き合った。遠く海の向こうで、自分とは比較にならない困難に立ち向かう志保のことを思えば、なんてことはなかった。

    一月、多少の不安を残しながらもセンター試験に挑んだ。
    試験日の四日前に、風邪で寝込むというアクシデントにも見舞われたが、冷却シートと気合で試験を乗り切った。ここまでくればあと少し。
    翌日には新聞へ解答が掲載された。俺の結果は...自分でも驚くものだった。
    苦手な『地理B』で多少へこみがあったとはいえ、おおむね目標としていた点数は超えることができていた。なので、二次試験に弾みがついた。あとは志望校合格へ向けて突っ走るだけだ。

    千鶴さんから、未だに連絡は来ないでいた。


    二月、センター試験の結果にあぐらをかかず、しっかり取り組んだが、またしても試験直前に風邪をひく。こうなればもう験担ぎのように思えてならなかった。
    以前と同様に冷却シートと気合を装備して挑んだ試験は、今まで以上に頭が冴えていると思えるほどだった。

    そして俺はやり遂げた。志望する大学へ現役で合格した。
    発表の日、父がどうしてもついていくときかなかったので、親子揃って朝一番の新幹線で出発して、発表時間前には受験番号の貼られた掲示板の前にならんだ。
    父は俺の番号を勘違いしたうえに、語呂合わせで憶えていたため、隣で連呼される父の言葉につられて番号を探してしまい、一時は落ちたと勘違いした。念のため受験票を確認して父を叱り、今度こそ、自分の受験番号を見つけた。
    これまでの日々が報われた気がして嬉しかった。嬉しかったが、まだ心残りはあった。

    受験勉強中も何度となく、千鶴さんの店の前を通ってみた。シャッターには、しばらく休業する旨を記した紙が貼られていた。診療所も同じ状態で、玄関には、隣町にある少し大きな病院へ行くようにとの案内があった。

    そしてそれは、進学後、夏に実家に帰ったときにも同じだった。

    風雨にさらされて傷んだ紙を見るたびに、気持ちばかり焦ってしまう。状況が知りたかった。
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