【クラス転移】復讐の剣

ぶどうメロン

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27.エバンスの街

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 少し厳しく当たりすぎているだろうか。いや、しかしロクロを死なせないためには仕方のないことだ。
 うだうだと考えるなんて自分には似合わない。そう思いながらも、一族の役割を果たさなければという使命感が頭の中で渦巻いていた。

「エバンスって国境に面してる街なんだよね」
 ロクロが御者台から聞いてくる。

 この数日、ウルの街から走り続けてエバンスの街まで後少しというところだ。ここを出ればフーリダ王国まで無法街道と呼ばれる秩序のない道が続く。とはいっても無法なのは獣人に対してであって、人族には一応は安全な街道だ。アルクレイヘル王国の人間が、一方的に獣人を捕まえたり殺している。そんなこともあって、無法街道の名は獣人が呼び出したもので定着していた。

「国境は特に警備が厳しい。姫と私は隠れていた方がいいだろう」
 そうはいっても、この荷台に隠れるところなんてない。布を被るにしても私は並の男より高身長だし、木箱に入っても荷物を改められれば、すぐに見つかる。どうしたものか。

「エルザはともかく、私が隠れる必要ってあるのですか?」
 ロゼッタが御者台で足をぷらぷらと揺らしながら、つぶやく。

「それなんだけど、この馬車を改造しようと思う」
 唐突にロクロはそんなことをいいだす。

「改造といっても、どうするんだ?」

「床を二重にするんだよ。そんで、間に隠れればいけるんじゃないか?」
 床に空間を作るのか。いや、待てよ。
 車体の底が床より下に長いのに、床が上の方にあるのは違和感を覚えないだろうか。

「荷台を作り直したとしても、車高が低いのに床が高い状態だとバレるだろ」

「そうか?他には、うーん」
 ロクロは唸りながら考えを巡らせている。
 私も考える。天井に隠れるのはどうか。いや、床を二重にするのと同じでバレるだろう。

「あっ!思いついたよ」
 ロクロがなにかを閃いたようだ。

「椅子の下だよ。御者台の下」
 ロクロが自分の座っている木の椅子を叩く。
 そうか。椅子の下なら、荷台より高い位置だし自然だ。

「おーい、次だ」
 王都と同じ位大きい、街の門で止められる。

「積み荷を確認する」
 門兵の一人が私の乗っている荷台のほろを捲る。

「人間か?顔を見せろ」
 いわれた通りに、ヘルムのフェイスカバーを上げる。

「人間だな。よし、いいぞ」
 さっと確認した門兵が、今度は積み荷を確認していく。

「通れ!」
 荷台を確認していた門兵が合図を出して、エバンスの街に入った。

「宿を取ってから、……馬車の改造ってどこに行けばいいんだ?」
 軍で発注していた時は総合商会に丸投げしていたが、馬車といえば大工だろう。

「この街にも大工がいるはずだ」
 手早く宿を決めて、二頭とともにクダリー木工店を訪れる。

 木造作りのシンプルだが、センスのいい店内には誰もいない。
 その代わりに、カウンターの奥からはガンガンという音が聞こえて来ていた。

「すみませーん」
 ロクロが音のする方へ声をかける。

「らっしゃい!!」
 筋骨隆々の鉢巻きを巻いた男が、金槌片手にカウンターの奥から出てきた。

「馬車の改造をお願いしたんですが、見てもらえますか」

「馬車か!どうすんだい」
 店先に停めてある馬車の御者台について話すロクロ。

「先ず座席を四人ぐらい座れる長くして欲しいのと、座席の下を収納にして欲しいんですが出来ますか」
 御者台を指差して、あれこれと形を描くロクロ。それに相槌を打つ店主。

「そんぐらい朝飯前よ!金貨十枚だが、どうするんだい」

「それでお願いします」

「前金で五枚、納入で五枚だ!」
 革袋から金貨を出して渡すロクロ、店主の大きな手に金貨が五枚握られた。

「まいど!いい出来を期待していろよ!」
 ガハハと笑うと、二頭牽きの馬車を引っ張っていく店主。

「すごい力だね」
 ロゼッタが驚いて私の方を向く。

「そうですね。ロクロにも、あれぐらい強くなって欲しいものです」
 ロクロをジトッとした目で見つめると、たじろいで苦笑した。まったく、困ったやつだ。



「みんなも強くなってきたところだし、そろそろパーティーを組もうか」
 いつものように、ランドの門の前に集まったクラスメイトたちにアインが提案する。

「もちろんですよ、アインさん」
 ふっふっふ……、この数日で僕のスキルが最強であることが証明された。僕の実力なら、美少女たちを選びたい放題だ。ハーレムを作るのも悪くないね……、むっふっふっふ。

「うんうん、乗り気で良かったよ。実はもう募集をかけていたからね。
 冒険者ギルドに集まって貰っているから、行こうか」

 アインに続いて、歩き出すクラスメイトたち。

「うちらの仲間なら、イケメンがいいよねー」
 愛心はくすのき渡会わたらいを従えて、ゲスなことを話している。まったく、くだらないね。ヤルことしか頭にないアバズレが。僕のように純真な心の持ち主にしか、いい仲間はついてこないのだ。

「京極さん、上玉引いてくださいよ。裏でしこたま躾ときますんで」
 河原はいやらしい笑みを浮かべながら、こそこそと話している。

「光彦ーー!俺は戦闘職と一緒に頑張るよーー」
 勇者パーティーに入れなかった猿渡は、他のクラスメイトとパーティーを作っていたが、戦力増強のために人数を増やすようだ。

「さあ、新しい仲間だ」
 冒険者ギルドの扉を、アインが開いた。
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