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第113話 第2のバロッサ
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〈帝国四騎士ドウェイン・リグザード視点〉
魔の森を北上して2日目に差し掛かった。相変わらずモンスターがうじゃうじゃといる中で、冒険者のような格好をした者達と出会《でくわ》した。
俺達は一瞬、時が止まったかのようにしてお互いのパーティーを観察した。俺達もコイツらと同じ冒険者のような格好をしているからだ。
しかし、俺達は悟った。コイツらは間違いなく神聖国兵である、と。何故ならコイツらは魔の森の中間部を真っ直ぐ南下してきていたからだ。普通ならこの魔の森の入り口である西方面から東へと向かう筈だ。仮にモンスターを追っていたとか、薬草や木の実を探していたとか、道に迷ったとかそういうわけがあったならわかる。
──だがコイツらは違う。
俺達と会った瞬間、コイツらに緊張のようなモノが走ったのを俺は見逃さなかった。
俺達はコイツらを、例え本当に冒険者であっても捕らえることにした。俺の部下達が、森を敷き詰める落ち葉と腐葉土の上に組伏せるようにして冒険者達の動きを封じる。
「な、何をする!?」
「は!?」
「おい!」
「なんだなんだ!?」
まさに冒険者のようなことを言うではないか。するとこの4人パーティーのリーダーと思われる男が言った。
「お、お前は帝国四騎士のドウェイン・リグザードか!?」
俺の正体に一瞬にして気付かれた。
──だから冒険者っぽい服装に変えなくても良いって言ったじゃねぇか……
俺は言った。
「よく知ってんじゃねぇか?」
「何故お前…貴方のような人がここにいるんだ!?」
「それを知られたくねぇから捕らえんだよ。それと、お前ら──」
リーダーの男にしゃがみ込みながら俺は尋ねる。
「出身国はどこだ?」
一瞬の静寂が訪れ、リーダーの男が答える。
「…シュ、シュマール王国だ」
「わかった。オイ、コイツら拠点に連れてくぞ?」
俺は北上するのを止め、拠点に戻った。中央軍は後退させ、右軍と左軍のところまで下げさせた。
拠点に着いた時はもう日が昇り切った時だった。
拠点の屋外にて尋問が始まる。椅子なんてモノはなかったから椅子に見立てて切り出した丸太の上に座らせ、両手を縄で拘束した状態で俺は尋ねた。
「あそこで何をしていた?」
リーダーの男が答える。
「何って、モンスターを狩っていたんだ」
「クエストか?」
「…いや、腕を上げるための訓練だ」
俺の勘が言っていた。コイツらは間違いなく神聖国の兵だ。しかし証拠がない。どうしたものかと考えていると、帝国情報局所属のマルティネス・ベルガーがやって来た。
「ほぉ~、腕を磨くためにわざわざ魔の森の中間部に入ったと……」
俺はベルガーに言った。
「ちっ、入ってくんじゃねぇよ」
「まあまあ、良いじゃないですか?それよりも聞きましたがこの者達は、シュマール王国出身の冒険者だとか?」
「ああ、それがどうした?」
「それならば、少し私に考えがあります」
「なんだ?」
ベルガーは懐から何かを取り出した。
「これです」
木像だった。ハルモニア神聖国の信仰するソニアが直立しながら祈りを捧げている像だ。
俺は疑問を呈した。
「は?お前ソニア教の信者だったのか?」
「いえいえ、違います。彼等がハルモニアから来たわけではないということはこの木像を踏みつけるのも簡単なことかと思いましてね」
俺は再び疑問を呈する。
「は?何がしたいんだ?」
「彼等がハルモニア出身であれば、この木像を踏みつけることなどできません」
「何言ってんだお前?そんなのハルモニア出身の奴でも踏みつけんだろ?」
「まあまあ、見ていてくださいよ」
ベルガーは4人1列に並んだパーティーの前を歩きながら言った。
「貴方達がシュマール人であれば、この木像を踏めと言われれば簡単に踏むことができますよね?」
ベルガーはリーダーの男の足元に像を横たえ、眼前に迫りながら言った。
「さあ、踏んでみてください」
