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間章
第59話 幕間(強欲な女)
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叙爵式が終わった日の夜。とある部屋で、一人の女性が静かにソファーに腰掛けていた。十八歳にしてはどこか陰のある瞳を持つ彼女の隣には、見事な白髪の老執事が立っている。その老いた執事は、主人の深い思索の邪魔をせぬよう、静かにその場に控えていた。
「それで、叙爵式は滞りなく終わったのね」
「はい、お嬢様」
仰々しく一礼する老執事。そして、手慣れた手つきで紅茶を注ぎ、女性に差し出した。彼女は、その紅茶の香りを楽しんだのち、一口飲み、老執事に言った。
「ああ、やっぱり貴方が入れる紅茶は本当に美味しいわ。それにしても、フレーバーティーなど飲む者の気が知れないわ。特にアールグレイの香りなんて邪魔以外の何物でもないわ」
老執事は、頷き同意を示した。彼は、主人が幼い頃から紅茶を好む一方、フレーバーティーの香りをことさら嫌うことを熟知していた。
「それで、お嬢様、新たな公爵とその姉は仲むつまじく帰ったとのことです」
「所詮は子供。単に姉に執着してるだけじゃない」
「おっしゃるとおりですな」
二人は公爵令嬢の対応策にまだ気が付いていない。
「人の気持ちなどまったく理解できないあの女を婚約者の座から追い落とすのは簡単だったし、このまま朽ち果てるかと思ったら、公爵家の実権握るとはね。本当に邪魔な女」
彼女は、自身が、公爵令嬢を追い落としたことに優越感を抱く一方で、彼女が自分と並び立つ舞台に再び現れたことに対して、言い知れぬ嫉妬と苛立ちを覚えていた。
「三流役者たちを踊らせてみたけど所詮三流。役に立たなかったけど、今回は上手くいったわね」
少しほほ笑みながらその少女は言葉をつなげた。自身では気が付いてないのだろうが、彼女の笑顔には、好敵手といえるべき相手とチェスするような、興奮が浮かんでいたことに老執事は気が付いていた。
「でも、摂政を認めるなんて、ほんと王も愚かよね。まあ、あの女は、いずれ始末するとして、それより早く計画を進めないと。純情坊やの説得に予想外に時間を取られたせいで、予定が狂っちゃったし」
「お言葉ではございますが、あまり急ぎますと不審に思うものもおりますので、ゆっくりとおやりになった方がよろしいかと。御父上もその点のみ懸念しておりますし」
彼女は、老紳士の正論に少し不貞腐れた顔をした。
「早く欲しいのよ。分るでしょ?」
「それは承知しております」
「医師たちはどうなの? うまくやってるの?」
「はい、滞りなく。お嬢様の指示どおりすすめております」
その言葉を聞いて、口元に明らかな笑みを浮かべる女。
「この国を奪うのは私。邪魔なあの女を始末するのも私。この世界、全てを手に入れるのは私。そうよね?」
「はい、お嬢様」
老執事は、無表情で主の言葉に同意する。長きにわたって仕えてきた彼は、主人が世界を手にしても、その強大な欲求が満たされることは決してないことを知っていた。だが、彼は、主人の要望を満たすことこそ、生涯をささげると決めており、彼女の言葉をただ静かに受け入れる。
その部屋には紅茶の香りがまだ漂っていた。
「それで、叙爵式は滞りなく終わったのね」
「はい、お嬢様」
仰々しく一礼する老執事。そして、手慣れた手つきで紅茶を注ぎ、女性に差し出した。彼女は、その紅茶の香りを楽しんだのち、一口飲み、老執事に言った。
「ああ、やっぱり貴方が入れる紅茶は本当に美味しいわ。それにしても、フレーバーティーなど飲む者の気が知れないわ。特にアールグレイの香りなんて邪魔以外の何物でもないわ」
老執事は、頷き同意を示した。彼は、主人が幼い頃から紅茶を好む一方、フレーバーティーの香りをことさら嫌うことを熟知していた。
「それで、お嬢様、新たな公爵とその姉は仲むつまじく帰ったとのことです」
「所詮は子供。単に姉に執着してるだけじゃない」
「おっしゃるとおりですな」
二人は公爵令嬢の対応策にまだ気が付いていない。
「人の気持ちなどまったく理解できないあの女を婚約者の座から追い落とすのは簡単だったし、このまま朽ち果てるかと思ったら、公爵家の実権握るとはね。本当に邪魔な女」
彼女は、自身が、公爵令嬢を追い落としたことに優越感を抱く一方で、彼女が自分と並び立つ舞台に再び現れたことに対して、言い知れぬ嫉妬と苛立ちを覚えていた。
「三流役者たちを踊らせてみたけど所詮三流。役に立たなかったけど、今回は上手くいったわね」
少しほほ笑みながらその少女は言葉をつなげた。自身では気が付いてないのだろうが、彼女の笑顔には、好敵手といえるべき相手とチェスするような、興奮が浮かんでいたことに老執事は気が付いていた。
「でも、摂政を認めるなんて、ほんと王も愚かよね。まあ、あの女は、いずれ始末するとして、それより早く計画を進めないと。純情坊やの説得に予想外に時間を取られたせいで、予定が狂っちゃったし」
「お言葉ではございますが、あまり急ぎますと不審に思うものもおりますので、ゆっくりとおやりになった方がよろしいかと。御父上もその点のみ懸念しておりますし」
彼女は、老紳士の正論に少し不貞腐れた顔をした。
「早く欲しいのよ。分るでしょ?」
「それは承知しております」
「医師たちはどうなの? うまくやってるの?」
「はい、滞りなく。お嬢様の指示どおりすすめております」
その言葉を聞いて、口元に明らかな笑みを浮かべる女。
「この国を奪うのは私。邪魔なあの女を始末するのも私。この世界、全てを手に入れるのは私。そうよね?」
「はい、お嬢様」
老執事は、無表情で主の言葉に同意する。長きにわたって仕えてきた彼は、主人が世界を手にしても、その強大な欲求が満たされることは決してないことを知っていた。だが、彼は、主人の要望を満たすことこそ、生涯をささげると決めており、彼女の言葉をただ静かに受け入れる。
その部屋には紅茶の香りがまだ漂っていた。
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