傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む

かずまさこうき

文字の大きさ
58 / 81
第三章 謀略編

第58話 叙爵式

しおりを挟む
 笑い終えた公爵家令嬢は側にいるレベッカを見据えた。

「レベッカ、貴女あなたは、ラウールとともに、私が公爵家の摂政となる事の公認を国王に働きかけなさい。あらゆるツテを利用し叙爵式までに必ず成し遂げなさい。お金はいくら掛かっても構いません。いいわね?」

 レベッカが同意の意を示し、即座に広間から退室した。ミレーヌは執務室に戻り、椅子に腰掛け腕を組んだ。

(今は、これでいい。摂政の公認さえ取れば今までどおりだ。しかし、シリルが大きくなったらどうするのか……)

 ミレーヌは、シリルという存在が、将来の計画にとって最大の不確定要素であることを理解していた。

(彼はまだ幼い。私の言うとおりに動く。しかし、あと数年経てば違う反応をするかもしれない。私の指示に反したらどうする? それに叙爵後は貴族として社交場にも出向く必要があり、敵に指嗾しそうされる恐れがある。私が常に付き添うことは難しい……かといって殺害は下策の下だ……しかし叙爵後に人が変わったらどうする……立場は私よりも上だ。絶対に支配下に置かなければならない……)

 考えがまとまらず苛立ったミレーヌは近くにあった呼び鈴を鳴らし、リサに紅茶を持ってくるよう命じた。

「かしこまりました。先ほどシリル様付のメイドからお坊ちゃまは今ベッドでお休みになられたと報告がありました」
「そう、ありがとう」

 リサが退室したあと、ミレーヌは立ち上がり窓から外を眺める。空は、冬の冷たい空気が澄み切ったガラスのように広がり、凍てつくような光が世界を照らしていた。

(シリルを確実に支配下にするにはどうすればいいのか……。今は疲れてベッドで寝ている少年だが成長は早い。ん? ベッドで寝ている……)

 ミレーヌは椅子に座り手を顔の前で組んだ。

(そう、その手があった。そうすれば彼を私に依存し傀儡化するのは容易。だが……しかし、これが一番確実だ。何を動揺しているのか。私らしくない。この体は幅下香織ではない。前世でも経験したことではないか。許されざる行為? そんなものは誰が決めた。私がこの世界に新たなルールを作る。こんなところで躓くわけにはいかない。それにアイツに打ち勝つにはこれしかないではないか。何を躊躇する。私らしくない。でも……)

 目を閉じ、右手の人差し指で左手の指の付け根を数回叩く銀髪の公爵家当主。すると、リサが紅茶を持って入室しミレーヌの前に、入れたての紅茶を置く。アールグレイの香りがミレーヌを包む。彼女は、意を決したかのように、徐に目を開けてリサに告げた。

「リサ、ありがとう。それと、レベッカを呼んでくれない?」

◆◇◆◇

 それから十日後、突貫工事の末に、ミレーヌの寝室の隣にシリルの寝室が新たに作られた。寝室の間には扉も設置された。レベッカは家中に、勅使が来てから動揺が著しいお坊ちゃまにお嬢様が夜な夜な面倒を見ると説明し、あのミレーヌ様がと驚きの声も少なからず上がった。

 その日の夜、ミレーヌは自身の寝室からシリルの寝室の扉のノブに手を伸ばす。決断をし、覚悟は決めた。あとは扉を開くだけだ。しかし、胸の奥に、説明のつかない微かな違和感が走った。彼女は目を閉じ俯いた。

(これしかないの。今できる手を打たなければ、彼は獅子身中の虫になる可能性が高いのよ。世界を変えるために手段を選ばないと決めたじゃない。前世と違って、思ったことを出来る立場にあるの。今、こんなことに躊躇してどうするつもり? アイツに笑われるだけじゃない)

 違和感を振り切り、再び扉のノブに手を伸ばすも、その手が震えていた。その手を見てなぜか徐に口元に笑みを浮かべた銀髪の公爵令嬢。

(私も人間ということなのね。この体も所詮道具よ。さあいくわ)

 扉を開けると、ベッドに座って不安げな表情でいるシリルが居た。

「お姉さま、どうしたの?」
「あれからずっと不安に思っているようだから、一緒に寝てあげようと思って」
「ほんとうに! うれしい!」

 ミレーヌはシリルの隣に座り、彼の手を握った。シリルの表情は一転し幸せそうな笑みを浮かべた。ミレーヌは、シリルを優しく包み込み、彼の耳元でささやいた。

「これからは毎晩一緒よ」

◆◇◆◇

 それから二か月半後、若葉が生い茂る季節となった。王都の王宮の広間にはミレーヌとシリルが跪いている。国王がシリルに公爵位をさずける。そして、国王は、ミレーヌに対し、公爵家の摂政として、シリル公爵を補佐するよう命じた。
 国王の退室後、二人は広間から退室する。シリルは勅命を受けた時とは打って変わり、物おじしない態度だ。まるで何かを捨て、少年から青年にかわったかのように。そして、彼は恍惚の目でミレーヌを見る。それを見てほほ笑むミレーヌ。シリルはミレーヌの手に絡みつくように握り、二人は王宮を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ
恋愛
オルソン家の伯爵令嬢エリカ。彼女は亡き母がメイドだった為に異母姉ローズとその母によって長年虐げられていた。 二人から男好きの悪女の噂を流布され、それを真に受けた結婚相手に乱暴に扱われそうになる。 その瞬間エリカは前世の記憶を思い出した。そして今の自分が「一輪の花は氷を溶かす」という漫画のドアマットヒロインに転生していることに気付く。 漫画の内容は氷の公爵ケビン・アベニウスが政略結婚相手のエリカを悪女と思い込み冷遇するが、優しさに徐々に惹かれていくという長編ストーリーだ。 しかし記憶を取り戻した彼女は呟く。「そんな噂を鵜呑みにするアホ男なんてどうでもいいわ」 夫からの愛を求めない新生エリカは悪女と呼ばれようと自分らしく生きることを決意するのだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。

ハチワレ
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。 普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...