傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む

かずまさこうき

文字の大きさ
89 / 120
第五章 崩壊編

第89話 補給線

しおりを挟む
 東方面軍を指揮するジュノイー侯爵と城塞都市ロサークに篭るジャックのにらみ合いが続いていた。この間、ジュノイー侯爵は、迂回して比較的土塁の高さが低い西側から攻め込もうと軍を動かすも、城塞からの激しい銃撃にあった。軍を動かしただけで百名近くの死傷者を出したことを憂慮した侯爵は元の布陣に戻す。先の見えない戦いが東方面軍の兵士たちの疲労を加速させていった。

 東方面軍が当初運んだ兵士の食料は当然食べ尽くされ、近隣の街や商人から調達していた。しかしながら、戦争特需を見込んだ商人たちは、貴族たちの足元を見てか、見て法外な値段を吹きかける。そういう商人から買わずに、近隣の街から手配しようにも、需要は供給能力を遥かに超えており物価は高くなる一方であった。こうして、貴族たちの懐事情は悪化していった。
 領地が近い貴族たちは、商人から高値で手配するのを避け、自領から物資を運ぶ道を選んだが、最近それが相次いで襲撃される事件が発生した。

「山賊か……しかし、物資は全て焼き払われてしまっているのだろ?」
「慌てて逃げたという報告もありますから、運べないなら燃やしてしまえと思ったのかもしれません」

 補給物資の襲撃の報告を聞いたジュノイー侯爵の疑問に、腹心のマクレ子爵が答えた。

「それにしても後詰のドガ将軍は何をしているのか。山賊などに好き勝手にさせて」

 ジュノイー侯爵は、ドガの顔を思い浮かべ、忌々しげにつぶやいた。将軍は、王の直属兵という立場に胡坐をかき、自らの責任を避けようとしているだけだと侯爵は看破していた。その無責任さに、侯爵の苛立ちは募る。

「でしたら、護衛の依頼をしてみてはいかがでしょうか?」
「そうだな。卿が出向いて頼んでくれ」

 マクレ子爵は、余計なことを言ったと内心舌打ちした。ドガ将軍の説得など面倒この上ないからだ。その後、彼はドガ将軍の陣に出向いた。予想通り、ドガ将軍は補給部隊の警護ごとき任務に大切な王軍を割けないと冷たく拒否した。ジュノイー侯爵にこの失敗を報告することを考えると、帰りの足取りは鉛のように重かった。

 そんな最中、ピーター・アベラール子爵が、仲の良い男爵家数家と共同で、補給物資を運ぶ手配をしていた。単独で行動するリスクを避け、複数の貴族が共同で護衛を固めることが最も安全だと判断したからだ。
 数多の物資を運ぶその補給部隊は、後詰の本軍の検問を終え、東へと向かっていた。翌日には東方面軍に合流できるという安堵感から、兵士たちの警戒心は緩んでいた。日も暮れてきたため、彼らは街道脇で野営を決める。すぐに火がくべられ、食事の準備が始まった。周囲の森は、夜の帳が降りるにつれて、闇の深さを増していく。

「警戒を怠るな、いつ何時襲ってくるかもしれんぞ」

 指揮官が声を掛けた瞬間、闇の中から現れた男に口を塞がれ、単剣で喉を掻っ切られた。それを見た兵が剣を抜こうとすると、指揮官を葬った男は、手元の短剣を投げつけた。その短剣は、別の兵士の眉間に音もなく突き刺さり、その兵も絶命した。

「警戒を怠ってはならないというのは良い心がけだが、お前さんが一番警戒してなかったな」

 単剣を投げた男が、すでに絶命した補給部隊の指揮官に言葉を投げかける。すると、体格の良い中年男性がやってきた。

「団長、全て片付けました」

 その言葉の主は、レジス副団長であった。ゲオルクは、単身で指揮官を抹殺している間に、レジス以下五十名余のゲオルク傭兵団は、既に残りの補給部隊の兵士たちを皆殺しにしていた。

「火をつけて退散するぞ」
「前回も思いましたが、いささかもったいないですな」
「レジス、お前持って帰ってもいいぞ。その代わり置いていくからな」
「いやですよ。お前ら笑ってないで火を付けろ!」

 レジスが苛立たしげに指示を出すと、笑っていた団員たちは、松明を投げ入れた。ゲオルクは、燃え盛る補給物資から立ち上る炎を静かに見つめる。そして、彼らは徐に暗闇に消えていった。

 翌日の朝、襲撃の知らせを受けたジュノイー侯爵は、その深刻さに後詰の本軍までの街道の要所要所に兵を配備し、警戒することを決めた。しかしながら、東方面軍の補給物資の不足は明らかであり、士気の低下は著しい。彼は連日、貴族たちの愚痴を聞きながら、安全に撤退するためにはどうすればよいのかと思案するのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!

ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」 特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18) 最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。 そしてカルミアの口が動く。 「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」 オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。 「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」 この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※本作は、一般的な爽快ざまぁ・即溺愛を主軸とした作品ではありません。 主人公は苦悩や葛藤を抱えながら選択を重ねていくタイプの物語です。 また、人によっては元鞘に見える展開や、ヒーローが執着・独占欲強め(ヤンデレ寄り)と感じられる描写があります。 残酷な描写、精神的トラウマ描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【その断罪、待っていました!】 私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に—— ※他サイトでも投稿中

婚約破棄された男爵令嬢は隠れ聖女だった。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...