傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む

かずまさこうき

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第六章 簒奪編

第119話 主従の終幕

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 王宮の裏手が爆破され、ジャック率いる手勢が突入し、アルビンがセリアの元へ向かった瞬間、王宮の最終防衛線は崩壊した。裏手から爆薬で突破したジャックの軍勢と、ゲオルクの部隊とさらにブローリ公爵の軍が難攻不落と思われた王宮内に攻め入る。王宮内は、両公爵家の手勢がひしめき合い、降伏した兵や敗残兵の呻き声が響く。幸い、略奪は厳禁とされたため、豪華な調度品は手つかずだった。
 ゲオルクは王宮の奥へと進んだ。すると、通路の前でジャックの兵たちが遠くを伺っていた。

「先に進めません」

 ジャック配下の兵士が顔を青ざめさせて答える。

「一人だと?」

 ゲオルクの問いに、兵は「はい」と頷く。通路の角の奥。一人の老人が行く手を阻んでおり、二度突撃を試みたが、数多の騎士や兵士が倒れ、通路は血の海と化していた。狙撃しようにも、老人は通路の影に潜んでおり、銃弾を当てることができない。

「俺が行く。レジス、アーレン。お前たちも来い」

 ゲオルクは、二人を連れ、静かに通路を進んだ。

◇◆◇◆

 通路の角を曲がると、老執事アルビンが、二本の剣を携えて立ちはだかっていた。アルビンは、ゲオルクの顔を見るなり、静かに話しかける。

「また、あなたですか」
「話の途中だったからな。昔の話を教えてもらおうか。たぶん、アンタは、俺の親父を斬ったはずだ」
「人違いかもしれませんね」
「かもしれない。ただ、親父を切り捨てた二刀使いの剣士は、そのあとラスカ王国から出奔して姿を消した。十八年くらい前の話だがな」
「今まで切り捨てたものなど覚えておりませんが。その話が本当ならば、私は貴方の仇ということになりますか」
「仇ねぇ。確かにそうだけどな……」
「おかしなことを言いましたか?」
「こんなじじいに負けたとなると俺も引退しないといけないんでね」

 アルビンは、若造の減らず口に、内心で小さく笑った。

「では、引退していただきましょうか」
「いやなこった」

 ゲオルクが剣を抜くと、通路の空気が張り詰めた。次の瞬間、二人の影が交錯する。

 剣戟の音が絶え間なく響き、暗い通路に火花が散る。アルビンの二刀流は、攻防一体の完璧な要塞だった。右の剣でゲオルクの重い斬撃を軽々と受け流し、間髪入れずに左の剣がゲオルクの喉元を狙う。ゲオルクは上体を逸らしてそれをかわすが、頬に薄い一文字の傷が刻まれた。

(速い……! それに、なんだこの爺さんのスタミナは)

 ゲオルクは、変則的な足運びと、壁や床を利用する傭兵特有の荒々しい剣技で対抗する。しかし、アルビンは流水のように身を翻し、すべての攻撃を紙一重で無効化していく。 一進一退に見える攻防。だが、その均衡は徐々に崩れ始めていた。アルビンの剣技は、長年の修練によって無駄が削ぎ落とされ、時間が経つほどに鋭さを増していく。対するゲオルクの体には、浅い傷が無数に増え、肩で息をするようになっていた。

 何十合打ち合っただろうか。永遠にも感じる時間の果てに、決着の瞬間が訪れる。アルビンの連撃を凌いだゲオルクが、一瞬の呼吸の乱れを見せた。その隙を、老練な剣士は見逃さなかった。鋭い突きがゲオルクの体勢を崩し、彼は、よろめきながら背中から無様に倒れ込んだ。

 すかさず、アルビンの剣先が、ゲオルクの鼻先に突きつけられる。

「ここまでですね」

 剣を突きつけられた絶体絶命の状況で、ゲオルクは不敵な笑みを浮かべて答えた。

「そうだな」

 その不敵な笑みに、アルビンは微かな疑念を抱いた。何故笑う? まだ奥の手があるのか? その警戒心が仇となった。彼の意識は、脅威の源であるはずのゲオルクの一挙手一投足に、完全に吸い寄せられてしまったのだ。

 正面から轟音が鳴り響いた。

 彼の胸から鮮血が流れ落ちる。

 アルビンが胸を押さえながら廊下の奥を見ると、通路の奥で銃口を向けている二人の男の姿があった。レジスとアーレンである。

「ひ、卑怯な……」

 アルビンは言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。いつの間にか立ち上がったゲオルクは、剣を振り上げ、アルビンを袈裟斬りにした。

「お褒めいただき恐縮だよ、爺さん」

 ゲオルクに捨て台詞を言われたアルビンは、倒れながら、「お、お嬢様……アルビンはご命令を守れ……ませんでし……」と呟く。こうして、老剣士アルビン・クリストファーは六十五歳の生涯を閉じた。

◇◆◇◆

 ゲオルクは、アルビンを乗り越え、セリアが籠ると思われる部屋に辿り着いた。扉の下からは、油が燃える、焦げ付くような強烈な臭いが立ち上っている。ドアを開けると、部屋の中央で引き裂かれたカーテンが炎を上げて燃え盛る。熱気が顔を打ち、ゲオルクは一歩後ずさった。
 炎に照らされた奥の床には、一人の女性が炎を纏って転げまわっていた。その口から、人間とは思えないような、断末魔の叫びが響き渡る。ゲオルクが進もうとすると、レジスが彼の腕を掴んだ。

「団長!  無理です!  火勢が強すぎます。部屋全体に油が撒かれています!」

 火の手はさらに強くなり、女性の悲鳴は熱気に飲み込まれるように小さくなっていった。そして、女性の姿は炎と煙の向こうに消えていった。
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