そのあまりの近さに、ベルガーの息がリーダーの男の顔全体にかかっただろう。それに、いくら両手を縛られているとは言え、あの距離ならば頭突きや噛み付き等の攻撃を食らっても仕方がない。一応、ベルガーが攻撃されないよう注意はしておくか。
「フフフ、動揺しておりますね。貴方の瞳孔の開き具合や鼓動によってそれがよくわかります。故に今、貴方がシュマール人であるがソニア教の信者であるとかたっても、それが嘘であるとわかります」
尋問をされているリーダーの男は、ハッとした表情をする。俺が思ったよりも、ベルガーの問い掛けは男に効いている。
「踏むだけで良いんです。形式だけでも構いません。ほら、そうすれば貴方達はここから解放されますよ?」
ベルガーはリーダーの男の頭頂部に手を置いて、ぐるりと回転させ、隣にいる不安そうな顔をした他のパーティーメンバーに視線を無理矢理向けさせた。
「踏めば、皆さんをここから解放いたしましょう」
今度は反対側に向けた。
──例え踏んだとしても俺が解放させないがな……
パーティーメンバーは心配そうにリーダーの男をみつめている。リーダーの男はゴクリと唾を飲み込み、ソニア像を見た。そしてゆっくりと足を上げる。
ベルガーが言った。
「何を迷うことがあるのですか?ただ踏めば良いんです。貴方が踏まないならば私が踏みやすくして差し上げましょう」
何をするつもりだ?この尋問の様子を見ている帝国兵全員もベルガーの言葉に耳を傾ける。
「このソニアがどんな人物か、私がその真実を教えてさしあげましょう。この女は、実に嫉妬深く、浅ましい奴でした」
ベルガーはソニアをまるで見知った人物かの如く話し始める。
「神に力を与えて貰い、勘違いしてしまったのです。そしてあろうことか神の寵愛を独り占めしようとしている糞虫に他なりません! 」
ベルガーの論調は徐々に熱を帯び始めた。
「自分が最も神に愛されていると勘違いし、このソニア教なるモノで神と一体化したなど主張した!?は?考えるだけで寒気を催す!!奴の魂はそこら辺のドブ水より穢らわしい。あぁ~みっともないったらありゃしない。見るも無惨、聞くもおぞましい。その卑劣な本性は人の形をした汚物そのもの。腐臭を撒き散らしながら信者を手玉にとって騙し続ける。如何にも、厚顔無恥な売女が考えるようなことですよねぇ?」
ベルガーはソニアの像に唾を吐きかけた。すると次の瞬間、リーダーの男は木像を踏もうとした足を地面に叩き付け、それを軸にもう片方の足を振り上げて、ベルガーの顔面に攻撃をしてきた。
「それ以上神を侮辱するな」
しかし、ベルガーはそれを片手で受け止めた。
「ハルモニアの兵は実に単純ですねぇ」
ベルガーは後ろを振り向き、俺にニコリと笑いかけて言った。
「ハルモニアの兵みたいですよ?どうします?兵の数や魔の森をどのくらい掌握しているのか訊いてみましょうか?」
俺が少しの間思案していると、ハルモニアの兵、先程まで冒険者パーティーのリーダーと思っていた男が言った。
「帝国の兵なんかに喋ることは何もない!!」
ベルガーは後ろを振り向き、声を発した者に目を合わせながら言った。
「それでは試してみましょうか?」
何を試すつもりだ?と俺が思った次の瞬間、ベルガーはお得意の土属性魔法を行使する。大地が盛り上がり、ベルガーの胸辺りまで隆起すると、そこに手を突っ込み始めた。引き戻したその手には太い杭のような形をしたモノを手に握っていた。
おそらく土を固めて作ったのだろう。
その杭は尖端が鋭く尖っていて、その尖り具合をベルガーは視認した。
「よしっ!」
と声を出すと、その杭の尖った部分をリーダーの男の足の甲に突き刺した。
「うがぁぁっ!!」
杭が足を貫通し大地に突き刺さるっているのがわかった。痛みに踠《もが》き苦しむリーダーの男に構わず、ベルガーはその杭の上に足を置いて、体重をかけ始める。
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!」
絶叫が魔の森に木霊《こだま》した。
「さて、どのくらいの兵士がこの魔の森にいますか?」
「あ”がぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!」
