傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む

かずまさこうき

文字の大きさ
63 / 81
第四章 陰謀編

第63話 会談

しおりを挟む
 一週間後、ミレーヌはリアル辺境伯の館に到着した。フィデール警護隊長を従えて応接室に案内されると、すでにゲオルクがソファーに座って手を上げた。フィデールが睨みつけるも、ミレーヌは振り返り目線で彼の自制を促した。銀髪の公爵家摂政は、ゲオルクの隣に座り、ゲオルクに言葉を投げかけた。

「元気そうね」
「いい息抜きができたと言いたいが、思いのほか息苦しくてたまらないね」
「感動の対面をしたのでしょ?」
「まさか」

 笑いながらゲオルクは答えた。

「それで、どうして俺の同席を求めた?」
「知りたいの? じゃあ金貨二枚で教えてあげる」
「金取るのかよ?」
「当り前じゃない」

 珍しく微笑みながら答えるミレーヌを見て、ゲオルクは彼女の意図を絶対に当ててやると心に誓った。すると、ドアが開き、リアル辺境伯が入ってきた。ミレーヌが立ち上がったのを見て、ゲオルクもやむを得ず立ち上がる。

「ミレーヌ様はじめまして。リアル・グラックと申します」
「はじめましてリアル辺境伯。ミレーヌ・グラッセです。隣にいる者はご存じですね。ゲオルク・グラック。今は私が雇っている傭兵団の団長です。あと、後ろに控えているのはフィデール。警護隊長です」
「遠路はるばるお越しいただき恐縮です。まずはおかけ下さい」

 ミレーヌは優雅な所作でソファーに座る。それを見て、リアルとゲオルクも座った。入室したメイドが紅茶を運んでいる間、ミレーヌは口を開いた。

「辺境伯は、我が公爵家とお隣なのに、初めてお目にかかるのは不思議なことですわ。王宮にいた時もお会いしたことはございませんでしたし」
「申し訳ございません。隣国のラスカ王国がいつ責めるか分からない状況でして、領地を離れるわけには行かず、いつも名代の者を使わしておりました」
「お気にする必要はありません。王国の盾と名高い辺境伯がこの地を治めるからこそ、王都の皆様は安心して生活ができるというものですわ」

 そう言うと、メイドが運んだ紅茶を優雅に飲むミレーヌ。

「そして、王都の者が安心して遊べるのも辺境伯のおかげです」
「……」

 リアル辺境伯は、ミレーヌの正鵠を得た発言に思わず黙り込んでしまった。

「辺境伯がこういう状況を望んでいらっしゃるなら、私としても言うべきことはございません」

 紅茶を置いたミレーヌは、リアルにほほえみかけた。その瞳に思わず唾を飲み込むリアル。

「紅茶美味しかったですわ。でも、今度はアールグレイを用意していただけると嬉しゅうございます。私は普通の紅茶の香りがあまり好きではないので。ゲオルクそろそろおおおしましょう」
「お待ちください、ミレーヌ様。もうお帰りになるのでしょうか?」

 席を立とうとするミレーヌを思わず留めるリアル。

「あら、辺境伯は現状をご満足されていると思いましたから。違いましたか?」

 満足などしていない。父、祖父、いや王国の支配下となってから、代々の当主は、現状を誰一人満足していない。自分も含めて雌伏の期間と割り切って我慢してきたのだ。

「なぜそうお思いになるのですか?」
「だって、隣にいるゲオルクを見ればわかります。貴方あなたたちは誰かの下で使われることを嫌う人々だということが」

 ゲオルクは思わずミレーヌを見た。それを無視してミレーヌは言葉を繋いだ。

貴方あなたたちは、未来永劫、王国の盾であることに満足してはいないでしょ?」
「違いますと言ったら?」

 その言葉を聞いてミレーヌは座り直した。

「それでしたら話は早いですわ。公爵家に独占的に鉄をお売りいただきたいそれだけです」
「なぜ? ミレーヌ様にはメリットがあるかもしれませんが、私達は現状を打破できるとは思えません」

 『現状を打破』という単語を聞いたミレーヌは満足そうに頷いて返答した。

「もちろん、独占的にお売りいただけるのであれば、市場価格で買い取ります。そうね、今、王国が買い取っている価格の四割増しくらいかしら。さらに」
「さらに何でしょう?」
「不干渉。辺境伯がどうなさろうと私と敵対しない限り、辺境伯が治める領地の施策は、何も口出ししません」

(不干渉だと? 一国の王気取りではないか。いや待て、この女は王になるつもりなのか?)

