【クラス転移】復讐の剣

ぶどうメロン

文字の大きさ
12 / 49

11

しおりを挟む
 女子の着替えている部屋では、視線による戦いが繰り広げられていた。

 着替えるためには、もちろんを脱ぐ必要がある。いかに気にしていない素振そぶりで視線を運ぶかが、この勝負を握っている。

 敗北感も優越感も、顔に出さないのが暗黙のルールなのだ。

(桜の胸が前より大きくなっている気がする……)

 桜のトップバストを目測で測り、自分の平たい胸との距離に虚しさを感じる。
 もう私の成長期は遠い日の過去なのね、と。

「牡丹ちゃん!桜のお洋服、見て~」
 清潔さを感じる白いローブに、大きな膨らみが二つ。

 くるっと回る桜の胸は弾むけど、私の胸は微動だにしない……。
 魔導士の服の方が露出が多いのに。

 私の装備は専用の黒い魔導着だ。生地は分厚いけど、へそ出しノースリーブのシャツのような、よくわからない服に、屈めばパンツが見えるほど短いミニスカート。

 上下の服は極端に短いのに、魔法使いの幅広の帽子とマントは顔や体を隠せるほど大きい。

 見た目はふざけた装備だけど、魔法を使う時には肌を露出させて、自然に存在する魔力と親和することで威力低下を防ぐのだ。だから私は恥ずかしくなんかない。こんな格好で外を歩くことを考えると、顔が妙に熱くなるけど恥ずかしくなんか絶対にない……、はず。

「ちっ」

 ガヤガヤと騒がしい中、誰かの舌打ちが聞こえた。
 そばかす顔に、明るい茶髪のボブカットの施陀愛心せんだ あみだ。

「男に媚びた服なんか着ちゃって、そんなに嬉しいのかしらー」
 わざと聞こえる声で話しているけど、彼女に関わってもいいことはないのはわかりきっている。

「やめときなぁー愛心ぃ、聖野のセフレが怒っちゃうよ」

「脱いでもぺったんこじゃ、誘惑できないのにねぇ?」

 施陀せんだの取り巻きの、青髪のエッジショートで背の高い楠明美くすのき あけみと黒髪をサイドテールにした渡会久未わたらい くみが嫌味をいってくる。

 京極が直接の暴力なら、施陀せんだは精神的な暴力で彼を痛めつけていた。
 いつもホームルームが始まるぎりぎりに登校してくる彼の机に、マジックで机いっぱいに乱雑に『死ね』と書き殴って、わざわざ持ってきた白い花瓶と花を置いてクスクスと笑っていた。
 机の前で立ち尽くしていた彼の暗い顔が、私の脳裏に焼きついていた。

「あーあ。幻術師の装備って、野暮ったくて嫌になるわ~」
 施陀せんだの装備は防御力重視のチェーンメイルだが、読者モデルをしていた彼女には、とてつもなくダサいと感じてしまうのだろう。

