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41話
リビングの入り口で石のように固まっている、美琴より少し年上くらいの、清楚な雰囲気の美しい女の人。驚いてしばし呆然としてしまったが、ふと気がついた。自分は以前、この人に会ったことがある。
「あ……あなたは」
かすれた声でそう呟いたところで、彼女が美琴の言葉を遮るように、驚きに目を見開いたままで口を開けた。
「……どうしたんですか、その格好」
言われてハッとする。行為に及んだあとそのままだったので、美琴は下着もほとんど外れかかり、全裸といってもいい姿だったのだ。しかも当然、ベッドに鎖と手錠で繋がれている。
「……あなた、楠木さんの彼女じゃないの?」
「えっと、私」
「もしかして……監禁、されてるの?」
この異様な光景に驚きを隠せないらしい。それは無理もない、と思った。妙に冷静に考えつつも、美琴も美琴で心の中がざわめいている。
どうしてこの女の人が、カナタの家の鍵を持っているのだろう?
◆
しばらく見つめあったあと、こうしていてもらちがあかない、とお互い気がついたらしく、女性は居心地悪そうにベッドのそばに座った。
「……あの、お願いがあるんです」
美琴が切り出すと、彼女が首を傾げてこっちを見る。
「タオル、かけてくれませんか?あの、この格好、恥ずかしくて」
「あ、そうですよね、ごめんなさい……ちょっと、かなり、動揺してしまって」
彼女は美琴が指示した通りクローゼットからやわらかい大きなタオルを取り出し、身体にかけてくれた。
「あの、以前会ったことがありますよね、私たち。街中で……」
そう言ったところで、女性の肩がびくりと震える。やがて観念したように、低い声で言った。
「……ええ。私、楠木さんの部下の、野中ヒトミといいます」
そうだ。その名前を聞いてはっきりと思い出した。ここに連れてこられたばかりの頃、新しい下着を買いに行こうと言ってカナタが街に連れ出してくれたことがあった。あの時、美琴は手錠でカナタと繋がっていて、逃げたくても逃げられない状態で……
そんな中、街で偶然出会ったのがこの人だった。モヤがかかっていた記憶が、だんだんと鮮明になってくる。
「もう一度聞きます……あなたは、楠木さんの彼女じゃないんですか?」
「……ええと」
「まるで閉じ込められているみたい。今朝、彼、普通に出勤してきましたよ。夜まで帰ってこないのに、彼女にこんなことするんですか? それって異常じゃないですか」
「……あ、あの」
押しの強そうな女の人だ。なんと答えたらいいのかわからなくて、要領を得ない反応をしてしまう。そこでふと思い至った。自分ばかり質問責めにされているが、そもそも彼女はカナタといったいどんな関係なのだ。
「私のことは、あとでちゃんと話しますから。まず、教えていただきたいです……その、どうして、野中さんがこの家を訪ねてきたのか」
「……」
「どうして、鍵を持っているんですか?」
彼女はしばらくうつむいていたが、やがて意を決した様子で美琴のことを見据え、はっきりと言った。
「通報してもかまいません。私は……楠木さんの、ストーカーです」
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