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第51話 ララVSスターバックス
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~織原朔真視点~
◆ ◆ ◆ ◆
音咲さんに身バレしそうなんだ。そう言った時、一ノ瀬さんが言った。
「あ!音咲さんも持ってるもんね、これ」
一ノ瀬さんが僕のグッズであるロザリオのアクキーを取り出した。
──なんで一ノ瀬さんも持ってんだよ…まぁ、スターバックスさんだからな…確かに送った筈だ……
一ノ瀬さんが言った。
「音咲さんのアカウントの名前は何?」
「ララ」
「ララさん!?モデレーターついてる!?」
一ノ瀬さんことスターバックスさんにモデレーターはつけていない。
「い、一ノ瀬さんにも今度モデレーターつけておくね」
僕はそう言ったが、一ノ瀬さんは両頬に手を当てて、クネクネした動きをしていた。
「…ぇ、音咲さんがララさんで、隣の席にいる織原君のファンで…でも本人は有名なアイドルで……え!?なにそのシチュエーション…神なんだけど……」
──この人もヤバめのオタクだ……
◆ ◆ ◆ ◆
長い黒髪をポニーテールに結んだ音咲さんが、矢を放つ。矢は的の真ん中に刺さった。インストラクターのお兄さんが口をポカンと開けて呟く。
「す、凄い…、経験者?」
音咲さんは言った。
「ハング・ゲームっていうアメリカでヒットした映画を知ってますか?」
「…え?あぁ、観たことあるよ」
それが何か?という表情になるお兄さん。
「それを日本でリメイクすることになって、私が主人公の女の子の役をすることになったんです。その子の武器である弓を最近練習していて……」
「へぇ~日本版やるんだぁ……え?それって結構な規模の映画じゃない?」
そうですよ?と今度は音咲さんが首を傾げる。そんな彼女のことをインストラクターのお兄さんがまじまじと眺めた。するとお兄さんが叫んだ。
「あぁぁぁぁ!!椎名町45の音咲華多莉…さんですか!?」
はい。と返事をする音咲さんは、一ノ瀬さんと向き合う。
「絶対勝つ」
ルールは簡単。サッカーのPK合戦のように、矢を交互に3回放ち、合計点を競う。それぞれの番になった時、1分以内に矢を射つことを条件とした。
音咲さんと一ノ瀬さんがジャンケンをする。まるでMCバトルの決勝戦を見ているような気持ちだ。一ノ瀬さんがジャンケンに勝利し、先攻を選ぶ。一ノ瀬さんは僕に向かって絶対勝つからねと目配せをする。
頑張ってほしいと、思う僕だが何故2人が争わなければならないのか僕にはよくわからなかった。僕がギャルの松本美優さんに絡まれただけなのに、その当事者は互いに代理人を立ててこの勝負を見守るしかなかった。それにわからないことは何故、一ノ瀬さんは音咲さんを挑発したのか、だ。
ララさんvsスターバックスさん。エドヴァルドの古参リスナー対決となった。
あの時の一ノ瀬さんは何だか別人のような振る舞いだったと僕が思い出していると「おおぉ」という歓声があがった。
一ノ瀬さんは見事真ん中の10点に矢を命中させたのだ。
──すごい……
僕は拍手を送る。一ノ瀬さんは片手を振って笑顔で僕に応えた。インストラクターのお兄さんも若干引き気味で一ノ瀬さんを誉めていた。
「も、もう掴んだのか……つ、次!音咲さん、どうぞ!」
お兄さんの合図で今度は音咲さんが弓を構える。僕らが教わった取り掛け──アーチェリーの作法──からセットアップの流れまで淀みなく行われていた。一本線の通った綺麗な姿勢で、弦を引きながら照準を合わせ、一定のところで静止する。
僕は息を飲んだ。彼女の物凄い集中力に見いってしまう。
弦が弛緩した。緊張から一気に解き放たれた矢は的に向かって直進する。そして見事、真ん中に的中した。
「じ、10点……」
「おおおぉぉぉぉ!!!」
「すげぇ!!!」
「かっこいい!!!」
「キャーーーー!!」
ギャラリー達の興奮が冷めやらぬ中、お兄さんが再び一ノ瀬さんに矢を放つよう合図する。
