22 / 49
拝啓、私は
しおりを挟む
◇
××市、駅前立ち食いそば屋にて。
「大将、いつもの」
新米警官の齋藤幸成は、刑事の勝田弘の横で、いつもの油揚げの乗った、かけそばを啜る。
夏の日差しが嫌気を差したように、昼過ぎの曇り雲からは雨がぽつぽつと降り始めていた。
「齋藤、今朝のニュースは見たよな」
年季の入った太くしわがれた声で、勝田は確認するように聞いた。
「あの大量殺人ってやつですか?」
暑苦しい防刃ベストに扇風機の風を通しながら聞き返す。
「あぁ、あれ俺の担当になったからよ。お前もついて来い」
昔ながらの足で稼ぐタイプの勝田のクールビズからは、夏の日差しでいっそう黒くなった腕が伸び、クールダウンと誰かに言い訳しながら冷酒の入ったガラスのおちょこを傾ける。
「とんでもない事件ですよね。学校に恨みがあるのか知らないですけど、一クラス丸々ってやばくないですか」
「そいつを調べるのが刑事ってやつだ」
ガラスの徳利を空にした勝田が店を出る。
「おやっさん待ってくださいよ」
齋藤は慌てて、そばをかきこむ。
「ゆっくり食えよ、俺は一服するからよ」
勝田は小雨に変わった鈍色の空を睨みながら、煙を吐き出した。
◇
「事件現場がここか」
××高校の生徒は全員帰宅し、がらんとした校内を歩く勝田と齋藤。
2年1組の教室は一面が血の海ということはなく、歩ける程度には片付けられていた。
「お疲れさまです、勝田刑事」
検死が行われてる教室の前には同署の中堅警官、牧野が立っていた。
「こりゃひどいな。それで状況は?」
勝田と斎藤はビニール靴を履くと、教室に入り惨状を一瞥する。
「このクラスの教師含めて三十四名死亡、一名が行方不明です」
牧野が調査書を見ながら答える。
「そうかい、そうすりゃ断然その一人ってのが怪しいな。そいつの名前は?」
「番柄鹿路という男の子なんですが、これがちょっと訳ありでして……」
「ロクロってお前、どんな名前だよ。おい」
勝田がツッコミを入れる。
「おやっさん、知らないんですか?キラキラネームってやつですよ。で、不登校とかですか?」
齋藤が遺体の山に顔をしかめながら推測する。
「いえ、まだ不確かな情報ですが、今朝この地区で制服を着た男が自殺してるんですよ。投身自殺らしく、顔が潰れていて判別できないのですが……」
「そいつが番柄か」
「かもしれません、なにかあれば声をかけてください」
そういうと、牧田は教室から出て行った。
「おやっさん、もう事件は解決したんじゃないですか」
齋藤は番柄が教室で犯行に及んだと簡単な推理をした。
「そうじゃねえだろ齋藤。今朝自殺して八時か、そこらの犯行だ。時系列がおかしい」
「そうですね……、まずは死因を見てみますか」
齋藤はペンライトを取り出し、教室に横たわる無数の亡骸に光を当てる。
「仏さん可哀そうにな、心臓を一突きだ」
勝田は屈んで黒髪の女子の傷口を見る。
「こっちにも同じ痕がありますね。高校生がこんな芸当不可能でしょ。やっぱり、犯人は校内に侵入した何者かってことですか?」
「その線が濃厚だな。だが、まずは害者の人間関係を洗うのが先だ」
勝田は手を合わせると立ち上がり、齋藤もそれに続く。
「どこに行くんですか」
「職員室だろ?」
一階の職員室では牧野がすでに事情聴取を行っていた。
「だからね、うちとしては何もわからないんですよぉ?」
校長らしき人物が牧野に釈明していた。
「失礼、この学校の校長先生ですか」
勝田と齋藤は警察手帳を取り出して見せる。
「えぇ、そうですよ。校長の沼尻です」
白髪交じりの五十代の赤いジャージを着た男が話す。
「勝田刑事、監視カメラも見せてくれなくて困ってるんですよ」
牧野が勝田に耳打ちする。
「だからね、生徒のプライバシーがですね!」
沼尻が耳障りな高い声で語気を荒げる。
「あんな調子で、まともに話が通じないんですよ」
「ああ、わかりました。沼尻さん、必要なら令状をお持ちしますが、お勧めはしませんよ」
勝田が脅すようにいう。
「ですからぁ、わたくしどもには!生徒を守る義務があるんですぅ!」
「おやっさん……」
齋藤が呆れ声で、ため息をつく。
「ご丁寧にどうも。ほら、行くぞ」
勝田は職員室を後にし、その背中に齋藤と牧野はついて出た。
「校長~~、ヤバいですよ~~」
他の教師たちが、自身の抱える不祥事が明るみに出ることをを恐れ、慌てふためく。
「いいですか!教師は尊敬される仕事なんですよぉ!!毅然とした態度でいてくださいよぉ!!そんなんじゃ、まるで悪いことをしたみたいじゃないか!」
職員室では、校長沼尻が正当性を主張していた。
××市、駅前立ち食いそば屋にて。
