9 / 19
9話
エレベーターで最上階へ向かう。
重厚な扉が開くと、そこには広い会議室があった。
そして——。
長テーブルの向こう側に、険しい顔をした役員たちが座っていた。
その中に、祐介の姿もある。
担当者として、呼び出されたのだろう。
理乃は申し訳なくて、こっそり祐介に目礼した。
急な大阪出張は、あちらも大変だったろう。
「今井さん、原さん」
祐介が立ち上がって、二人を迎えた。
「よろしくお願いします」
理乃と達明は深く頭を下げた。
「原さん、今井さん。まずは席にお着きください」
役員の一人が、冷たい声で言った。
理乃と達明は、テーブルの反対側に座る。
空気が、重い。
「それでは、今回の件について説明していただきましょうか」
役員が口を開いた。
「はい。この度は、当方のチェック不足により、貴社に多大なるご迷惑をおかけいたしました」
達明が立ち上がり、まず頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした」
理乃も立ち上がり、深く頭を下げる。
「謝罪は結構。我々が知りたいのは、今後どうするかです」
役員の声は、厳しかった。
「竣工はすでに進んでいる。キャンペーンが遅れたら、どれだけの損失になるか」
「はい。代替案のビジュアルを、複数ご用意いたしました」
達明が、資料を配り始める。
役員たちが、資料に目を通す。
沈黙が会議室を支配した。
理乃の心臓が、ドキドキと鳴り、背筋にはじっとりとした汗が滲んだ。
「原さん」
役員の一人が、口を開く。
「これは、先日ご提案いただいたコンセプトとは、ずいぶん違うやないですか」
「はい。今回の件を受けて、競合との差別化をより明確にするため、ターゲット層への訴求力を重視した案に変更いたしました」
達明が落ち着いた声で説明する。
「具体的には……」
達明がプレゼンを始めた。
理乃も、補足説明を加える。
二人の息はピッタリと合っていた。
役員たちは真剣な表情で聞いている。
そして——。
「少し、お時間をいただけますか。我々で協議いたします。十分ほど、外でお待ちください」
「はい。よろしくお願いいたします」
達明と理乃は、再び頭を下げた。
廊下で待つ時間は、永遠にも感じられた。
理乃は壁に背を預けて、深く息を吐いた。
「今井、大丈夫か?」
達明が、心配そうに声をかけてくる。
「はい……でも、緊張で胃がひっくり返りそうでした」
「お前の補足説明、助かったぞ」
達明は優しく微笑んだ。
会議室の扉は、十分が経ってもなかなか開かなかった。
ずいぶんと揉めているのだろうか。
ヤキモキしながら待っていたところ、三十分ほどが経過したところで、ようやく扉が開いた。
開けたのは祐介だ。
「中村さん、ありがとうございます」
「いえ……。大丈夫だよ、理乃ちゃん」
祐介は小声で、励ますように呟いた。
果たして、祐介の言葉通り、会議室に入ると役員の面々の表情は柔らかくなっていた。
「原さん、今井さん。……結論からお伝えすると、新しいビジュアルイメージは、採用させてもらいます」
役員の声に、二人はほっと息をつく。
「今回の失態、正直御社を信用するのは大丈夫なのかという意見もあったんですがね。そこの中村、弊社で本プロジェクトの主任をしている中村が、このビジュアルイメージで行きたいと」
ハッとなって、理乃は祐介の方を振り向いた。
祐介は柔らかい笑みを浮かべて理乃を見つめている。
「確かに、ターゲット層にもしっかりと合っていますし、競合との差別化もできている。このまま他社に乗り換えてキャンペーンが遅れる方が損失も大きい。そういうわけで、これからもよろしくお願いしますね」
役員はそういうと、話は終わりだとばかりに立ち上がった。
会議室を出ていく役員たちを、二人は深々と頭を下げて見送る。
唯一祐介だけが、去らずに残っていた。
「中村さん。本当にありがとうございました。おかげで命拾いしました」
「今井さん、こちらこそ、素晴らしいご提案をありがとうございました。……って、なんかこういう会話してると不思議な気分だね」
祐介は吹き出す。そのリラックスした態度に、理乃も思わず微笑んでしまった。
その様子を、達明は少し拗ねたような表情で見つめている。
「理乃ちゃん、今日よかったら飲んでかない?」
その言葉に、理乃は伺うように達明の方を振り返る。
達明の前で他の男からの飲みの誘いを受けるのは、ためらわれた。
「別に、好きにしたらいいんじゃないのか」
達明はひどく不機嫌そうに、そう言った。
「い、いえ。今日は流石に疲れてるので、ホテルで休みます」
「そっか。じゃあまた、東京に戻ったらご飯にでも行こうよ。今日はお疲れ様」
祐介は理乃に手を振ると、会議室を去っていった。
