【クラス転移】復讐の剣

ぶどうメロン

文字の大きさ
28 / 49

26

しおりを挟む

「アインさん、そろそろ帰りませんか?」
 僕ら勇者パーティーはダンジョンの十三層まで来たけど、そろそろ疲れてきた。初めてのダンジョン攻略だし、桜も牡丹も疲れて来ている。このぐらいで帰った方がいいだろう。

「そうだね。まだまだ余力がありそうだけど、一度戦力を整えようか」

 僕らはこの階層に来た時の、階段のようなスロープのような洞窟に入っていく。

「うわー!眩しいんだよ」
 桜が腕を太陽に向けて、目に影を作った。

「みんなも戻ってきているな」

 行きは下っていく必要があったのに、帰りは一瞬で外とつながっていた。
 行きは怖くて、帰りはよいよいだね。つくづく物理法則を無視した存在だよ、ダンジョンってやつは。

「今日の探索で魔物の強さや、実戦の怖さも少しは理解出来たと思う。明日からの攻略に向けて、今日はよく休むこと!」

 ダンジョンから街に帰って、アインが解散の挨拶をした頃には夕方だった。

「こんばんはー!」
 僕は約束通り、パン屋にやって来た。彼女を笑顔にするために。

「あっ、昨日のお客さん…………」
 赤毛の三つ編みが今日も揺れていた。

「夕食に君のパンを食べたくてね」
 にっこりと僕が微笑むと、彼女はぎこちなく笑った。

「銅貨二枚です……」
 昨日と同じやり取りでお金を支払う。でも、今日は楽しい日になる。

「もし、よかったら。僕と付き合ってくれませんか?」
 これは告白ではない。一般的に勘違いさせる言動だけど、それが狙いだ。彼女は胸がときめき、恥ずかしそうに目を伏せた。
 これで彼女は笑顔になる。もうすぐね。

「あのっ……私、勇者様には不釣り合いですから……。その……、あの……」
 断ろうとする彼女い笑いかける。

「そんなことないよ。お店を閉じたら、僕と食事に行きましょう!」
 これだけいって、僕は店の外で待つ。入口ドアについたガラスからは、僕がいることが見えていることだろう。

 彼女の作ったパンを食べながら待つ。おいしいね。

「えっと……、店の前に居られると迷惑なので行きましょうか」
 しばらくして、店から出てきた彼女が仕方なく付き合ってあげているといった風にいうので、僕は申し訳なさそうにしておく。

「わー!ミツヒコ兄ちゃんとアンナ姉ちゃんとイチャイチャしてるーー」
 近所で仲良くなった子どもたちが、ワイワイと騒いでいる。

「ほら、もう帰らないといけないぞー」
 恥ずかしそうにしている彼女の代わりに、僕は手をシッシッと振って子どもたちを帰す。

「また遊ぼうねーー」
 ぶんぶんと大きく手を振る子どもたちに、僕も大きく手を振って応える。夕日も沈んで、夜に差し掛かった街を僕らは歩く。

「アンナっていうんだね。かわいいね」
 僕はアンナの肩を抱き寄せる。

「強引なのは好きじゃないです……」

「ははっ、大丈夫だよ。あそこはおいしいお店だからね」
 僕は昨日見つけた酒場に入る。料理だけを出すお店がないので、座って食べられる外食となると酒場しかない。でも、もちろんお酒は飲まない。

「あの。なんで私にこんなに構ってくるんですか」
 私みたいな地味な女に、魔王を倒す勇者様がよくしてくれるのかわからなかった。
 強引だし、話が通じていない感じもするけど、彼の笑顔を見ているとなんだか惹かれてしまう。

「いったじゃないか。君の笑顔が見たいんだ」
 彼女のパン屋には多くの客が来る。そこで彼女が笑っていたらどうだろう、おいしいパンが愛情のこもったパンに変わり、街の人も笑顔になる。……なんて素晴らしいんだ。

「もう帰るので、ついて来ないでくださいね」
 ニコニコと笑う彼にいって、席を立つ。もうお腹は膨れたし、胸の高鳴りを沈めないといけない。

「また明日会おうね」
 僕は肉をナイフで切り分け、口に運んだ。



「月見氏ーー!これを見て欲しいでござる!」
 早朝からハイテンションの砂沸が部屋に押しかけてきていた。

「朝から、うざいんだけど」
 低血圧気味で朝はだるいのに、おしゃべりデブが変な筒を押し付けてきてうざい。

「おやおや?元気がないでござるなー。この魔法式銃(仮)の威力を見たら、たまげるでござるよ」
 外に来いと手招きする砂沸に、桜と彩莉朱に引っ張っていってもらって街の外に出ていく。

「で?この筒がなに」
 金属製の黒くて重い筒の中は空洞だ。

「この魔法式銃(仮)に弾を入れるでござる。そして、火魔法を使うとボン!!火縄銃みたいなものでござるよ」

「なんで私がやらなきゃいけないのよ、自分で使いなさいよ」

「拙者は火魔法を使えないでござるし、一番強い魔法使いは月見氏でござる。実験が成功すれば魔物討伐が楽になるやもしれませぬぞ」

「はいはい」
 筒を空に向けて、火魔法で爆発させる。

 ドガーンと筒が破裂して、粉々になった。

「なんてことをするでござるかーー!!」

「こんなのゴミよ。もっと剣とか実用的なものでも作ってなさい」
 がっくりと膝をつく砂沸にイラつきながら、私は宿に戻る。

「砂沸くん、また頑張ろうね」
 桜が慰めの言葉を優しく投げかける。

「うぅ……頑張るでござるぅ!諦めないでござるぅ……」
 粉々になった魔法式銃(仮)をかき集める砂沸。

「哀れね」
 それを彩莉朱が蔑んだ目で見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...