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第五章 崩壊編
第88話 獣道
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出発してから五日目、タレーラン侯爵は、道案内の男を先頭に獣道を進んでいた。この道は道幅は狭く二列でしか進むことができない。明らかに行軍に不向きな道であり、兵士たちの疲労は増す一方であった。しかし、侯爵の足取りは軽かった。彼の胸は、決定的な勝利を導き、功労者として賞される未来図に躍っていた。
獣道に入ってから数刻が経過した。曲がりくねった道を過ぎ、道の先が見通せる場所に差し掛かると、百五十メートル先に十名ほどの集団がいた。それを見た道案内の男は、誰にも悟られぬよう、素早く森の中へ消えていった。
「あれは何だ! 行軍の邪魔だな。誰かどかせろ!」
侯爵の指示で、十名ほどの兵士が前方へ向かった。集団は銃を構えるや否や、即座に斉射した。その轟音とともに、先頭に立っていた兵士たちが、まるで目に見えない巨大な鎌で刈られたかのように次々と倒れ伏した。
「敵か! 少数だ、一気に潰せ!」
勇ましい侯爵の掛け声により、後続の兵士たちが突進する。しかし、このあたりの獣道は狭く、一度に一人しか通れない。さらに、獣道の両脇の森から断続的な銃声が響き、侯爵の周りの兵も次々と崩れ落ちていった。
兵士たちは敵の数も姿も確認できず、ただどこからともなく飛んでくる銃弾に怯えた。この無防備な状況に、彼らの心は限界を超えて恐慌状態に陥り、逃げ出す者が現れ始めた。
「おい、貴様たち逃げるな! 敵は少数だ!」
その声が響いた瞬間、銃声が鳴り、侯爵の眉間に弾丸が貫通した。彼はもんどりうって地面に倒れた。彼の死を目撃した兵士たちは、もはや戦う意思を完全に喪失した。彼らは指揮官の死と、姿の見えない敵の銃火に恐慌をきたし、我先にと元来た道を戻り始めた。
指揮官を失った軍は、なぜ逃げているのかすら理解できず、大混乱となる。ある者は倒れた兵を踏み殺し、ある者は崖沿いの道から踏み外し、底へ転落していった。
恐慌状態が最後尾の兵士たちにまで伝播し、彼らは逃げ道を求めて獣道を突き進む。立ち止まったが最後、後続の兵士たちに踏みつぶされる恐怖が、彼らを追い立てた。
兵士たちがようやく獣道を抜けようかとしたその出口で、先頭の兵士たちが甲高い叫び声をあげて転んだ。彼らの足元からは、大量の血が噴き出していた。
両脇の木々に、数多くの細い鉄のロープが低く張り巡らされていたのだ。それに気づかず突進した兵士たちは、次々と鉄のロープに絡め取られ、前へ突っ込んできた後続の兵士たちと将棋倒しのような凄惨な状況となった。
この細いワイヤーロープは、領内の街道整備や要塞の補強といった土木工事のために、ミレーヌがホマンに指示して開発させたものだった。それが今、戦場では人の命を刈り取る非情な罠として機能している。
この狡猾な罠は、倒れる場所を想定してワイヤーがあらゆる高さに設けられていた。逃げようと獣道を避けた者たちにも罠が襲いかかり、血飛沫が舞い上がった。片手をなくす者や首と胴体が永遠に別離する者などが数多く生じた。
ゲオルクは、少し離れた木陰からその様子を静かに眺めていた。道案内役だった副団長のレジスがいつの間にか彼の傍にいた。
「悲惨ですな。それにしても団長も人が悪い。道から外れた場所にもワイヤーロープを仕込むとは」
「やるときは徹底的にするのがセオリーだ。それより、銃撃隊は指示通り後ろから追い詰めているのか?」
「はい、アーレンが滞りなく指揮してるかと」
ハルフ渓谷の戦いで多くの兵を撃ち殺したアーレンは、今回銃撃隊の指揮を任されていた。
「アーレンを副団長にしてもいいかもな」
「団長!」
「冗談だよ」
この戦いにおいて、軽口をたたくゲオルクの出番はもはやない。相手は勝手に逃げ惑い壊滅的な打撃を受けていた。