重厚な扉が開くと、そこには広い会議室があった。
そして——。
長テーブルの向こう側に、険しい顔をした役員たちが座っていた。
その中に、祐介の姿もある。
担当者として、呼び出されたのだろう。
理乃は申し訳なくて、こっそり祐介に目礼した。
急な大阪出張は、あちらも大変だったろう。
「今井さん、原さん」
祐介が立ち上がって、二人を迎えた。
「よろしくお願いします」
理乃と達明は深く頭を下げた。
「原さん、今井さん。まずは席にお着きください」
役員の一人が、冷たい声で言った。
理乃と達明は、テーブルの反対側に座る。
空気が、重い。
「それでは、今回の件について説明していただきましょうか」
役員が口を開いた。
「はい。この度は、当方のチェック不足により、貴社に多大なるご迷惑をおかけいたしました」
達明が立ち上がり、まず頭を下げた。
「大変申し訳ございませんでした」
理乃も立ち上がり、深く頭を下げる。
「謝罪は結構。我々が知りたいのは、今後どうするかです」
役員の声は、厳しかった。
「竣工はすでに進んでいる。キャンペーンが遅れたら、どれだけの損失になるか」
「はい。代替案のビジュアルを、複数ご用意いたしました」
達明が、資料を配り始める。
役員たちが、資料に目を通す。
沈黙が会議室を支配した。
理乃の心臓が、ドキドキと鳴り、背筋にはじっとりとした汗が滲んだ。
「原さん」
役員の一人が、口を開く。
「これは、先日ご提案いただいたコンセプトとは、ずいぶん違うやないですか」
「はい。今回の件を受けて、競合との差別化をより明確にするため、ターゲット層への訴求力を重視した案に変更いたしました」
達明が落ち着いた声で説明する。
「具体的には……」
達明がプレゼンを始めた。
理乃も、補足説明を加える。
二人の息はピッタリと合っていた。
役員たちは真剣な表情で聞いている。
そして——。
「少し、お時間をいただけますか。我々で協議いたします。十分ほど、外でお待ちください」
「はい。よろしくお願いいたします」
達明と理乃は、再び頭を下げた。
廊下で待つ時間は、永遠にも感じられた。
理乃は壁に背を預けて、深く息を吐いた。
「今井、大丈夫か?」
達明が、心配そうに声をかけてくる。
「はい……でも、緊張で胃がひっくり返りそうでした」
「お前の補足説明、助かったぞ」
達明は優しく微笑んだ。
会議室の扉は、十分が経ってもなかなか開かなかった。
ずいぶんと揉めているのだろうか。
ヤキモキしながら待っていたところ、三十分ほどが経過したところで、ようやく扉が開いた。
開けたのは祐介だ。
「中村さん、ありがとうございます」
「いえ……。大丈夫だよ、理乃ちゃん」
祐介は小声で、励ますように呟いた。
果たして、祐介の言葉通り、会議室に入ると役員の面々の表情は柔らかくなっていた。
「原さん、今井さん。……結論からお伝えすると、新しいビジュアルイメージは、採用させてもらいます」
役員の声に、二人はほっと息をつく。
「今回の失態、正直御社を信用するのは大丈夫なのかという意見もあったんですがね。そこの中村、弊社で本プロジェクトの主任をしている中村が、このビジュアルイメージで行きたいと」
ハッとなって、理乃は祐介の方を振り向いた。
祐介は柔らかい笑みを浮かべて理乃を見つめている。
「確かに、ターゲット層にもしっかりと合っていますし、競合との差別化もできている。このまま他社に乗り換えてキャンペーンが遅れる方が損失も大きい。そういうわけで、これからもよろしくお願いしますね」
役員はそういうと、話は終わりだとばかりに立ち上がった。
会議室を出ていく役員たちを、二人は深々と頭を下げて見送る。
唯一祐介だけが、去らずに残っていた。
「中村さん。本当にありがとうございました。おかげで命拾いしました」
「今井さん、こちらこそ、素晴らしいご提案をありがとうございました。……って、なんかこういう会話してると不思議な気分だね」
祐介は吹き出す。そのリラックスした態度に、理乃も思わず微笑んでしまった。
その様子を、達明は少し拗ねたような表情で見つめている。
「理乃ちゃん、今日よかったら飲んでかない?」
その言葉に、理乃は伺うように達明の方を振り返る。
達明の前で他の男からの飲みの誘いを受けるのは、ためらわれた。
「別に、好きにしたらいいんじゃないのか」
達明はひどく不機嫌そうに、そう言った。
「い、いえ。今日は流石に疲れてるので、ホテルで休みます」
「そっか。じゃあまた、東京に戻ったらご飯にでも行こうよ。今日はお疲れ様」
祐介は理乃に手を振ると、会議室を去っていった。
あなたにおすすめの小説
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?