「失礼ですが、ミレーヌ様は何をお考えなのでしょうか?」
「明敏は辺境伯ならお分かりになるのではないかと。敢えて全てを話したらお立場が悪くなるかもしれませんわ」

 リアルの脳裏に、王家から受けた屈辱と、民族の誇りの狭間で苦悩した父の姿が蘇った。王家か、それともミレーヌか。どちらにつくのがラパロ族のためになるのか。いや、どちらにつくかではない。どちらの傘の下で、自分たちが生き残れるかだ。
 ただし、この銀髪の少女に、会談の主導権を握られ続けており、不利な立場に追い込まれていると思ったリアルは反撃を試みた。

「私が王に讒訴することはお考えになっていないのですか?」
「あら、公爵と辺境伯、どちらの言を王は重視されるかお分かりになりませんか?」

 そのとおりである。公爵家と辺境伯では家格があまりにも違い過ぎる。それに自分たちは長年王家に仕えていた公爵家と違い征服された民族である。リアルは、圧倒的に不利な立場であることを改めて感じ、少し俯いてしまった。

「どうかしら? 悪い提案ではないと思いますけど。あと、辺境伯が私と敵対した勢力に攻められた場合は、公爵家はできうる限り支援します」

 リアルは、その提案に驚きを隠せなかった。王家は、自分たちを盾として利用し、鉄を廉価で買い取るだけで、有事の際には十分な支援をしてくれなかった。しかし、ミレーヌは、鉄を市場価格で買い取ると言っている。さらに、攻められた場合には支援も約束し、内政も不干渉。昔のように群雄割拠している状態ではない。我ら大国に囲まれているラパロ族としては、魅力的すぎる提案である。

「そのお約束は永続的と考えてよろしいのですか?」
「私が生きている限りは保証します。辺境伯が違約しなければの話ですが。一応遺言も定めておくけど、未来の者たちがどう判断するかは分からないわ」

 ミレーヌの言葉は、敢えて不利益を提示し嘘偽りがないと感じた。しかし、それは同時に、彼女が死ねば、その約束は無効になる可能性もあるということでもあった。族長として彼女についていくべきかどうか迷うリアル。

「あと。断るのも構いません。私はゲオルクと手を結びました。ゲオルクは二代前の当主の孫ですからラパロ族の嫡流ですわ。私の提案を断り、私が事が成った暁には……失礼、辺境伯ならもうお分かりになりますわね」

 その発言に驚き、何かを言おうとしたゲオルクに、笑みを投げかけるミレーヌ。彼はその笑みを見て言葉を押しとどめた。彼女が同席を求めた理由がようやく分り、内心感心するゲオルク。


「勝算はあるのですか?」

 リアルの疑問に、ミレーヌははっきりと笑みを浮かべて言い放った。

「もちろん。勝つか負けるかわからないギャンブルをするのは嫌いですの」

(どのみち今までどおり王国に従ったら番犬のように酷使されるだけだ。それならば彼女にかけるべきではないか。それに、独立心旺盛なゲオルクが、なぜかミレーヌに従っている。奴もミレーヌに賭けたのなら、私も賭けるべきでないか)

「わかりました。ミレーヌ様の手を取りましょう。わが族の未来のために」

 こうしてミレーヌとリアル辺境伯との同盟は密やかに締結された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ
恋愛
オルソン家の伯爵令嬢エリカ。彼女は亡き母がメイドだった為に異母姉ローズとその母によって長年虐げられていた。 二人から男好きの悪女の噂を流布され、それを真に受けた結婚相手に乱暴に扱われそうになる。 その瞬間エリカは前世の記憶を思い出した。そして今の自分が「一輪の花は氷を溶かす」という漫画のドアマットヒロインに転生していることに気付く。 漫画の内容は氷の公爵ケビン・アベニウスが政略結婚相手のエリカを悪女と思い込み冷遇するが、優しさに徐々に惹かれていくという長編ストーリーだ。 しかし記憶を取り戻した彼女は呟く。「そんな噂を鵜呑みにするアホ男なんてどうでもいいわ」 夫からの愛を求めない新生エリカは悪女と呼ばれようと自分らしく生きることを決意するのだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。

ハチワレ
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。 普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...