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第六章 簒奪編
第108話 強欲の逆襲
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グラッセ公爵家及びブローリ公爵の挙兵の報告が王宮に届いた瞬間、王妃セリアは執務室で凍りついた。しかし、彼女の顔は次の瞬間、常人には理解できない笑みに歪んだ。
(挙兵だと……あの女、密かにブローリと繋がっていたのか。ふん、その程度で私に勝った気になってるかもしれないけど、甘い。人は欲で動かせるのよ)
側近たちが驚愕の目で王妃を見つめる。セリアは笑いを断ち切ると、その瞳に炎を宿した。
「ヴィスタ帝国に使者を出すわ」
セリアの言葉に、筆頭書記官であるマルセルをはじめとする側近が顔色を変えた。ヴィスタ帝国は、王国の北東と国境を接し、王国に匹敵する国力を有する中央集権国家である。
「お待ちください、王妃様。ヴィスタ帝国とは長年の宿敵です、使者を派遣して、いかがなされるおつもりですか?」
「分かりきったことを。帝国にミレーヌを攻め込むよう依頼するのよ。報酬は占領した公爵領。つまり切り取り次第ということ」
セリアの強引な決定に、家臣たちは沈黙した。彼らは、王家の危機を救うためとはいえ、宿敵に領土を差し出すという売国的な策を飲み込むことができなかった。
「それに、ブローリ公爵にも密書を。ミレーヌを討伐すれば、今回の挙兵は不問に処す。さらに、ミレーヌを打倒した暁には、カッツー王国の摂政に任ずると伝えなさい」
セリアの言葉には、一切の躊躇がなかった。帝国は領土を欲しがってるし、ブローリ公爵は国政に携わるという地位を欲している。彼女には手に取るようにわかる。
(人を動かすなら、欲しがっているものを提示すればいい話)
しかし、セリアの言葉に危惧したマルセルは諫言する。
「王妃様、そのような気前の良い約束をしてもよろしいのでしょうか?」
「わからないの? ミレーヌさえ倒してしまえば、こっちのものよ。約束など、どうにでもなるのから」
「……」
マルセルは、王国の主権に関わる空約束を、王妃が平然と口にしたことに、言葉を失った。しかし、セリアの血走った瞳に意見できず、黙り込む。その沈黙の中、財務担当のカラウス書記官が恐る恐る意見した。彼は、前任のヤスミンが過労のため倒れた後、急遽その任に就いた人物である。
「戦費はいかがいたしましょうか? 国庫に余裕はござません」
「王室御用達の商人から借り受けなさい。渋るようなら取引停止をにおわしても構いません」
今後の交渉の困難さが、カラウスの頭の中に暗く覆い被さってくる。彼は、この命令が王家の信用をさらに落とすと知りながらも、拒否する力はなかった。カラウスは、震える手で一礼し、命令を承諾した。
その姿を見て、セリアは満足げな笑みを浮かべ、勝利を確信したかのように皆に言い放った。
「すぐに、貴族たちに動員令を。逆賊ミレーヌを帝国やブローリとともに侵攻するといってを集めなさい。カラウス、商人たちには貴族の戦費も出すようにいいなさいね」
マルセル以下家臣は一礼してセリアの命令を許諾した。セリアが退室後に、カラウスは、青ざめながら、急ぎ商人の元へ向かった。
◇◆◇◆
その日のうちに、王宮に隣接する練兵場に、セリアの命を受けた貴族たちが集まり始めた。しかし、参集した貴族は七十家のみに留まった。残りの五十家は、両公爵の挙兵を聞き、情勢を静観する様子見を決め込んでいた。彼らは、セリアによる金貨改鋳の失策により、王家の権威と貨幣の信用が失墜していることを知っていたからだ。
参集した貴族たちを前に、練兵場の指揮壇に立ったセリア。彼女は、王妃の優雅な衣装ではなく、純白の軍服を纏っていた。冷たい冬の風が、彼女の金色の髪を静かに揺らす。その場にいる多くは、父ジュノイー侯爵のシンパか、摂政就任後に援助を与えられた貴族たちだった。
「よくぞあつまってくれた。しかし、私の命を無視し、いまだに様子見を決め込む貴族たちがいる。彼らは、王家の危機を無視し、自らの利益だけを追求する裏切り者よ」
セリアの冷たい声が響いた。彼女は、「裏切り者には死を」という明確なメッセージを、その場にいる貴族たちに突きつけた。
「五万の王家の軍をもって、直ちに彼らを討伐する。参集した卿らは、王命に従い、モラン将軍の指揮のもと、速やかに討伐に向かいなさい」
その報を聞いた五十家の九割は、セリアの即断即決の行動に恐れをなし、すぐさま恭順を表明した。しかし、歯向かった貴族は、セリアの元に集まった貴族連合軍によって次々と討伐されていった。
貴族たちは、セリアの果断な行動力と、王家の軍事力という実力を改めて思い知った。王家の最大動員数は五万に及び、カッツー王国最大の戦力を有している。この数は、最大貴族である公爵家が連合してもはるかに上回っていた。