「おっと失礼」
ベルガーはそう言って、杭から足をどけた。男は脂汗を滲ませながら、言った。
「…な、何も喋ることは…ないと言ったろ……」
「そうですか……」
ベルガーは天を見上げ、暫し思案すると「わかりました♪︎」と手をポンと叩き、言った。
「これは神が与えた試練だとお思いでしょうが、全く違います。ですが、信心深い愚かな貴方には私が何を言っても聞く耳をもたないでしょう。だから肯定して差し上げましょう。そうです。これは神の試練なのです。しかしこれは貴方に限ってのことです」
ベルガーはそう言ってから、隣にいるハルモニアの兵の頭を片手で鷲掴みにしながら続けて言った。
「ですから、今度はこの方達に痛みを与え続けることにしましょう。貴方が喋るならばこの方達の痛みは消えます。しかし貴方が喋らなければいつまで経っても、痛みは消えません」
ベルガーに頭を掴まれたハルモニアの兵士は震え始める。
「これも貴方にとっては神の試練かもしれませんが、貴方の仲間はそうは思いません。貴方が喋れば痛みから解放されるのですから。貴方はこれから神か仲間か、どちらかを選ばなければならないのです。それではいってみましょう♪︎」
ベルガーは今度は、地面を掘るように両手を突き刺し、引き戻す。先程の杭より、少し細い杭を8本生成し、それを両手の指の間に挟まれた状態で手が引き戻された。実際に痛みを受ける対象となった神聖国兵は、自らその痛みより解放されたいが為に口を割らないようにと、ベルガーは帝国兵に布を口に入れさせ、そして神聖国兵の足を裸足にさせた。
神聖国兵の足の指に1本1本順番に杭を刺し、魔法で作った金槌で打ち付けていく。ベルガーは同じ要領で、拷問しろと帝国兵達に命令し、お手製の拷問道具の一式を渡した。
それを戸惑いながら実行する俺の部下達。だがその戸惑いも最初だけだ。人間には笑って人間を殺せる残忍さがある。それをベルガーは知っている。
神聖国兵の声にならないくぐもった悲鳴が拠点に響き渡る。その悲鳴は俺にバロッサでの殺戮を思い出させた。
恐怖に震え、狂気に踊る。
あの異様な雰囲気は次第に兵士達に伝染し、世界から逸脱される。ここが第2のバロッサになると俺は思った。
魔の森を北上して2日目に差し掛かった。相変わらずモンスターがうじゃうじゃといる中で、冒険者のような格好をした者達と出会《でくわ》した。
俺達は一瞬、時が止まったかのようにしてお互いのパーティーを観察した。俺達もコイツらと同じ冒険者のような格好をしているからだ。
しかし、俺達は悟った。コイツらは間違いなく神聖国兵である、と。何故ならコイツらは魔の森の中間部を真っ直ぐ南下してきていたからだ。普通ならこの魔の森の入り口である西方面から東へと向かう筈だ。仮にモンスターを追っていたとか、薬草や木の実を探していたとか、道に迷ったとかそういうわけがあったならわかる。
──だがコイツらは違う。
俺達と会った瞬間、コイツらに緊張のようなモノが走ったのを俺は見逃さなかった。
俺達はコイツらを、例え本当に冒険者であっても捕らえることにした。俺の部下達が、森を敷き詰める落ち葉と腐葉土の上に組伏せるようにして冒険者達の動きを封じる。
「な、何をする!?」
「は!?」
「おい!」
「なんだなんだ!?」
まさに冒険者のようなことを言うではないか。するとこの4人パーティーのリーダーと思われる男が言った。
「お、お前は帝国四騎士のドウェイン・リグザードか!?」
俺の正体に一瞬にして気付かれた。
──だから冒険者っぽい服装に変えなくても良いって言ったじゃねぇか……
俺は言った。
「よく知ってんじゃねぇか?」
「何故お前…貴方のような人がここにいるんだ!?」
「それを知られたくねぇから捕らえんだよ。それと、お前ら──」
リーダーの男にしゃがみ込みながら俺は尋ねる。
「出身国はどこだ?」
一瞬の静寂が訪れ、リーダーの男が答える。
「…シュ、シュマール王国だ」
「わかった。オイ、コイツら拠点に連れてくぞ?」
俺は北上するのを止め、拠点に戻った。中央軍は後退させ、右軍と左軍のところまで下げさせた。
拠点に着いた時はもう日が昇り切った時だった。
