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第三章 謀略編
第58話 叙爵式
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笑い終えた公爵家令嬢は側にいるレベッカを見据えた。
「レベッカ、貴女は、ラウールとともに、私が公爵家の摂政となる事の公認を国王に働きかけなさい。あらゆるツテを利用し叙爵式までに必ず成し遂げなさい。お金はいくら掛かっても構いません。いいわね?」
レベッカが同意の意を示し、即座に広間から退室した。ミレーヌは執務室に戻り、椅子に腰掛け腕を組んだ。
(今は、これでいい。摂政の公認さえ取れば今までどおりだ。しかし、シリルが大きくなったらどうするのか……)
ミレーヌは、シリルという存在が、将来の計画にとって最大の不確定要素であることを理解していた。
(彼はまだ幼い。私の言うとおりに動く。しかし、あと数年経てば違う反応をするかもしれない。私の指示に反したらどうする? それに叙爵後は貴族として社交場にも出向く必要があり、敵に指嗾される恐れがある。私が常に付き添うことは難しい……かといって殺害は下策の下だ……しかし叙爵後に人が変わったらどうする……立場は私よりも上だ。絶対に支配下に置かなければならない……)
考えがまとまらず苛立ったミレーヌは近くにあった呼び鈴を鳴らし、リサに紅茶を持ってくるよう命じた。
「かしこまりました。先ほどシリル様付のメイドからお坊ちゃまは今ベッドでお休みになられたと報告がありました」
「そう、ありがとう」
リサが退室したあと、ミレーヌは立ち上がり窓から外を眺める。空は、冬の冷たい空気が澄み切ったガラスのように広がり、凍てつくような光が世界を照らしていた。
(シリルを確実に支配下にするにはどうすればいいのか……。今は疲れてベッドで寝ている少年だが成長は早い。ん? ベッドで寝ている……)
ミレーヌは椅子に座り手を顔の前で組んだ。
(そう、その手があった。そうすれば彼を私に依存し傀儡化するのは容易。だが……しかし、これが一番確実だ。何を動揺しているのか。私らしくない。この体は幅下香織ではない。前世でも経験したことではないか。許されざる行為? そんなものは誰が決めた。私がこの世界に新たなルールを作る。こんなところで躓くわけにはいかない。それにアイツに打ち勝つにはこれしかないではないか。何を躊躇する。私らしくない。でも……)
目を閉じ、右手の人差し指で左手の指の付け根を数回叩く銀髪の公爵家当主。すると、リサが紅茶を持って入室しミレーヌの前に、入れたての紅茶を置く。アールグレイの香りがミレーヌを包む。彼女は、意を決したかのように、徐に目を開けてリサに告げた。
「リサ、ありがとう。それと、レベッカを呼んでくれない?」
◆◇◆◇
それから十日後、突貫工事の末に、ミレーヌの寝室の隣にシリルの寝室が新たに作られた。寝室の間には扉も設置された。レベッカは家中に、勅使が来てから動揺が著しいお坊ちゃまにお嬢様が夜な夜な面倒を見ると説明し、あのミレーヌ様がと驚きの声も少なからず上がった。
その日の夜、ミレーヌは自身の寝室からシリルの寝室の扉のノブに手を伸ばす。決断をし、覚悟は決めた。あとは扉を開くだけだ。しかし、胸の奥に、説明のつかない微かな違和感が走った。彼女は目を閉じ俯いた。
(これしかないの。今できる手を打たなければ、彼は獅子身中の虫になる可能性が高いのよ。世界を変えるために手段を選ばないと決めたじゃない。前世と違って、思ったことを出来る立場にあるの。今、こんなことに躊躇してどうするつもり? アイツに笑われるだけじゃない)
違和感を振り切り、再び扉のノブに手を伸ばすも、その手が震えていた。その手を見てなぜか徐に口元に笑みを浮かべた銀髪の公爵令嬢。
(私も人間ということなのね。この体も所詮道具よ。さあいくわ)
扉を開けると、ベッドに座って不安げな表情でいるシリルが居た。
「お姉さま、どうしたの?」
「あれからずっと不安に思っているようだから、一緒に寝てあげようと思って」
「ほんとうに! うれしい!」
ミレーヌはシリルの隣に座り、彼の手を握った。シリルの表情は一転し幸せそうな笑みを浮かべた。ミレーヌは、シリルを優しく包み込み、彼の耳元でささやいた。
「これからは毎晩一緒よ」
◆◇◆◇
それから二か月半後、若葉が生い茂る季節となった。王都の王宮の広間にはミレーヌとシリルが跪いている。国王がシリルに公爵位をさずける。そして、国王は、ミレーヌに対し、公爵家の摂政として、シリル公爵を補佐するよう命じた。
国王の退室後、二人は広間から退室する。シリルは勅命を受けた時とは打って変わり、物おじしない態度だ。まるで何かを捨て、少年から青年にかわったかのように。そして、彼は恍惚の目でミレーヌを見る。それを見てほほ笑むミレーヌ。シリルはミレーヌの手に絡みつくように握り、二人は王宮を後にした。