こうして、独断で抜け駆けしたタレーラン侯爵の兵は退却した。生き残ったのは六割にも満たず、無傷な兵は皆無という凄惨な敗北であった。
獣道に入ってから数刻が経過した。曲がりくねった道を過ぎ、道の先が見通せる場所に差し掛かると、百五十メートル先に十名ほどの集団がいた。それを見た道案内の男は、誰にも悟られぬよう、素早く森の中へ消えていった。
「あれは何だ! 行軍の邪魔だな。誰かどかせろ!」
侯爵の指示で、十名ほどの兵士が前方へ向かった。集団は銃を構えるや否や、即座に斉射した。その轟音とともに、先頭に立っていた兵士たちが、まるで目に見えない巨大な鎌で刈られたかのように次々と倒れ伏した。
「敵か! 少数だ、一気に潰せ!」
勇ましい侯爵の掛け声により、後続の兵士たちが突進する。しかし、このあたりの獣道は狭く、一度に一人しか通れない。さらに、獣道の両脇の森から断続的な銃声が響き、侯爵の周りの兵も次々と崩れ落ちていった。
兵士たちは敵の数も姿も確認できず、ただどこからともなく飛んでくる銃弾に怯えた。この無防備な状況に、彼らの心は限界を超えて恐慌状態に陥り、逃げ出す者が現れ始めた。
「おい、貴様たち逃げるな! 敵は少数だ!」
その声が響いた瞬間、銃声が鳴り、侯爵の眉間に弾丸が貫通した。彼はもんどりうって地面に倒れた。彼の死を目撃した兵士たちは、もはや戦う意思を完全に喪失した。彼らは指揮官の死と、姿の見えない敵の銃火に恐慌をきたし、我先にと元来た道を戻り始めた。
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恐慌状態が最後尾の兵士たちにまで伝播し、彼らは逃げ道を求めて獣道を突き進む。立ち止まったが最後、後続の兵士たちに踏みつぶされる恐怖が、彼らを追い立てた。
兵士たちがようやく獣道を抜けようかとしたその出口で、先頭の兵士たちが甲高い叫び声をあげて転んだ。彼らの足元からは、大量の血が噴き出していた。
両脇の木々に、数多くの細い鉄のロープが低く張り巡らされていたのだ。それに気づかず突進した兵士たちは、次々と鉄のロープに絡め取られ、前へ突っ込んできた後続の兵士たちと将棋倒しのような凄惨な状況となった。
この細いワイヤーロープは、領内の街道整備や要塞の補強といった土木工事のために、ミレーヌがホマンに指示して開発させたものだった。それが今、戦場では人の命を刈り取る非情な罠として機能している。
この狡猾な罠は、倒れる場所を想定してワイヤーがあらゆる高さに設けられていた。逃げようと獣道を避けた者たちにも罠が襲いかかり、血飛沫が舞い上がった。片手をなくす者や首と胴体が永遠に別離する者などが数多く生じた。
ゲオルクは、少し離れた木陰からその様子を静かに眺めていた。道案内役だった副団長のレジスがいつの間にか彼の傍にいた。
「悲惨ですな。それにしても団長も人が悪い。道から外れた場所にもワイヤーロープを仕込むとは」
「やるときは徹底的にするのがセオリーだ。それより、銃撃隊は指示通り後ろから追い詰めているのか?」
「はい、アーレンが滞りなく指揮してるかと」
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「アーレンを副団長にしてもいいかもな」
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「冗談だよ」
この戦いにおいて、軽口をたたくゲオルクの出番はもはやない。相手は勝手に逃げ惑い壊滅的な打撃を受けていた。
こうして、独断で抜け駆けしたタレーラン侯爵の兵は退却した。生き残ったのは六割にも満たず、無傷な兵は皆無という凄惨な敗北であった。
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