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バスルームまであと少しというところで、そのドアの向こうからかすかな物音がしたような気がした。
(え……誰かいる……?)
誰かと言ってもこの城にはセーレとミカエルさんと私しかいないので、必然的にそのふたりのうちのどちらかということになる。
部屋は静かだったのでセーレの可能性もないではないが、子供なのでやはり寝てしまっていたというのが実のところだろう。ということは、ミカエルさん?
(なんかわかんないけど怒られそう……部屋に戻ろう)
ちょうどそう思って回れ右をしようとした瞬間、無情にも、バスルームのドアが開いた。
「み、みみみ」
「ルナさん。どうしたのですか、こんな時間に、こんなところで」
「ミカエルさん……」
そこにはバスローブ姿のミカエルさんが立っていた。やはりバスルームにいたのは彼だったのだ。執事なので、お風呂を使うのはいつもこのように遅い時間なのかもしれない。
「あの、探しものをしていて。ネックレス、ありませんでしたか?」
「バスルームでは見ていませんね」
「そうですか……すみません」
少し濡れた金髪に、眠いのかわずかに目尻の下がった灰色の瞳。すらっと高い身長も相まって、目の前に立つ姿がモデルが何かのようで、急にドキドキしてきてしまう。
「じゃあ、あの、私はこれで……」
気まずいのでそう言って去ろうとすると、待ってください、と呼び止められた。
「ルナさん。あなたは坊ちゃんとどこで知り合ったんですか?」
「どこで?……あの、よくわからないんです。気がついたら、月桂樹という木の下にいて。そこがどこか分からなくてうろうろしていたところを、セーレが見つけてくれました」
人間界から来た、などという部分は省いて説明する。どうせ夢なのに生真面目に答える必要はないと思ったのだ。
「そうですか。私の感じたところによると、あなたはこの世界の者ではありませんね」
「え?!?!?!」
神妙な顔をして言うミカエルさんに反して、私は思わず高い声を出してしまった。意図的に隠そうとした部分についてバレてしまっていたのだから、仕方がない。
「驚く必要はありません。においですぐにわかります。そしてあなたには残念なお知らせをしなければなりませんが……」
「残念なお知らせ?」
「ええ。あなたはここを、空想や夢の世界だと解釈していらっしゃるのでは?」
「ええと……まあ」
夢の住人にそんなことを尋ねられるのは不思議だったが、間違ってはいないため曖昧に頷いた。
「残念ながら、現実ですよ」
「現実?」
驚きなど微塵もなかった。そんなわけないと分かり切っているからだ。
鼻から信じていないという私の態度にも、ミカエルさんは動じた様子がなかった。むしろ想定の範囲内とでも言わんばかりだ。
髪の毛と同じ銀色の眉毛を持ち上げ、唇の端をわずかにゆがめる。
「あなたにとっては突飛な話でしょう。信じなくてもいいですが、いずれ嫌でも信じざるを得なくなります。坊ちゃんが許さない限り、あなたは永遠に、向こうの世界には帰れないのですから」
その言葉は、脳で理解するより先に、お腹の奥に重く沈んでいくようだった。
(え……誰かいる……?)
誰かと言ってもこの城にはセーレとミカエルさんと私しかいないので、必然的にそのふたりのうちのどちらかということになる。
部屋は静かだったのでセーレの可能性もないではないが、子供なのでやはり寝てしまっていたというのが実のところだろう。ということは、ミカエルさん?
(なんかわかんないけど怒られそう……部屋に戻ろう)
ちょうどそう思って回れ右をしようとした瞬間、無情にも、バスルームのドアが開いた。
「み、みみみ」
「ルナさん。どうしたのですか、こんな時間に、こんなところで」
「ミカエルさん……」
そこにはバスローブ姿のミカエルさんが立っていた。やはりバスルームにいたのは彼だったのだ。執事なので、お風呂を使うのはいつもこのように遅い時間なのかもしれない。
「あの、探しものをしていて。ネックレス、ありませんでしたか?」
「バスルームでは見ていませんね」
「そうですか……すみません」
少し濡れた金髪に、眠いのかわずかに目尻の下がった灰色の瞳。すらっと高い身長も相まって、目の前に立つ姿がモデルが何かのようで、急にドキドキしてきてしまう。
「じゃあ、あの、私はこれで……」
気まずいのでそう言って去ろうとすると、待ってください、と呼び止められた。
「ルナさん。あなたは坊ちゃんとどこで知り合ったんですか?」
「どこで?……あの、よくわからないんです。気がついたら、月桂樹という木の下にいて。そこがどこか分からなくてうろうろしていたところを、セーレが見つけてくれました」
人間界から来た、などという部分は省いて説明する。どうせ夢なのに生真面目に答える必要はないと思ったのだ。
「そうですか。私の感じたところによると、あなたはこの世界の者ではありませんね」
「え?!?!?!」
神妙な顔をして言うミカエルさんに反して、私は思わず高い声を出してしまった。意図的に隠そうとした部分についてバレてしまっていたのだから、仕方がない。
「驚く必要はありません。においですぐにわかります。そしてあなたには残念なお知らせをしなければなりませんが……」
「残念なお知らせ?」
「ええ。あなたはここを、空想や夢の世界だと解釈していらっしゃるのでは?」
「ええと……まあ」
夢の住人にそんなことを尋ねられるのは不思議だったが、間違ってはいないため曖昧に頷いた。
「残念ながら、現実ですよ」
「現実?」
驚きなど微塵もなかった。そんなわけないと分かり切っているからだ。
鼻から信じていないという私の態度にも、ミカエルさんは動じた様子がなかった。むしろ想定の範囲内とでも言わんばかりだ。
髪の毛と同じ銀色の眉毛を持ち上げ、唇の端をわずかにゆがめる。
「あなたにとっては突飛な話でしょう。信じなくてもいいですが、いずれ嫌でも信じざるを得なくなります。坊ちゃんが許さない限り、あなたは永遠に、向こうの世界には帰れないのですから」
その言葉は、脳で理解するより先に、お腹の奥に重く沈んでいくようだった。
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