「あの……、その辺で辞めて下さい」
 小さな声だったけど、めずらしく善光彩莉朱ぜんこう ありすさんが喋ったと思ったら、私を庇ってくれている。

「牡丹ちゃん……」
 桜が心配そうに見つめてくる。

「いいのよ、放って置きましょう。善光さんも行きましょう」
 私は小声でそういって、桜と善光さんとともに部屋を後にした。



「おい、見ろよ。魔法使いの服ってエロいよな」
 ひそひそと、男子たちがいやらしい目つきで見てくる。小声で喋っていても、聞こえてるんですけどね。

「全員、着替え終わったな」
 ブロンは水晶を手にしていた。

「この水晶はスキルを見ることができるものだ。来い、ミツヒコ」

「やれやれ、また水晶か」
 聖野は水晶に手をかざして、クラスメイトみんなで覗き込む。


スキル
・勇者
・覚醒
・セイクリッド
・翻訳


「聖野氏!スキルが少ないでごさるよ!!」
 砂沸さわきが鼻息荒く、水晶玉に食いつく。

「それで、このスキルがあればなにができるんですか?」

「まあ、慌てるな。スキルの効果を詳しく見て行こう。
 勇者のスキルに目を凝らせ」

 聖野の問いにブロンは答える。

「あっ!勇者の説明が出てきました。えーっと」


スキル名 勇者
・勇気ある者として、多くの人に慕われる。
・勇者の剣術が使用可能
・聖属性が使用可能


「聖野氏?拙者には、なにも見えないでござるよ」

「スキルの説明は、本人にしか見えないとされている」
 ブロンが一言つけ足す。

「なるほどでござるな。聖属性とか強そうでござるよ!
 でも、なんで今までスキルがあることを教えてくれなかったでござるか?」

「魔物の強さは授業で習ったでしょ。つまり、その魔物を倒せる魔法なり剣術なりを使ったら城が壊れるってことよ」
 牡丹が髪をかき上げる。

「さすが委員長でござるな!」

「そういうことだ。全員スキルを確認しろ」

善光ぜんこうさんも、ほら」
 牡丹が彩莉朱ありすの手を水晶に乗せる。


スキル
・薬師の手
・覚醒
・鑑定
・翻訳

スキル名 薬師の手
・薬のみ錬成可能
・魔力消費を軽減


「わー、すごいね!彩莉朱ちゃん」
 桜が彩莉朱の隣に立っていた。

「えっ、あの……。そうですね」
 彩莉朱はオドオドしながら返事を返した。

「桜もスキルを見るよ!」


スキル
・奇跡の祈り
・覚醒
・聖域
・翻訳

スキル名 奇跡の祈り
・回復魔法を使用可能
・代償を軽減


「ブロンさん、この代償ってなんですか?」
 桜の質問にブロンは、少し顔をそらした。

「魔力のことだ」

「へー、そうなんだぁ。桜は僧侶だから、回復スキルを持っているんだね砂沸君」
 砂沸は女子の桜に急に話しかけられてドギマギする。

「そ、そうでござるよぉ!ヒーラーは戦闘において重要なジョブであるからにして、パーティに欠かせない唯一無二の存在でごるからにして……」

「おいデブ、いつまで喋ってんだよ!」
 愛心あみが腕を組んで睨みつける。

「おう、ごめんなさいでござるよ……」
 砂沸は縮こまって、他のクラスメイトたちの影に隠れた。


「私のスキルは魔導王ね」
 牡丹は五属性すべての魔法が使えるスキルを得ていた。


スキル
・魔道王
・覚醒
・スペルブースト
・翻訳

スキル名 魔導王
・火、水、地、風、雷属性の魔法を使用可能
・詠唱破棄を使用可能


「グレタ、お前も自分のスキルを確認しろ」
 ブロンに何度も捕まっては、地下牢に送られている京極はブロンを敵対視していた。

「ちっ、くそったれが」
 悪態をつきながら水晶に手をかざす京極。


スキル
・獅子の拳
・覚醒
・気合
・翻訳

スキル名 獅子の拳
・身体強化魔法を使用可能
・打撃に火属性を付与可能


 スキルを確認するクラスメイトたちを眺めていると、疑問が浮かんだ聖野がブロンに尋ねる。

「そういえば、ブロンさんはどんなスキルを持っているんですか」

「私はスキルを持っていない。
 それ以前に、この世界にスキルという概念は存在しない」

 ブロンは当たり前のように答える。

「ということは、僕たち召喚者に与えられた力がスキルなんですね?」

「あぁ、そうだ」
 ブロンは水晶に目を落とす。

「ちょっと待つでござるよ!スキルを持っていないなら、どうやって魔物と戦ってきたでござるか」

「魔法と剣以外になにがあるのよ、ちょっとは考えてから話しなさいよ」

「ごめんでござるよ……」

 牡丹が強い口調でいうと、砂沸がしょぼくれたように眉を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...