傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む

かずまさこうき

文字の大きさ
92 / 120
第五章 崩壊編

第92話 撤退

しおりを挟む
 ミレーヌとの会談の翌々日、ブローリ公爵は「持病の悪化」を理由に撤退を宣言し、自身の兵を連れて自領へと戻った。指揮官と主力部隊を失った北方面軍では、たちまち動揺が広がった。最大貴族である公爵が撤退したという事実は、この戦いを続ける意義が無いことを意味した。ほとんどの貴族が、ブローリ公爵を見習うかのように、兵を率いて領地へと引き上げていった。

「王命を無視して撤退するとは、どういうことだ!」

 それを聞いたラクール子爵が叫んだ。王太子昵懇の貴族十家、兵二千名程度が、未だに要塞都市ガレルッオと相対していた。

「しかし、我々だけでは戦うことはできません。もはやここまでかと。我々も撤退すべきでしょう」

 残った貴族たちが口々にラクール子爵を諫め、翌日の撤退が決まった。
 翌日、撤退準備を始めた途端、城壁の上から銃声が轟き、残った貴族の兵が倒れた。その音は、彼らが安全圏にいるという幻想を打ち砕いたのだった。ラクール子爵が慌ててガレルッオを見ると、土塁の上には、数多の銃撃兵が整然と銃口を構えていた。
「あいつら、城の外に出たのか! 今が好機だ! 皆、総攻撃だ!」

 と剣を抜き城に向かって進みだした瞬間、城壁の銃口が火を噴いた。二度目の銃声が轟き、ラクール子爵の体が激しくのけぞる。彼は何が起こったのか理解する間もなく、全身を撃ち抜かれ絶命した。
 残った貴族たちの将兵は、もはや統制を失い、武器を捨てて逃げ惑った。すると、両脇からテジ第一部隊長などが率いる兵四千が、彼らの行く手を塞ぐように攻めかかった。これは、ミレーヌが残った貴族を殲滅するために、事前に指示した包囲作戦の一環だった。結果、彼らはわずかな兵を除いて、生きて領地に戻ることはできなかった。

◇◆◇◆

 ブローリ公爵が撤退してから四日後、ドガ将軍はその報を聞き、思わず耳を疑った。彼の顔色は一瞬で青ざめ、内心の動揺が隠せない。

(やはり、貴族どもは信頼できない。ジュノイーも、もしかしたら敵なのかも……。それに、このままだと自分が王太子に叱責されてしまう……)

 ドガ将軍は、王太子の激昂する顔を脳裏に描き、戦場にとどまることの危険性を悟った。彼は自己保身を最優先し、万一に備えてジュノイー侯爵に総攻撃を命じた直後、本軍は撤退すると宣言した。

 ジュノイー侯爵も、ブローリ公爵が撤退したとの報告を事前に受けていた。彼は、いかにしてその撤退に同調するかを思案している最中、ドガ将軍から総攻撃の命が届いた。侯爵は伝令に「承知した」と伝えたが、その顔には深い諦めが浮かんでいた。

 ドガ将軍の命令は、自分の目を敵に向けるためのものであることは明白だった。彼は保身のために撤退するに違いないと思った侯爵は、静かにペンを取り、すぐにセリアへ書簡を書き始めた。
 そして、書簡を付けた伝書鳩は、王都へ向けて飛び立っていった。

◇◆◇◆

 二十日後、ドガ将軍が率いる王軍は王都に戻った。王太子から報告せよとの命があり、ドガ将軍は、謁見の間に赴き、王太子の前で跪いて報告する。

「タレーラン侯爵の命令無視など貴族達の勝手な振る舞いや、ジュノイー侯爵の稚拙な指揮のせいで、貴族たちに大きな損害をうけました。さらに、ブローリ公爵の病気を理由とした離脱により、もはや戦線を維持することはできなくなりました。貴族たちに不穏な気配があり、離反する可能性があったので、やむなく撤退を決断し、兵を損ねることなく無事に帰還しました」

 ドガ将軍の報告は、体裁を整え、責任のすべてを貴族側に押しつけるものだった。それを聞いたエドワード王太子は、顔を蒼白にしたまま、立ち上がった。

「もうよい。貴様が裏切っていることはすでに先刻承知だ。衛兵、奴を投獄せよ」

 王太子は、怒りに任せてドガ将軍に指を突きつけ、命令した。実は、ドガ将軍が王都に到着する前、セリアは王太子に囁いていた。「ドガ将軍はミレーヌと通じており、貴族の裏切りを口実に、指揮した兵を用いて、反逆の準備を進めている。その証拠に兵を損ねることなく帰還したことを誇らしげに報告するはず」と巧妙に讒訴していたのだ。エドワードの耳には、妻の言葉だけが真実として響いていた。

◇◆◇◆

 時は十六日前に遡る。ドガ将軍が命じた城壁都市ロサークの総攻撃を無視したジュノイー侯爵は、本軍の撤退の報告を受けた。娘の言うとおり、この戦いは無駄な戦いであった。それを終わらすために、各員に撤退準備をするように命じる。三日後、東方面軍は一切の混乱なく、規律正しく撤退していく。それを城壁から見ていたジャックは、敵の撤退行動が完璧であり、追撃する隙がないと判断した。
 この侯爵の撤退について、特に東方面軍に参加した貴族たちは、撤退時に、一兵も損なうことなく領地に戻れたことを高く評価した。彼らは、愚かな王太子の命令よりも、自分たちの安全を優先した侯爵に、密かに信望を寄せ始めていた。

 こうして、ミレーヌが予め描いた策によって、この大規模な軍事衝突は収束を迎えた。終戦協定は結ばれず形式上は公爵家とカッツー王国との戦争状態は続いていたが、そんな協定など当事者同士は必要とはしていなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※本作は、一般的な爽快ざまぁ・即溺愛を主軸とした作品ではありません。 主人公は苦悩や葛藤を抱えながら選択を重ねていくタイプの物語です。 また、人によっては元鞘に見える展開や、ヒーローが執着・独占欲強め(ヤンデレ寄り)と感じられる描写があります。 残酷な描写、精神的トラウマ描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【その断罪、待っていました!】 私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に—— ※他サイトでも投稿中

婚約破棄された男爵令嬢は隠れ聖女だった。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...