翡翠の森

中嶋 まゆき

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言葉の重み

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お前が祈り子だと言われた時、途方もない重圧と孤独に苛まれた。

どうして、自分が。

逃げたくて、誰かに代わってほしくて。
誰もこの気持ちを、理解してくれようとは思わないのだと。
だが、他の子が選ばれていたら、自分はどうしただろう?

(それに、今は一人じゃない)

一人きりで祈ってくれ、などとは誰も言わないのだ。
この国に来て、ジェイダは寂しいとは思っていなかった。

「でも、太陽を浴び続けるなんて、無茶苦茶だ。何で、そんなことになったんだか」

「そうね。昔は、何か特技のある人が選ばれていたらしいけど……議会が設けられてからは、メンバーの誰からも文句が出ない、私みたいな子が選ばれやすいんじゃないかな」

アルフレッドやデレクに言われた通り、どこにでもいそうな自分が祈り子なのは、そうだとしか考えられない。

苦笑いが漏れる。
町長から言い渡された時は、腹立たしくて仕方なかったのに。

「ジェイダは可愛いよ。だからこそ、アルがあんな意地悪なのさ。……でも、だめだよ」

(……何が……!? )

意味深な言葉に、真っ赤になってしまう。
直にアルフレッドは国王になるのだし、第一、彼がジェイダに無関心なのは分かりきっている。

「考えたこともなかったけど。兄弟って、女の子の好みも似るのかなあ」

「……仲がいいのね」

先程の話だと、ロイは父親にあまり可愛がられなかったのだろう。少なくとも、表面上は。

けれど、兄は違うのだ。

王家の家族関係というのは、どんなものか全く不明だが、兄弟間に確執があってもおかしくない気がするのに。
    
「うん。二人が成長するにつれ、ご多分に漏れず内部のゴタゴタはあったけどね。僕が向いていないのが分かると、それもサッと引いたし。……いくら邪険にしても、アルは様子を見に来てくれた。口下手なくせにね」

懐かしみながら語るロイを見つめながら、二人の幼少時代を想像する。

「最初は嫌いだった。どうあっても敵わないし……皆の態度も違ったから。でも、分かったんだ。何か大きなものを手にすれば、それ相応のものを背負うことになる。……今回みたいに」

国王にならなくてはいけない、アルフレッドの気持ち。
国王になることができない、ロイの想い。
どちらも比べることなど不可能なくらい、重くて辛いのだろう。

「……お相手、素敵なお姫様だといいね。ううん、きっと、そうだと思う」

ロイにすれば、面倒を全て兄に押し付けたようで、心苦しいのかもしれない。
何とか励ましたかったが、またも場違いな話題が口を突いてしまった。

「そうだね。どうせ、良家のご息女が来るんだろうけど。あのアルが、好きになれる人ならいいな」

無理矢理明るくした声に、気づかないはずはない。
気持ちを切り換えるのは難しいだろうが、ロイはそう合わせてくれた。

「そういう点でも、僕は恵まれている。あのまま君に会わなければ、大差ない道を歩んでいた」

妃殿下に劣ることのない、家柄と美貌を兼ね備えた姫君。

(いつか、ロイも……? )

胸は正直だ。
頭では否定しているのに、ズキリと痛むのだから。

「でも僕は、大人しそうな顔してむちゃくちゃな君が好きだ。せっかく用意したものを投げ捨てて、飛び出していく。王子様面した僕が嫌なんて……」

「ごめ……」

何てことを言ったのだろう。
素顔のロイを見たい。
そんな意味だったが、彼が悩んできたことも知らずに。


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