こうして、セリアは、西部貴族を完全に掌握した。そして彼女は、ミレーヌ討伐のため、貴族連合軍四万と王直属の軍五万、合わせて九万の軍を派遣することを改めて布告した。
セリアは二正面作戦となった状況を逆手に取り、ミレーヌに三正面作戦となるように仕向けたのであった。
(挙兵だと……あの女、密かにブローリと繋がっていたのか。ふん、その程度で私に勝った気になってるかもしれないけど、甘い。人は欲で動かせるのよ)
側近たちが驚愕の目で王妃を見つめる。セリアは笑いを断ち切ると、その瞳に炎を宿した。
「ヴィスタ帝国に使者を出すわ」
セリアの言葉に、筆頭書記官であるマルセルをはじめとする側近が顔色を変えた。ヴィスタ帝国は、王国の北東と国境を接し、王国に匹敵する国力を有する中央集権国家である。
「お待ちください、王妃様。ヴィスタ帝国とは長年の宿敵です、使者を派遣して、いかがなされるおつもりですか?」
「分かりきったことを。帝国にミレーヌを攻め込むよう依頼するのよ。報酬は占領した公爵領。つまり切り取り次第ということ」
セリアの強引な決定に、家臣たちは沈黙した。彼らは、王家の危機を救うためとはいえ、宿敵に領土を差し出すという売国的な策を飲み込むことができなかった。
「それに、ブローリ公爵にも密書を。ミレーヌを討伐すれば、今回の挙兵は不問に処す。さらに、ミレーヌを打倒した暁には、カッツー王国の摂政に任ずると伝えなさい」
セリアの言葉には、一切の躊躇がなかった。帝国は領土を欲しがってるし、ブローリ公爵は国政に携わるという地位を欲している。彼女には手に取るようにわかる。
(人を動かすなら、欲しがっているものを提示すればいい話)
しかし、セリアの言葉に危惧したマルセルは諫言する。
「王妃様、そのような気前の良い約束をしてもよろしいのでしょうか?」
「わからないの? ミレーヌさえ倒してしまえば、こっちのものよ。約束など、どうにでもなるのから」
「……」
マルセルは、王国の主権に関わる空約束を、王妃が平然と口にしたことに、言葉を失った。しかし、セリアの血走った瞳に意見できず、黙り込む。その沈黙の中、財務担当のカラウス書記官が恐る恐る意見した。彼は、前任のヤスミンが過労のため倒れた後、急遽その任に就いた人物である。
「戦費はいかがいたしましょうか? 国庫に余裕はござません」
「王室御用達の商人から借り受けなさい。渋るようなら取引停止をにおわしても構いません」
今後の交渉の困難さが、カラウスの頭の中に暗く覆い被さってくる。彼は、この命令が王家の信用をさらに落とすと知りながらも、拒否する力はなかった。カラウスは、震える手で一礼し、命令を承諾した。
その姿を見て、セリアは満足げな笑みを浮かべ、勝利を確信したかのように皆に言い放った。
「すぐに、貴族たちに動員令を。逆賊ミレーヌを帝国やブローリとともに侵攻するといってを集めなさい。カラウス、商人たちには貴族の戦費も出すようにいいなさいね」
マルセル以下家臣は一礼してセリアの命令を許諾した。セリアが退室後に、カラウスは、青ざめながら、急ぎ商人の元へ向かった。
◇◆◇◆
その日のうちに、王宮に隣接する練兵場に、セリアの命を受けた貴族たちが集まり始めた。しかし、参集した貴族は七十家のみに留まった。残りの五十家は、両公爵の挙兵を聞き、情勢を静観する様子見を決め込んでいた。彼らは、セリアによる金貨改鋳の失策により、王家の権威と貨幣の信用が失墜していることを知っていたからだ。
参集した貴族たちを前に、練兵場の指揮壇に立ったセリア。彼女は、王妃の優雅な衣装ではなく、純白の軍服を纏っていた。冷たい冬の風が、彼女の金色の髪を静かに揺らす。その場にいる多くは、父ジュノイー侯爵のシンパか、摂政就任後に援助を与えられた貴族たちだった。
「よくぞあつまってくれた。しかし、私の命を無視し、いまだに様子見を決め込む貴族たちがいる。彼らは、王家の危機を無視し、自らの利益だけを追求する裏切り者よ」
セリアの冷たい声が響いた。彼女は、「裏切り者には死を」という明確なメッセージを、その場にいる貴族たちに突きつけた。
「五万の王家の軍をもって、直ちに彼らを討伐する。参集した卿らは、王命に従い、モラン将軍の指揮のもと、速やかに討伐に向かいなさい」
その報を聞いた五十家の九割は、セリアの即断即決の行動に恐れをなし、すぐさま恭順を表明した。しかし、歯向かった貴族は、セリアの元に集まった貴族連合軍によって次々と討伐されていった。
貴族たちは、セリアの果断な行動力と、王家の軍事力という実力を改めて思い知った。王家の最大動員数は五万に及び、カッツー王国最大の戦力を有している。この数は、最大貴族である公爵家が連合してもはるかに上回っていた。
こうして、セリアは、西部貴族を完全に掌握した。そして彼女は、ミレーヌ討伐のため、貴族連合軍四万と王直属の軍五万、合わせて九万の軍を派遣することを改めて布告した。
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