「レベッカ、貴女は、ラウールとともに、私が公爵家の摂政となる事の公認を国王に働きかけなさい。あらゆるツテを利用し叙爵式までに必ず成し遂げなさい。お金はいくら掛かっても構いません。いいわね?」
レベッカが同意の意を示し、即座に広間から退室した。ミレーヌは執務室に戻り、椅子に腰掛け腕を組んだ。
(今は、これでいい。摂政の公認さえ取れば今までどおりだ。しかし、シリルが大きくなったらどうするのか……)
ミレーヌは、シリルという存在が、将来の計画にとって最大の不確定要素であることを理解していた。
(彼はまだ幼い。私の言うとおりに動く。しかし、あと数年経てば違う反応をするかもしれない。私の指示に反したらどうする? それに叙爵後は貴族として社交場にも出向く必要があり、敵に指嗾される恐れがある。私が常に付き添うことは難しい……かといって殺害は下策の下だ……しかし叙爵後に人が変わったらどうする……立場は私よりも上だ。絶対に支配下に置かなければならない……)
考えがまとまらず苛立ったミレーヌは近くにあった呼び鈴を鳴らし、リサに紅茶を持ってくるよう命じた。
「かしこまりました。先ほどシリル様付のメイドからお坊ちゃまは今ベッドでお休みになられたと報告がありました」
「そう、ありがとう」
リサが退室したあと、ミレーヌは立ち上がり窓から外を眺める。空は、冬の冷たい空気が澄み切ったガラスのように広がり、凍てつくような光が世界を照らしていた。
(シリルを確実に支配下にするにはどうすればいいのか……。今は疲れてベッドで寝ている少年だが成長は早い。ん? ベッドで寝ている……)
ミレーヌは椅子に座り手を顔の前で組んだ。
(そう、その手があった。そうすれば彼を私に依存し傀儡化するのは容易。だが……しかし、これが一番確実だ。何を動揺しているのか。私らしくない。この体は幅下香織ではない。前世でも経験したことではないか。許されざる行為? そんなものは誰が決めた。私がこの世界に新たなルールを作る。こんなところで躓くわけにはいかない。それにアイツに打ち勝つにはこれしかないではないか。何を躊躇する。私らしくない。でも……)
目を閉じ、右手の人差し指で左手の指の付け根を数回叩く銀髪の公爵家当主。すると、リサが紅茶を持って入室しミレーヌの前に、入れたての紅茶を置く。アールグレイの香りがミレーヌを包む。彼女は、意を決したかのように、徐に目を開けてリサに告げた。
「リサ、ありがとう。それと、レベッカを呼んでくれない?」
◆◇◆◇
それから十日後、突貫工事の末に、ミレーヌの寝室の隣にシリルの寝室が新たに作られた。寝室の間には扉も設置された。レベッカは家中に、勅使が来てから動揺が著しいお坊ちゃまにお嬢様が夜な夜な面倒を見ると説明し、あのミレーヌ様がと驚きの声も少なからず上がった。
その日の夜、ミレーヌは自身の寝室からシリルの寝室の扉のノブに手を伸ばす。決断をし、覚悟は決めた。あとは扉を開くだけだ。しかし、胸の奥に、説明のつかない微かな違和感が走った。彼女は目を閉じ俯いた。
(これしかないの。今できる手を打たなければ、彼は獅子身中の虫になる可能性が高いのよ。世界を変えるために手段を選ばないと決めたじゃない。前世と違って、思ったことを出来る立場にあるの。今、こんなことに躊躇してどうするつもり? アイツに笑われるだけじゃない)
違和感を振り切り、再び扉のノブに手を伸ばすも、その手が震えていた。その手を見てなぜか徐に口元に笑みを浮かべた銀髪の公爵令嬢。
(私も人間ということなのね。この体も所詮道具よ。さあいくわ)
扉を開けると、ベッドに座って不安げな表情でいるシリルが居た。
「お姉さま、どうしたの?」
「あれからずっと不安に思っているようだから、一緒に寝てあげようと思って」
「ほんとうに! うれしい!」
ミレーヌはシリルの隣に座り、彼の手を握った。シリルの表情は一転し幸せそうな笑みを浮かべた。ミレーヌは、シリルを優しく包み込み、彼の耳元でささやいた。
「これからは毎晩一緒よ」
◆◇◆◇
それから二か月半後、若葉が生い茂る季節となった。王都の王宮の広間にはミレーヌとシリルが跪いている。国王がシリルに公爵位をさずける。そして、国王は、ミレーヌに対し、公爵家の摂政として、シリル公爵を補佐するよう命じた。
国王の退室後、二人は広間から退室する。シリルは勅命を受けた時とは打って変わり、物おじしない態度だ。まるで何かを捨て、少年から青年にかわったかのように。そして、彼は恍惚の目でミレーヌを見る。それを見てほほ笑むミレーヌ。シリルはミレーヌの手に絡みつくように握り、二人は王宮を後にした。
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