拠点の屋外にて尋問が始まる。椅子なんてモノはなかったから椅子に見立てて切り出した丸太の上に座らせ、両手を縄で拘束した状態で俺は尋ねた。
「あそこで何をしていた?」
リーダーの男が答える。
「何って、モンスターを狩っていたんだ」
「クエストか?」
「…いや、腕を上げるための訓練だ」
俺の勘が言っていた。コイツらは間違いなく神聖国の兵だ。しかし証拠がない。どうしたものかと考えていると、帝国情報局所属のマルティネス・ベルガーがやって来た。
「ほぉ~、腕を磨くためにわざわざ魔の森の中間部に入ったと……」
俺はベルガーに言った。
「ちっ、入ってくんじゃねぇよ」
「まあまあ、良いじゃないですか?それよりも聞きましたがこの者達は、シュマール王国出身の冒険者だとか?」
「ああ、それがどうした?」
「それならば、少し私に考えがあります」
「なんだ?」
ベルガーは懐から何かを取り出した。
「これです」
木像だった。ハルモニア神聖国の信仰するソニアが直立しながら祈りを捧げている像だ。
俺は疑問を呈した。
「は?お前ソニア教の信者だったのか?」
「いえいえ、違います。彼等がハルモニアから来たわけではないということはこの木像を踏みつけるのも簡単なことかと思いましてね」
俺は再び疑問を呈する。
「は?何がしたいんだ?」
「彼等がハルモニア出身であれば、この木像を踏みつけることなどできません」
「何言ってんだお前?そんなのハルモニア出身の奴でも踏みつけんだろ?」
「まあまあ、見ていてくださいよ」
ベルガーは4人1列に並んだパーティーの前を歩きながら言った。
「貴方達がシュマール人であれば、この木像を踏めと言われれば簡単に踏むことができますよね?」
ベルガーはリーダーの男の足元に像を横たえ、眼前に迫りながら言った。
「さあ、踏んでみてください」
そのあまりの近さに、ベルガーの息がリーダーの男の顔全体にかかっただろう。それに、いくら両手を縛られているとは言え、あの距離ならば頭突きや噛み付き等の攻撃を食らっても仕方がない。一応、ベルガーが攻撃されないよう注意はしておくか。
「フフフ、動揺しておりますね。貴方の瞳孔の開き具合や鼓動によってそれがよくわかります。故に今、貴方がシュマール人であるがソニア教の信者であるとかたっても、それが嘘であるとわかります」
尋問をされているリーダーの男は、ハッとした表情をする。俺が思ったよりも、ベルガーの問い掛けは男に効いている。
「踏むだけで良いんです。形式だけでも構いません。ほら、そうすれば貴方達はここから解放されますよ?」
ベルガーはリーダーの男の頭頂部に手を置いて、ぐるりと回転させ、隣にいる不安そうな顔をした他のパーティーメンバーに視線を無理矢理向けさせた。
「踏めば、皆さんをここから解放いたしましょう」
今度は反対側に向けた。
──例え踏んだとしても俺が解放させないがな……
パーティーメンバーは心配そうにリーダーの男をみつめている。リーダーの男はゴクリと唾を飲み込み、ソニア像を見た。そしてゆっくりと足を上げる。
ベルガーが言った。
「何を迷うことがあるのですか?ただ踏めば良いんです。貴方が踏まないならば私が踏みやすくして差し上げましょう」
何をするつもりだ?この尋問の様子を見ている帝国兵全員もベルガーの言葉に耳を傾ける。
「このソニアがどんな人物か、私がその真実を教えてさしあげましょう。この女は、実に嫉妬深く、浅ましい奴でした」
ベルガーはソニアをまるで見知った人物かの如く話し始める。
「神に力を与えて貰い、勘違いしてしまったのです。そしてあろうことか神の寵愛を独り占めしようとしている糞虫に他なりません! 」
ベルガーの論調は徐々に熱を帯び始めた。
「自分が最も神に愛されていると勘違いし、このソニア教なるモノで神と一体化したなど主張した!?は?考えるだけで寒気を催す!!奴の魂はそこら辺のドブ水より穢らわしい。あぁ~みっともないったらありゃしない。見るも無惨、聞くもおぞましい。その卑劣な本性は人の形をした汚物そのもの。腐臭を撒き散らしながら信者を手玉にとって騙し続ける。如何にも、厚顔無恥な売女が考えるようなことですよねぇ?」
