傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む

かずまさこうき

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第五章 崩壊編

第90話 新銀貨

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 戦いが始まって二か月経過し、三月になった。公爵領の防衛拠点として機能する要塞都市ガレルッオの城内の一室で、ダークグレーの詰襟のジャケットと乗馬パンツを着こんだ銀髪の女性、そう、ミレーヌは、ラウールの報告を受けていた。城壁の外では銃声が途絶えても、この部屋の空気は常に戦時下にあったが、ミレーヌの関心は、防衛戦の状況ではなかった。

「元気そうね」
「おかげさまで、貴族に他国から運んだ大量の物資を売るだけで莫大な利益を得ることができました」

 ラウールは笑顔で答えた。彼はミレーヌの指示で、貴族連合軍に対して他国などから買い付けた補給物資を売りさばいていた。通常の五倍の価格でも買い取る貴族もいて、彼は巨万の富を得ていた。もちろん、ラウールが手配した商人の補給部隊は、ゲオルクが襲わないように目印をしている。

「リアル辺境伯とラスカ王国の戦いはどうなったの?」

 ミレーヌの策によりリアル辺境伯の兵がミレーヌの元へ向かうと知ったラスカ王国は二万五千の兵でリアル辺境伯の領地に攻め入っていた。

「リアル辺境伯が無事に勝利しました」

 ラウールは戦いの詳細を説明した。曰く、リアル辺境伯は、ラスカ王国の軍を領内奥地まで誘い込み、最終防衛ラインで足止めした。そして、ゲリラ戦術で相手の補給線を絶ち、撤退時に追撃し大勝利を飾ったとのことであった。

 それを聞いたミレーヌは、リアルが予想どおりの戦果をあげたことに満足気に頷いた。ミレーヌに扇動されたラスカ王国に攻め込まれたうえに、その実力まで試されたリアル辺境伯は、まさにいい面の皮だった。

 ラウールは本題に入った。

「レベッカ様から伝言をお伝えします『必要量の生産は完了した』と」

 それを聞いたミレーヌは、静かに頷いた。彼女の口元に微かな笑みが浮かんだのをラウールは見逃さなかった。

「ラウール、今回の戦争で資金難に陥った貴族への貸付はどうなってるの?」
「はい、すでに八十家以上の貴族と貸付の契約を結び資金を貸与しました。その中には侯爵は二家、伯爵なども十家おります」

 ミレーヌは、満足げに手を組み直した。

「例の件を今月末に実施するけど、それまでに契約数を増やせるかしら?」
「もちろんです。戦いが長引いたおかげで貴族たちは金の工面に苦労してますから」
「例の文言は、契約書にちゃんと書いてあるわよね?」
「ご心配なく。あれが肝ですから」

 ラウールがニヤリと笑った。

◇◆◇◆

 ラウールとミレーヌが密談した月の末日、ミレーヌは新たな銀貨の発行を宣言した。それは銀の含有量が八割と、公爵家が以前発行していた硬貨の二倍の純度を誇る、極めて良質なものだった。
 そもそも、この国の商取引では、硬貨の額面ではなく、含まれている銀の重さで価値が決められるのが常だった。特にグラッセ公爵家は、国内最大級の銀山を保有していたため、公爵家の銀貨は他よりも含有量が多く、市場の基準として信用されていた。
 そしてミレーヌは、この新銀貨への交換は、グラッセ公爵家が以前発行した旧銀貨のみに限定し、旧銀貨二枚につき新銀貨一枚と交換すると宣言した。

 討伐令以降、ミレーヌは銀の市場供給を停止した。実際は闇市場を通じて銀は確保できるが、この先、銀を安定的に確保できるのかという憂慮が取引をする者の間に広がっていた。
 こうした状況下で、商人の間では、市場に流通する他家発行の銀貨が永続的に発行されるのかという不安が高まっていた。そこへ、信頼できるグラッセ公爵家からこのような良質な銀貨が発行されるという報せが届き、領内の商人たちはこぞって新銀貨と交換し始めた。
 こうして、ミレーヌの新銀貨は、元々あった公爵家の信用力に加え、他の銀貨を凌駕する質の高さから、公爵領内全域で基軸通貨として流通し始め、近隣の貴族領にも徐々に波及していった。

 さらに、ミレーヌはラウールに命じて、他家が発行した旧銀貨を回収するため、闇市場で旧公爵家銀貨との交換を積極的に進めるように指示した。公爵家の新たな銀貨を得ようとする者は、まず公爵家が以前発行していた旧銀貨を手に入れなければならない。この闇取引は活発化していった。公爵家発行以外の銀貨は密かに領都に集められ、その不純物が銀と分別された。

 ミレーヌに敵対する者たちは、新銀貨発行の報を聞き、戦争の最中にそのようなことをするのは何故かと、その行為の真意を測りかねた。

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