周囲の喧騒など意に介さず、一ノ瀬さんは弓を引き絞る。音咲さんとは違って弓を構えてから静止せず、瞬時に矢が放たれた。弦の弛緩する衝撃によって、一ノ瀬さんのショートボブの髪が風に煽られたかのように靡いた。
矢はまたもや真ん中に刺さる。
「はっや……」
お兄さんは一ノ瀬さんの構えから狙いを定める間の時間が恐ろしく早いことに驚いていた。それもそのはず、今ここにいるのは一ノ瀬さんではなく、FPS界に突如として現れたシロナガックスさんなのだから。彼女は如何にして早く敵を倒し、次の行動に移れるかを考えながら矢を放っているのだ。また、止まっている敵などいはしない。少しの隙をつくには、一瞬でエイムを合わせ、仕留めなければならない。狙いが止まっている的なら彼女にとっては朝飯前なのだ。
「次、どうぞ……」
お兄さんが合図をすると、音咲さんは再び構えた。構えながら彼女は口ずさむ。
「これを外したら…妹が……」
この言葉にお兄さんが反応した。音咲華多莉に妹などいただろうか?と訝し気な表情となる。
僕にはそれが何を意味しているのかわかった。
映画『ハング・ゲーム』は殺し合いをするゲームだ。そんな理不尽なゲームに主人公の妹が参加することとなる。しかし音咲さんの演じる主人公が妹の代わりに自分がそのゲームに参加することを懇願し、認められた。音咲さんが口ずさんだのはその役になりきったからに他ならない。今までも探偵や催眠術師など数多くの役を僕の前で披露した。彼女はこうやって役になりきることで自分のスキルを高めてきたのかと僕は感心する。
それはもしかして、僕がエドヴァルドになることにも似ているのかもしれない。
音咲さんとの数少ない共通点を見出だしたその時、音咲さんの矢が放たれ、10点に命中する。
インストラクターのお兄さんは最早驚くことを止めて一ノ瀬さんに最後の合図を出した。
一ノ瀬さんがこれで10点に命中させればこちら側が負けることはなくなる。僕もお兄さんも引き分けとなった場合どうするのか?と不安を抱く。
そんな不安を突き破るかのように、一ノ瀬さんの矢が放たれた。しかしその時、僕らの横っ面をぶっ叩くように強風が吹いた。
矢は軌道をそらされ、2点のところに的中する。
「あ!!」
一ノ瀬さんは肩を落とす。反対に音咲さん側の人達は大いに盛り上がった。
「華多莉!勝てるよ!!」
「頑張って!!」
「いけー!!」
インストラクターのお兄さんが音咲さんに合図をすると、一ノ瀬さんが彷徨う幽霊のように僕のところにやってきた。そして弓を置いて僕に謝罪する。
「ごめんね。織原くん。負けちゃった……」
一ノ瀬さんの背後で音咲さんが今までのように淀みなく弓を構えているのが見えた。あの調子なら先程の強風が吹き付けない限り、負けちゃうな。僕はそう思い、口を開いた。
「だ、大丈夫だよ。それよりもありがとう……」
僕がそう呟くと、音咲さんは矢を放った。
◆ ◆ ◆ ◆
音咲さんに身バレしそうなんだ。そう言った時、一ノ瀬さんが言った。
「あ!音咲さんも持ってるもんね、これ」
一ノ瀬さんが僕のグッズであるロザリオのアクキーを取り出した。
──なんで一ノ瀬さんも持ってんだよ…まぁ、スターバックスさんだからな…確かに送った筈だ……
一ノ瀬さんが言った。
「音咲さんのアカウントの名前は何?」
「ララ」
「ララさん!?モデレーターついてる!?」
一ノ瀬さんことスターバックスさんにモデレーターはつけていない。
「い、一ノ瀬さんにも今度モデレーターつけておくね」
僕はそう言ったが、一ノ瀬さんは両頬に手を当てて、クネクネした動きをしていた。
「…ぇ、音咲さんがララさんで、隣の席にいる織原君のファンで…でも本人は有名なアイドルで……え!?なにそのシチュエーション…神なんだけど……」
──この人もヤバめのオタクだ……
◆ ◆ ◆ ◆
長い黒髪をポニーテールに結んだ音咲さんが、矢を放つ。矢は的の真ん中に刺さった。インストラクターのお兄さんが口をポカンと開けて呟く。
「す、凄い…、経験者?」
音咲さんは言った。
「ハング・ゲームっていうアメリカでヒットした映画を知ってますか?」
「…え?あぁ、観たことあるよ」
それが何か?という表情になるお兄さん。