ベルガーはソニアの像に唾を吐きかけた。すると次の瞬間、リーダーの男は木像を踏もうとした足を地面に叩き付け、それを軸にもう片方の足を振り上げて、ベルガーの顔面に攻撃をしてきた。
「それ以上神を侮辱するな」
しかし、ベルガーはそれを片手で受け止めた。
「ハルモニアの兵は実に単純ですねぇ」
ベルガーは後ろを振り向き、俺にニコリと笑いかけて言った。
「ハルモニアの兵みたいですよ?どうします?兵の数や魔の森をどのくらい掌握しているのか訊いてみましょうか?」
俺が少しの間思案していると、ハルモニアの兵、先程まで冒険者パーティーのリーダーと思っていた男が言った。
「帝国の兵なんかに喋ることは何もない!!」
ベルガーは後ろを振り向き、声を発した者に目を合わせながら言った。
「それでは試してみましょうか?」
何を試すつもりだ?と俺が思った次の瞬間、ベルガーはお得意の土属性魔法を行使する。大地が盛り上がり、ベルガーの胸辺りまで隆起すると、そこに手を突っ込み始めた。引き戻したその手には太い杭のような形をしたモノを手に握っていた。
おそらく土を固めて作ったのだろう。
その杭は尖端が鋭く尖っていて、その尖り具合をベルガーは視認した。
「よしっ!」
と声を出すと、その杭の尖った部分をリーダーの男の足の甲に突き刺した。
「うがぁぁっ!!」
杭が足を貫通し大地に突き刺さるっているのがわかった。痛みに踠《もが》き苦しむリーダーの男に構わず、ベルガーはその杭の上に足を置いて、体重をかけ始める。
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!」
絶叫が魔の森に木霊《こだま》した。
「さて、どのくらいの兵士がこの魔の森にいますか?」
「あ”がぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!」
「おっと失礼」
ベルガーはそう言って、杭から足をどけた。男は脂汗を滲ませながら、言った。
「…な、何も喋ることは…ないと言ったろ……」
「そうですか……」
ベルガーは天を見上げ、暫し思案すると「わかりました♪︎」と手をポンと叩き、言った。
「これは神が与えた試練だとお思いでしょうが、全く違います。ですが、信心深い愚かな貴方には私が何を言っても聞く耳をもたないでしょう。だから肯定して差し上げましょう。そうです。これは神の試練なのです。しかしこれは貴方に限ってのことです」
ベルガーはそう言ってから、隣にいるハルモニアの兵の頭を片手で鷲掴みにしながら続けて言った。
「ですから、今度はこの方達に痛みを与え続けることにしましょう。貴方が喋るならばこの方達の痛みは消えます。しかし貴方が喋らなければいつまで経っても、痛みは消えません」
ベルガーに頭を掴まれたハルモニアの兵士は震え始める。
「これも貴方にとっては神の試練かもしれませんが、貴方の仲間はそうは思いません。貴方が喋れば痛みから解放されるのですから。貴方はこれから神か仲間か、どちらかを選ばなければならないのです。それではいってみましょう♪︎」
ベルガーは今度は、地面を掘るように両手を突き刺し、引き戻す。先程の杭より、少し細い杭を8本生成し、それを両手の指の間に挟まれた状態で手が引き戻された。実際に痛みを受ける対象となった神聖国兵は、自らその痛みより解放されたいが為に口を割らないようにと、ベルガーは帝国兵に布を口に入れさせ、そして神聖国兵の足を裸足にさせた。
神聖国兵の足の指に1本1本順番に杭を刺し、魔法で作った金槌で打ち付けていく。ベルガーは同じ要領で、拷問しろと帝国兵達に命令し、お手製の拷問道具の一式を渡した。
それを戸惑いながら実行する俺の部下達。だがその戸惑いも最初だけだ。人間には笑って人間を殺せる残忍さがある。それをベルガーは知っている。
神聖国兵の声にならないくぐもった悲鳴が拠点に響き渡る。その悲鳴は俺にバロッサでの殺戮を思い出させた。
恐怖に震え、狂気に踊る。
あの異様な雰囲気は次第に兵士達に伝染し、世界から逸脱される。ここが第2のバロッサになると俺は思った。
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