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22話
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後日仕立てたドレスは、ロイヤルブルーの体に沿ったラインのドレスになった。エリーゼは未婚の令嬢としては年齢が高い。
その分、大人っぽいデザインのものでなければ似合わないのだ。
侯爵邸での舞踏会当日。
「エリーゼ、びっくりするぐらい美しいね。眩しくて目が焼けそうだよ」
「まあ、ヴィクトール様ったら」
着飾ったエリーゼを見て、ヴィクトールはエリーゼの緊張をほぐすようにおどけてみせた。エリーゼはくすくすと笑いながらヴィクトールの肩を小突く。
侯爵邸での舞踏会。当然緊張はあるものの、ヴィクトールが隣についているのだ。それが何よりも心強い。
「僕の友人のヨハン……バッハマン侯爵令息は気のいいやつだ。仲良くしてやってくれ」
馬車に乗って間も無く、侯爵邸にたどり着く。同じ貴族街にある屋敷ゆえにか、それほど距離はなかった。
洒脱な印象の伯爵邸と違い、バッハマン侯爵邸は壮麗だった。牡牛の彫刻が門上に施されていて、迫力がある。
名門ゆえの歴史の重みを感じさせる重厚な作りだ。
出迎えた執事に招待状を見せ、大広間へと案内される。
「シュタインフェルト伯爵とリヒテンベルク男爵令嬢の起こしです!」
広間の扉が開かれると、バっと人々の視線が集まった。
ヴィクトールはその容姿の美しさと高い位の割に、長年独身を貫いていた変人として有名だったのだ。そのヴィクトールが連れているのがさして有力でもない田舎の男爵令嬢ということで、好奇の目線を集めてしまっている。
その眼差しに少し萎縮するエリーゼに、大丈夫と言うように微笑みかけたヴィクトールは、ゆっくりと大広間の中へ足を進める。
エリーゼもレディとして背筋を伸ばし、少し顎を引いて視線に臆さないようまっすぐ前を見つめる。
まずは主催者であるヨハン・バッハマン侯爵令息の元へと向かった。
「久しぶり、ヨハン。今日はお招きいただきありがとう。僕の婚約者のエリーゼ・フォン・リヒテンベルクだよ」
「お初にお目にかかります、ヨハン様。本日はお招きいただきありがとうございます」
ヨハンは気の良さそうな青年だった。緑色の垂れ目が笑みの形に細められ、エリーゼに向かって握手を求める。
「やあ、初めまして。ヴィクトールを引き取ってくれてありがとう」
「こら、ヨハン。そんな言い方ないだろう」
「ははっ、まあまあ」
ヴィクトールとヨハンは本当に気の置けない仲のようで、互いに肩を小突きあっている。
「でも、いい子そうじゃないか。よかったよ、本当に」
「ああ、とても素敵な女性だよ、エリーゼは」
眼前で手放しに褒められて、エリーゼは頬を染めて俯く。その姿を見てますますヨハンが盛り上がるものだから、エリーゼは余計に照れた。
ヨハンとそのパートナーに挨拶を終えたら、舞踏会で他の貴族たちと顔合わせをする。
中には田舎の貧乏男爵家と言うことで蔑みの目を向けてくる人もいたが、魔道具師として高名なヴィクトールの威光か、基本的には皆礼儀正しかった。
挨拶がひと段落つくと音楽隊が優雅な調べを奏で始めた。
ダンスの時間だ。
「レディ、僕と一緒に踊ってくれますか?」
ヴィクトールが腰を折り、誘うように手を差し出した。盛装に身を包んだヴィクトールは輝くように美しくて、女性として隣に立つ自信を失いそうになる程だ。
神秘的な紫の瞳がエリーゼを見つめ、ぱちんとウィンクをする。
エリーゼはその手を取り、大広間の中央へとヴィクトールのエスコートで歩き出した。
優雅な調べに身を任せて、ホールの中をゆったりと泳ぐ。
男爵令嬢としてダンスの基礎は身につけていたが、父が亡くなってからは随分と社交界からも離れていた。
きちんと練習したのもあるし、ヴィクトールのリードが上手いのもある。エリーゼの体重移動を巧みに操り、ターンする時には軸がぶれないように上手く支えてくれる。
ヴィクトールは細身だけれどこういう時は頼りがいがあって、エリーゼは胸が高鳴る。
壮麗なシャンデリアの下、くるくるとターンをする。夢のような時間に、エリーゼはこれが現実なのかとふわふわした頭で考えた。
踊り終えると、甘い果実汁に紅茶のリキュールを混ぜたカクテルをいただく。冷たくて甘いカクテルが喉の奥を滑り落ちていくと、踊りで熱った体に染み入るようだ。
「エリーゼ、疲れていないかい?」
「ええ。ヴィクトール様のリードが良くて踊りやすかったです」
大広間の隅に下がって、しばらく語りながら休む。
「ふわぁ、なんだか、少し酔いが回ってきたみたいです」
紅茶と果実汁のカクテルが美味しくて、何杯も飲んでしまった。
「休憩室を借りようか」
この手の舞踏会では、酒に酔ってしまったり、踊りで疲れたり、あるいは未婚の男女が親しくなった時用に個室の休憩室が用意されている。
ヴィクトールは大広間の使用人に声をかけると、休憩室を用意させた。
