傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む

かずまさこうき

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第五章 崩壊編

第91話 ミレーヌの提案

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 ミレーヌが新銀貨の発行を宣言してから一週間後の夜、北方面軍を預かるブローリ公爵は、自身のテントで酒を飲んでいた。当初、長引く対陣の間に募る貴族たちの不満をなだめるのが彼の役目だった。しかし最近は、対陣日数に比例して戦費が急増し、資金援助の陳情が増える。公爵自身も金が欲しいほどの逼迫した状態であり、同情しつつ彼らの要望を断るのが日課となった。

「あの王太子は、こちらのことなどお構いなく王宮で新婦の体に溺れているのだろう。もし、参戦している貴族に対して王家からの物資や金などの支援をすれば、あの若造の人気も上がるのに、だれも進言しないとはな」

 王太子への愚痴をグラスに向かって呟くほど、彼の憂慮は日ごとに深まっていった。酒の量が増えているのが、その何よりの証拠であった。すると、ふと冷たい風が彼の頬を撫でた。公爵が入口に目をやると、いつの間にか、紅の髪の女性が音もなく跪いていた。

「敵? ではないな。何用か?」

 その女から殺気を感じなかった公爵は問いかけた。すると、その女は立ち上がって数歩近づき、懐から書状を差し出した。公爵は、その女が発する気配の薄さに、思わず老練な胸の内を覗かれたような錯覚を覚えた。しかし、彼は疑いの視線を向けたまま書状を受け取り、読んだあとに言い放った。

「委細、承知したと伝えろ」

 その女は、音もなくテントから出て闇夜に消えていった。

◇◆◇◆

 翌日の夜、ブローリ公爵は、フードをかぶってわずかな供回りとともに本陣から出た。向かう先は、向かう先は、城塞都市ガレルッオから少し離れた場所にある廃墟となった屋敷。そこは、もとは地主のものであったが、今では打ち捨てられていた。その屋敷の入り口に壮年の男性が立っていた。

「こちらへ。主人がお待ちです。他の方はここで私と一緒にお待ちください」
「中に兵が潜んでいるのではないのか?」

 疑いを伝えた公爵に向かって、壮年の男は心外とも思える顔つきになったうえで返答した。

「その言をそのまま主人に伝えてもよろしいでしょうか?」
「まて、女性に度量の狭いところを見せては名が落ちる。わかった」

 心配げに主を見る供回りにここで控えるように指示したブローリ公爵は、屋敷の中に入った。中にはダークグレーの詰襟のジャケットと乗馬パンツを着た銀髪の女性が立っていた。

「お久しぶりです。ブローリ公爵。私の両親の葬式以来ですね」
「そうだな、ミレーヌ」

 丸腰の彼女に安心した公爵は、自身が剣を帯びていることに少し恥じた。彼女の後ろには机と椅子が用意されていた。ミレーヌは優雅な所作で席に着くよう促した。公爵は恭しく一礼し、座る。それを見てミレーヌも静かに椅子を引いた。

「お互い忙しい身ですから、本題に入ってよろしいですか?」
「うむ」
「私と手を組みません?」

 やはり会談の目的はそうだったのかと思ったブローリ公爵は、ミレーヌに問いかけた。

「見返りは?」
「まず手付として、先日発行した新しい銀貨を無利子貸与。そして……」

 ミレーヌは、わざと言葉を続けなかった。すると公爵が聞き返した。

「そして?」
「成功の暁にはカッツー王国半分を」

(分割統治しようということか。王太子があれならもう王家の命運も尽きたかもしれんな。それに、ミレーヌと争っても、益は無いから乗ってもよいが……)

「この私に反逆者になれというのか。このまま君を潰した方が、私にとって有益ではないか?」
「そうでしょうか? 王家は、グラッセ公爵家を取り潰したあと、もう一つの最大貴族を標的にするでしょう」
「そんなことはあり得ないな」
「では、一年前にグラッセ公爵家が王家から討伐されると、誰が予想できたでしょうか?」

 確かにそんなバカげたことなど誰も想像していなかった。

「それに、この話を断ったら、公爵は立ち行かなくなりますよ」
「どういうことだ?」

 ミレーヌは、訝しげに問いかけた公爵に説明を始めた。新たな良貨を発行してから、銀の含有量が低い王家や他の貴族が発行する旧銀貨の信用は下がりはじめていること。さらに、今回の戦争で経営状況が苦しい貴族は、信用低下に伴う貨幣価値の下落によって、まるで熱湯でゆでられる蛙のように、破産寸前に追い込まれていると。

(先日、家令からこのまま対陣が続けば財政悪化により借財せざるを得ないと報告があったが……新銀貨の発行は、我々貴族や王家をさらに追い詰めるための策だったのか。待てよ、そもそも対陣を長引かせるように仕向けたのもこの娘の策と言うのか)

 ミレーヌの説明で納得した公爵は、最後の問いを投げかけた。

「悪い話ではないが、なぜ私を誘った?」
「他国が介入する前に王家を打倒し、この戦いを迅速に終わらせるためです。公爵家二家が手を取り合って王家を打倒すると言えば、貴族たちはどうするでしょうか?」

(そうだな。今の王家は人気が全くないうえに、最大貴族二家が手を取って挙兵したら、貴族たちはこちらになびく可能性が高い)

 ミレーヌの言葉を聞きながら、公爵の心は最終的な計算を終えた。王家という沈む泥船と心中するより、この銀髪の少女が提示する「王国の半分」に賭ける方が、はるかに合理的かつ安全だ。彼は、自分の最大の目的である自家の存続と財産を守るため、ためらうことなく王家を裏切ることを決意した。

「最初の約束は嘘偽りは無いな」
「お疑いになるなら一筆書きましょうか?」
「いや、結構。君と手を結ぼう」

 こうしてカッツー王国を二分することを目的とした秘密同盟が締結された。
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