「大将、いつもの」
新米警官の齋藤幸成は、刑事の勝田弘の横で、いつもの油揚げの乗った、かけそばを啜る。
夏の日差しが嫌気を差したように、昼過ぎの曇り雲からは雨がぽつぽつと降り始めていた。
「齋藤、今朝のニュースは見たよな」
年季の入った太くしわがれた声で、勝田は確認するように聞いた。
「あの大量殺人ってやつですか?」
暑苦しい防刃ベストに扇風機の風を通しながら聞き返す。
「あぁ、あれ俺の担当になったからよ。お前もついて来い」
昔ながらの足で稼ぐタイプの勝田のクールビズからは、夏の日差しでいっそう黒くなった腕が伸び、クールダウンと誰かに言い訳しながら冷酒の入ったガラスのおちょこを傾ける。
「とんでもない事件ですよね。学校に恨みがあるのか知らないですけど、一クラス丸々ってやばくないですか」
「そいつを調べるのが刑事ってやつだ」
ガラスの徳利を空にした勝田が店を出る。
「おやっさん待ってくださいよ」
齋藤は慌てて、そばをかきこむ。
「ゆっくり食えよ、俺は一服するからよ」
勝田は小雨に変わった鈍色の空を睨みながら、煙を吐き出した。
◇
「事件現場がここか」
××高校の生徒は全員帰宅し、がらんとした校内を歩く勝田と齋藤。
2年1組の教室は一面が血の海ということはなく、歩ける程度には片付けられていた。
「お疲れさまです、勝田刑事」
検死が行われてる教室の前には同署の中堅警官、牧野が立っていた。
「こりゃひどいな。それで状況は?」
勝田と斎藤はビニール靴を履くと、教室に入り惨状を一瞥する。
「このクラスの教師含めて三十四名死亡、一名が行方不明です」
牧野が調査書を見ながら答える。
「そうかい、そうすりゃ断然その一人ってのが怪しいな。そいつの名前は?」
「番柄鹿路という男の子なんですが、これがちょっと訳ありでして……」
「ロクロってお前、どんな名前だよ。おい」
勝田がツッコミを入れる。
「おやっさん、知らないんですか?キラキラネームってやつですよ。で、不登校とかですか?」
齋藤が遺体の山に顔をしかめながら推測する。
「いえ、まだ不確かな情報ですが、今朝この地区で制服を着た男が自殺してるんですよ。投身自殺らしく、顔が潰れていて判別できないのですが……」
「そいつが番柄か」
「かもしれません、なにかあれば声をかけてください」
そういうと、牧田は教室から出て行った。
「おやっさん、もう事件は解決したんじゃないですか」
齋藤は番柄が教室で犯行に及んだと簡単な推理をした。
「そうじゃねえだろ齋藤。今朝自殺して八時か、そこらの犯行だ。時系列がおかしい」
「そうですね……、まずは死因を見てみますか」
齋藤はペンライトを取り出し、教室に横たわる無数の亡骸に光を当てる。
「仏さん可哀そうにな、心臓を一突きだ」
勝田は屈んで黒髪の女子の傷口を見る。
「こっちにも同じ痕がありますね。高校生がこんな芸当不可能でしょ。やっぱり、犯人は校内に侵入した何者かってことですか?」
「その線が濃厚だな。だが、まずは害者の人間関係を洗うのが先だ」
勝田は手を合わせると立ち上がり、齋藤もそれに続く。
「どこに行くんですか」
「職員室だろ?」
一階の職員室では牧野がすでに事情聴取を行っていた。
「だからね、うちとしては何もわからないんですよぉ?」
校長らしき人物が牧野に釈明していた。
「失礼、この学校の校長先生ですか」
勝田と齋藤は警察手帳を取り出して見せる。
「えぇ、そうですよ。校長の沼尻です」
白髪交じりの五十代の赤いジャージを着た男が話す。
「勝田刑事、監視カメラも見せてくれなくて困ってるんですよ」
牧野が勝田に耳打ちする。
「だからね、生徒のプライバシーがですね!」
沼尻が耳障りな高い声で語気を荒げる。
「あんな調子で、まともに話が通じないんですよ」
「ああ、わかりました。沼尻さん、必要なら令状をお持ちしますが、お勧めはしませんよ」
勝田が脅すようにいう。
「ですからぁ、わたくしどもには!生徒を守る義務があるんですぅ!」
「おやっさん……」
齋藤が呆れ声で、ため息をつく。
「ご丁寧にどうも。ほら、行くぞ」
勝田は職員室を後にし、その背中に齋藤と牧野はついて出た。
「校長~~、ヤバいですよ~~」
他の教師たちが、自身の抱える不祥事が明るみに出ることをを恐れ、慌てふためく。
「いいですか!教師は尊敬される仕事なんですよぉ!!毅然とした態度でいてくださいよぉ!!そんなんじゃ、まるで悪いことをしたみたいじゃないか!」
職員室では、校長沼尻が正当性を主張していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる