【クラス転移】復讐の剣

ぶどうメロン

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生ぬるい雨

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「ええ、ですから息子さんに変わった様子などありませんでしたか」
 窓からは大雨に変わった空が覗き、リビングテーブルの椅子に浅く腰かけた勝田は、前のめりに尋ねる。

「いえ……息子は……、光彦は、いつも通りいってきますって…………」
 母親は涙ぐみながら話してくれた。

 絵に描いたような一般家庭で、サッカーが好きな勉強のできる好青年。聖野光彦が犯人でないことなど勝田にとって百も承知だが、聞き込みでは意外な情報が手に入ったりするものだ。

「すみません、奥さん。こんな事件のすぐで」
 勝田自身も息子と娘がいる。ある日突然こんな事件に巻き込まれたらなんて、考えたくもないことだった。悪いことだと思いながらも、事件解決への糸口を掴むために聞き込みを続ける。

 二人はシャッターの降りた店の軒先で、雨宿りをしていた。

「齋藤、次は……」
 勝田が生徒名簿を見ていると携帯が震えた。

「勝田だ。ああ、……本当か」
 携帯を離して勝田は齋藤に話しかける。

「次はこいつだ」
 勝田が齋藤の持った生徒名簿に指をさす。

「やっぱり、怪しいですもんね。ていうか捜査資料にしても、盗ってきていいもんなんですかね」
 齋藤は生徒名簿をぴらぴらとなびかせて、軽く相槌を打った。

「おう、またなんかあったら頼む」
 勝田は携帯を折りたたむと、胸ポケットにしまう。

「おやっさん、そろそろスマホに変えましょうよ。今時スマホの方が便利ですよ」
 新しいもの好きの齋藤は最新の道具を買っては、勝田に見せびらかしている。

「いいんだよ、古い人間にはガラケーが使いやすいんだからよ」
 便利なものでも馴染みのある方を好む勝田は、齋藤の言うところの老害に近づいて来たなと感じていた。

「そんなこといってー。電子タバコ使ってたじゃないですか」

「あれはいいんだよ。カミさんが健康を気にしろっていうからよ」

「そういえば、お前はもうちょっと肌を焼いたらどうなんだ」
 男の癖に日焼け止めを塗る齋藤に、女々しい奴だと勝田はいつも言っていた。

「その考えが時代遅れなんですよ。
 皮膚がんになったら嫌じゃないですか。おやっさんとか歳なんだし塗るべきですよ、日焼け止め」

「男はいいんだよ」

 一つの傘から、はみ出た勝田の肩に雨粒が滲んだ。擦り減った革靴で水たまりを踏みしめる二人の歩く先には、立ち並ぶ公営住宅があった。

 エレベーターで8階まで昇ると、勝田は809号室のチャイムを鳴らす。

 ガチャリと金属の重い扉が開くと、チェーンロックの隙間からケバイ化粧をした薄着の女が顔を見せた。

「すみません、××署の者ですが」
 勝田が警察手帳を取り出すと女は溜息を吐いた。

「また、旦那ですか」

「旦那さんですか?息子さんのことで、お話を伺いたいんですが」
 『また』という言葉が気にかかった勝田だが、今は犯人の手がかりを見つけるのが先決だった。

「はぁ、あの馬鹿がなにか?」
 女の態度には、心底うんざりとした雰囲気が読み取れる。

「奥さん、今朝の事件を知らないんですか。お宅の息子さんはお亡くなりになっています」
 齋藤が呆れとも悲痛とも取れない、そんな顔をした。

 女は一瞬だけ息を呑んで、ドアチェーンを外した。

「失礼します」
 勝田と齋藤は玄関で靴を脱ぐと、狭くて短い廊下を通ってリビングのローテーブルで出された薄い麦茶に口をつけた。

 カーテンレースの向こう側では雨が激しくぶつかり、薄暗い部屋に丸型蛍光灯の内側が切れかけて明滅した。
 雨音と蛍光灯のジジッという音だけが、その場に鎮座していた。その静寂の中、対面に座った女に勝田が事件のあらましを話しだす。

「今朝、××高校で大量殺人事件がありました。そして、息子さんの死亡も確認されています。
 今回の事件では、学校に対して恨みを持つ者の犯行の線が極めて高いんです。なにか息子さんに変わった所や、気づかれた点など無かったですか」

「知りませんよ、そんなの」
 あまりにも素っ気ない態度に、勝田は違和感を覚える。

「奥さん、息子さんが亡くなられたんですよ。もう少し……こう、捜査に協力頂けませんか」

「だから、なにも知らないですから。帰ってください」
 女の話口調には微塵も心配や悲壮が感じられない。
 自分の子供の死に、こうも無関心になれるのかと勝田は怒りさえ感じていた。

「失礼ですが、親として思うところがないんですか」
 今日回ったどの家庭でも、真っ先に子供の心配をする親しかいなかった。勝田自身も息子と娘が同じ目に会ったらと考えると、頭の中を恐ろしさに支配されながらも、子供たちの命だけは助かって欲しいと願うばかりだった。

 それが親として当たり前で当然なことなのに、この女は何故こんな無関心な態度でいられるのか、勝田には理解できなかった。

「人の家のことに口出さないで貰えます?」
 派手なつけ爪を見ながら真面目に話を聞かない態度に、齋藤も声を上げる。

「大切なお子さんだったと思います。私たちは亡くなられた息子さんのためにも、犯人を突き止めなければならないんです。なんでもいいんです。気になった所など、無かったでしょうか」

「しつこいですし、これから仕事があるんです。帰ってください」
 女は立ち上がって、リビングの扉を開けた。

 勝田は諦めて立ち上がると、齋藤の肩に手を置いた。

「失礼しました。名刺を置いておきますので、何かありましたらご連絡ください」
 それだけいうと、勝田と齋藤は809号室を後にする。

 すっかり暗くなった夜道を二人は歩く。傘からはみ出た勝田の肩から指先へ、夏の生温い雨が血のように滴り落ちた。
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