今世はのんびり耕したい

文字の大きさ
13 / 26
第一章 森の生活

第13話 森の恵みと三重の防衛線

しおりを挟む
 森の奥での戦いを終えてから、もう数日が経っていた。
 セツたちはエルダートレントの巨木を切り倒し、必要な部分を切り分け、魔力で加工しながら畑のある拠点へと運び出した。その木材は重く、ただの人間であるセツだけでは到底運べない。クロハやルビィ、アオイの力を借りて、やっとのことで拠点に持ち帰ることができたのだった。

 その木材は、数百年生き抜いたエルダートレントの幹である。木目は緻密で美しく、強度は鋼鉄に匹敵する。森の瘴気を吸い込みながら生きてきたためか、木そのものが淡く魔力を帯びていた。普通の木材なら湿気や火に弱いが、この木は湿気に腐ることもなく、炎に焼かれても焦げ跡ひとつ残らない。
 セツはその特性を見抜き、住居の素材として用いることを決めていた。

「はぁ……やっと戻ってきたな」

 拠点の畑を見渡し、セツは深く息をつく。クロハがその横で尻尾を揺らし、黄緑色の瞳で警戒を怠らない。

「せやけど……エルダートレントは手強かったな。セツもよう頑張ったで」

「うん……ほんまにしんどかった。正直、今でも腕が重いわ」

 セツは笑ってみせるが、その手はまだ微かに震えていた。魔力を無理に使いすぎた反動が残っているのだ。
 ルビィが元気いっぱいに翼をばたつかせ、胸を張る。

「ボクも火でガンガンやったんよ!えへん!」

「……無謀と思えるところはありました」

 アオイが冷静に指摘する。彼は高空たかぞらから仲間たちを援護していたが、戦いの最中、ルビィが危うく瘴気を吸い込みかけた瞬間を見ていたのだ。

 ルビィは頬を膨らませ、くちばしを尖らせる。

「う、うるさいな! でも、ボクのおかげで勝てたでしょ!」

「……あぁ、助かったよ!」

 セツは頷き、ルビィの頭を軽く撫でた。その紅玉の鱗は温かく、ほんの少し成長していることを感じさせた。

「よし、それじゃあさっそく住居を建てようか。今までの仮小屋じゃ雨風もしのげんかったし、作物の管理も大変やった」



 作業は数日がかりだった。

 まずは巨木を切り分け、柱や梁の形に加工する。ルビィの炎は、木材を炙りながら柔らかくし、加工を容易にするために役立った。クロハは鋭い爪を使って表面を削ぎ落とし、アオイは高所から木材を運ぶバランスを取りながら組み立てを助ける。

「クロハ、この柱はこっちでいいんか?」

「せや、そこに差し込んで、魔力で固定するんや」

 セツは木材同士を接合する際、魔力を流し込み、木目と木目を馴染ませて強固に一体化させていった。まるで一本の木をそのまま組み上げたように、継ぎ目の目立たない美しい壁ができあがっていく。

 完成した住居は、森の中に溶け込むような外観を持ち、しかし中に入れば木材が柔らかく温もりを持っていた。窓もいくつか作られ、日の光と風が通り抜ける。

「すごい……まるで森の中に隠された城だ!」

 クロハが目を細めて呟く。

「これなら雨風もしのげるし、冬もあったかいやろ」

 セツも満足げにうなずいた。



 だが、住居だけでは不十分だ。畑を守るための防御が必要だった。

「次は堀やな。小型魔物や害獣が畑を荒らさんように」

 セツは畑の周囲に線を引き、そこから深さ1.5メルの堀を作る計画を立てた。

 掘削作業は、セツの魔力操作とクロハの俊敏な動きで進む。ルビィは火を使って土を乾かし、固まりやすくする。アオイは空から全体を見渡し、崩れやすい場所を指摘した。
 数日の作業で、畑を囲うようにしてぐるりと堀が完成した。

「よし、これで第一の防御やな」

 次に、堀の内側に木製の柵を建てていく。エルダートレントの残材を削って杭を作り、しっかりと地面に打ち込む。高さはおよそ1.2メル。普通の動物なら簡単には越えられない。

「これで第二の防御や」

 最後に、セツは畑全体を包み込むように結界を張った。

 ハクの威光を模倣し、魔力を広げる。青白い光が柵や堀に沿って走り、やがて薄い膜のような光が畑全体を覆った。

「……きれい」

 ルビィが目を輝かせ、外から結界に触れようとしたが、軽く弾かれて転げた。

「うわっ!? は、跳ね返された!」

「それでええんや。魔物も害獣も、これで寄りつけへん」

 セツは頷き、汗を拭った。
 こうして、堀+柵+結界の三重防御が完成した。



 数日後、住居での生活は落ち着き始めた。
 ルビィは暖炉の火加減を調整する訓練をし、アオイは毎朝空を飛んで見張りをする。クロハは夜になると周囲を巡回し、魔物の気配がないかを確かめていた。

「セツ、なんや最近えらい眠そうやないか?」

 クロハが問いかける。

「せやな、結界を維持するんに魔力を使っとるからな。けど……この畑を守るためやったら、安いもんや」

 セツは笑みを見せた。だが、内心では負担を感じていた。それでも仲間たちがいるからこそ、耐えられるのだ。
 ルビィは火の調整を誇らしげに見せつける。

「見てやセツ! この炎、全然はみ出さんやろ!」

「ほんまや。すごいやん、ルビィ。成長しとるな」

 ルビィは頬を赤らめ、翼を広げて跳ねた。
 アオイは静かに報告をする。

「上空から見ましたが、森の奥にあった瘴気は完全に晴れています。ただ……その代わり、別の魔物が移動してくる可能性はあります」

 セツは頷いた。森は広大で、未知の存在がまだまだ潜んでいる。だが、畑と住居が整った今、ようやく「守る拠点」を手に入れたのだ。

「よし。ここからが本当のスタートや」

 セツは畑を見渡し、胸の奥から力強い決意を抱いた。
 この日、森の中にひとつの拠点が確かに築かれた。
森の恵みを受け取り、三重の防御で守られた畑。そして、仲間たちと共に生きるための家。
 セツたちの生活は、ここから本格的に始まっていくのだった。

ーーーーーーーーーーーー
次回 第14話「初収穫と魔石の知恵」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

それは思い出せない思い出

あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。 丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

処理中です...