大広間から出て、廊下に立ち並ぶ個室の一つを借りる。
部屋にはソファーとローテーブルに、水差しに果実水が用意されていた。
その分、大人っぽいデザインのものでなければ似合わないのだ。
侯爵邸での舞踏会当日。
「エリーゼ、びっくりするぐらい美しいね。眩しくて目が焼けそうだよ」
「まあ、ヴィクトール様ったら」
着飾ったエリーゼを見て、ヴィクトールはエリーゼの緊張をほぐすようにおどけてみせた。エリーゼはくすくすと笑いながらヴィクトールの肩を小突く。
侯爵邸での舞踏会。当然緊張はあるものの、ヴィクトールが隣についているのだ。それが何よりも心強い。
「僕の友人のヨハン……バッハマン侯爵令息は気のいいやつだ。仲良くしてやってくれ」
馬車に乗って間も無く、侯爵邸にたどり着く。同じ貴族街にある屋敷ゆえにか、それほど距離はなかった。
洒脱な印象の伯爵邸と違い、バッハマン侯爵邸は壮麗だった。牡牛の彫刻が門上に施されていて、迫力がある。
名門ゆえの歴史の重みを感じさせる重厚な作りだ。
出迎えた執事に招待状を見せ、大広間へと案内される。
「シュタインフェルト伯爵とリヒテンベルク男爵令嬢の起こしです!」
広間の扉が開かれると、バっと人々の視線が集まった。
ヴィクトールはその容姿の美しさと高い位の割に、長年独身を貫いていた変人として有名だったのだ。そのヴィクトールが連れているのがさして有力でもない田舎の男爵令嬢ということで、好奇の目線を集めてしまっている。
その眼差しに少し萎縮するエリーゼに、大丈夫と言うように微笑みかけたヴィクトールは、ゆっくりと大広間の中へ足を進める。
エリーゼもレディとして背筋を伸ばし、少し顎を引いて視線に臆さないようまっすぐ前を見つめる。
まずは主催者であるヨハン・バッハマン侯爵令息の元へと向かった。
「久しぶり、ヨハン。今日はお招きいただきありがとう。僕の婚約者のエリーゼ・フォン・リヒテンベルクだよ」
「お初にお目にかかります、ヨハン様。本日はお招きいただきありがとうございます」
ヨハンは気の良さそうな青年だった。緑色の垂れ目が笑みの形に細められ、エリーゼに向かって握手を求める。
「やあ、初めまして。ヴィクトールを引き取ってくれてありがとう」
「こら、ヨハン。そんな言い方ないだろう」
「ははっ、まあまあ」
ヴィクトールとヨハンは本当に気の置けない仲のようで、互いに肩を小突きあっている。
「でも、いい子そうじゃないか。よかったよ、本当に」
「ああ、とても素敵な女性だよ、エリーゼは」
眼前で手放しに褒められて、エリーゼは頬を染めて俯く。その姿を見てますますヨハンが盛り上がるものだから、エリーゼは余計に照れた。
ヨハンとそのパートナーに挨拶を終えたら、舞踏会で他の貴族たちと顔合わせをする。
中には田舎の貧乏男爵家と言うことで蔑みの目を向けてくる人もいたが、魔道具師として高名なヴィクトールの威光か、基本的には皆礼儀正しかった。
挨拶がひと段落つくと音楽隊が優雅な調べを奏で始めた。
ダンスの時間だ。
「レディ、僕と一緒に踊ってくれますか?」
ヴィクトールが腰を折り、誘うように手を差し出した。盛装に身を包んだヴィクトールは輝くように美しくて、女性として隣に立つ自信を失いそうになる程だ。
神秘的な紫の瞳がエリーゼを見つめ、ぱちんとウィンクをする。
エリーゼはその手を取り、大広間の中央へとヴィクトールのエスコートで歩き出した。
優雅な調べに身を任せて、ホールの中をゆったりと泳ぐ。
男爵令嬢としてダンスの基礎は身につけていたが、父が亡くなってからは随分と社交界からも離れていた。
きちんと練習したのもあるし、ヴィクトールのリードが上手いのもある。エリーゼの体重移動を巧みに操り、ターンする時には軸がぶれないように上手く支えてくれる。
ヴィクトールは細身だけれどこういう時は頼りがいがあって、エリーゼは胸が高鳴る。
壮麗なシャンデリアの下、くるくるとターンをする。夢のような時間に、エリーゼはこれが現実なのかとふわふわした頭で考えた。
踊り終えると、甘い果実汁に紅茶のリキュールを混ぜたカクテルをいただく。冷たくて甘いカクテルが喉の奥を滑り落ちていくと、踊りで熱った体に染み入るようだ。
「エリーゼ、疲れていないかい?」
「ええ。ヴィクトール様のリードが良くて踊りやすかったです」
大広間の隅に下がって、しばらく語りながら休む。
「ふわぁ、なんだか、少し酔いが回ってきたみたいです」
紅茶と果実汁のカクテルが美味しくて、何杯も飲んでしまった。
「休憩室を借りようか」
この手の舞踏会では、酒に酔ってしまったり、踊りで疲れたり、あるいは未婚の男女が親しくなった時用に個室の休憩室が用意されている。
ヴィクトールは大広間の使用人に声をかけると、休憩室を用意させた。
大広間から出て、廊下に立ち並ぶ個室の一つを借りる。
部屋にはソファーとローテーブルに、水差しに果実水が用意されていた。
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