傲慢な世界よ、私が壊してあげるわ~公爵令嬢に転生したOLは悪の覇道を突き進む

かずまさこうき

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第六章 簒奪編

第118話 王宮の門番

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 王宮の入り口では、八度にもわたるブローリ公爵軍の突入を撃退し続けていた老執事が一人守っていた。王宮の入り口から離れた裏通りに、ゲオルク率いる百名あまりの傭兵団が集結する。ゲオルクは剣を抜き、部下たちに作戦開始を促そうとした。その瞬間、彼はジャックとの会話を思い出した。

「一人で守ってるのか?」
「そうだ。ブローリ公爵の兵士を八度撃退したそうだ」

 ジャックは、その事実を信じられないといった様子で語った。

「となると、リナが見たという例の老人か」
「たぶんな。なんでも二刀使いだそうだ」
「二刀使いか……」
「どうした?」

 ゲオルクの瞳が一瞬揺らいだが、すぐにその感情の波を押し戻す。彼は、ジャックに普段と変わらぬ調子で答える。

「いや、何でもない」

 ゲオルクは、二刀使いの剣士の存在を、出奔する前のグラック家にいた時代に確かに知っていた。だが、彼はそれ以上のことを口にしなかった。

「団長どうしました?」

 副団長のレジスの言葉に、ゲオルクは現実に引き戻された。

「何でもない。突入するぞ」

 ゲオルクは、傭兵団を連れて、決戦の会場へと向かった。

◇◆◇◆

 王宮の重厚な門前。ゲオルクは、最前列に立ち、老執事アルビンと相対した。アルビンは、執事の服を着て、腰に二本の剣を携えている。

「名前を聞こうか?」

 ゲオルクの問いに、アルビンは静かに答える。

「アルビン・クリストファーです。お見知り置きを」
「ゲオルク・グラックだ」
「ほう、グラックですか」

 アルビンは、ゲオルクの姓に反応した。

「知っているのか?」

 ゲオルクが踏み込むように尋ねる。

「いえ、昔の話ですので、あなたには関係ない話ですね」
「関係あると言ったら?」
「まずは剣を交えてからにしましょうか」

 アルビンが二つの剣を構えた瞬間、静かながらも重厚な殺気が、王宮の通路に満ちた。ゲオルクは、その冷たい殺気に息を飲み、即座に剣を抜く。二人の達人による死闘が始まった。
 アルビンの剣技は、ゲオルクの想像を超えていた。それは、長年の訓練によって極限まで洗練された、一切の無駄がない完璧な古流だった。ゲオルクは、その完璧な型を崩すため、低く、変則的な傭兵の剣技でアルビンを攻め立てる。しかし、アルビンはゲオルクの攻撃を最小限の動きでかわし、その隙を突いてゲオルクの肌を切りつけた。
 一進一退の攻防が続くも、実力はアルビンの方が上であり、ゲオルクの体には、傷が一つ、二つと増えていく。
 ゲオルクは、剣を交えながら悟った。この老人の剣技は、この世界で出会った剣士の中で、間違いなく一番の脅威であると。

 その時、アルビンの動きが僅かに鈍った。老齢ゆえの体力の限界か、呼吸が乱れ、剣尖がわずかに下がる。

(今だ!)

 勝機と見たゲオルクが、大きく踏み込んだ。だが、それこそが老練な執事の罠だった。 死に体に見えたアルビンの双剣が、瞬時にゲオルクの剣を絡め取り、返す刀が彼の首筋へと迫る。

(しまっ……!)

 ゲオルクが、致命的なミスを犯したことを悔やんだ、その時。

 王宮の裏手の方から、空気を震わすような轟音が鳴り響いた。

 ゲオルク自身が陽動となり、ジャックたちが裏手口に爆弾を仕掛けていたのであった。
 
 その衝撃に、老執事の鋭い踏み込みが、驚きによってほんの一瞬、コンマ数秒だけ遅れる。ゲオルクは、その一拍の隙を見逃さなかった。彼は首を大きくのけぞらせ、鼻先をかすめるアルビンの刃を紙一重で回避し、バックステップで間合いを取る。

 アルビンの表情が一瞬で変わる。彼は、音のした方角から王宮の裏側が破られたことを悟った。

「王妃様を守らなくていいのか?」

 ゲオルクの言葉に、アルビンは一瞬迷った。正面の強敵を今すぐに討つか、主を守るためにすぐに駆け付けるか。その迷いを断ち切ったのは、主人の最後の懇願だった。

 (この部屋には誰一人入れないで)

 その言葉を守るため、アルビンは、ゲオルクを睨み、そして王宮の奥へと撤退した。ゲオルクは、安堵の息を漏らし、部下に指示を出した。

「門番は退却した。総員突入しろ!」
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