「それを日本でリメイクすることになって、私が主人公の女の子の役をすることになったんです。その子の武器である弓を最近練習していて……」
「へぇ~日本版やるんだぁ……え?それって結構な規模の映画じゃない?」
そうですよ?と今度は音咲さんが首を傾げる。そんな彼女のことをインストラクターのお兄さんがまじまじと眺めた。するとお兄さんが叫んだ。
「あぁぁぁぁ!!椎名町45の音咲華多莉…さんですか!?」
はい。と返事をする音咲さんは、一ノ瀬さんと向き合う。
「絶対勝つ」
ルールは簡単。サッカーのPK合戦のように、矢を交互に3回放ち、合計点を競う。それぞれの番になった時、1分以内に矢を射つことを条件とした。
音咲さんと一ノ瀬さんがジャンケンをする。まるでMCバトルの決勝戦を見ているような気持ちだ。一ノ瀬さんがジャンケンに勝利し、先攻を選ぶ。一ノ瀬さんは僕に向かって絶対勝つからねと目配せをする。
頑張ってほしいと、思う僕だが何故2人が争わなければならないのか僕にはよくわからなかった。僕がギャルの松本美優さんに絡まれただけなのに、その当事者は互いに代理人を立ててこの勝負を見守るしかなかった。それにわからないことは何故、一ノ瀬さんは音咲さんを挑発したのか、だ。
ララさんvsスターバックスさん。エドヴァルドの古参リスナー対決となった。
あの時の一ノ瀬さんは何だか別人のような振る舞いだったと僕が思い出していると「おおぉ」という歓声があがった。
一ノ瀬さんは見事真ん中の10点に矢を命中させたのだ。
──すごい……
僕は拍手を送る。一ノ瀬さんは片手を振って笑顔で僕に応えた。インストラクターのお兄さんも若干引き気味で一ノ瀬さんを誉めていた。
「も、もう掴んだのか……つ、次!音咲さん、どうぞ!」
お兄さんの合図で今度は音咲さんが弓を構える。僕らが教わった取り掛け──アーチェリーの作法──からセットアップの流れまで淀みなく行われていた。一本線の通った綺麗な姿勢で、弦を引きながら照準を合わせ、一定のところで静止する。
僕は息を飲んだ。彼女の物凄い集中力に見いってしまう。
弦が弛緩した。緊張から一気に解き放たれた矢は的に向かって直進する。そして見事、真ん中に的中した。
「じ、10点……」
「おおおぉぉぉぉ!!!」
「すげぇ!!!」
「かっこいい!!!」
「キャーーーー!!」
ギャラリー達の興奮が冷めやらぬ中、お兄さんが再び一ノ瀬さんに矢を放つよう合図する。
周囲の喧騒など意に介さず、一ノ瀬さんは弓を引き絞る。音咲さんとは違って弓を構えてから静止せず、瞬時に矢が放たれた。弦の弛緩する衝撃によって、一ノ瀬さんのショートボブの髪が風に煽られたかのように靡いた。
矢はまたもや真ん中に刺さる。
「はっや……」
お兄さんは一ノ瀬さんの構えから狙いを定める間の時間が恐ろしく早いことに驚いていた。それもそのはず、今ここにいるのは一ノ瀬さんではなく、FPS界に突如として現れたシロナガックスさんなのだから。彼女は如何にして早く敵を倒し、次の行動に移れるかを考えながら矢を放っているのだ。また、止まっている敵などいはしない。少しの隙をつくには、一瞬でエイムを合わせ、仕留めなければならない。狙いが止まっている的なら彼女にとっては朝飯前なのだ。
「次、どうぞ……」
お兄さんが合図をすると、音咲さんは再び構えた。構えながら彼女は口ずさむ。
「これを外したら…妹が……」
この言葉にお兄さんが反応した。音咲華多莉に妹などいただろうか?と訝し気な表情となる。
僕にはそれが何を意味しているのかわかった。
映画『ハング・ゲーム』は殺し合いをするゲームだ。そんな理不尽なゲームに主人公の妹が参加することとなる。しかし音咲さんの演じる主人公が妹の代わりに自分がそのゲームに参加することを懇願し、認められた。音咲さんが口ずさんだのはその役になりきったからに他ならない。今までも探偵や催眠術師など数多くの役を僕の前で披露した。彼女はこうやって役になりきることで自分のスキルを高めてきたのかと僕は感心する。
それはもしかして、僕がエドヴァルドになることにも似ているのかもしれない。
音咲さんとの数少ない共通点を見出だしたその時、音咲さんの矢が放たれ、10点に命中する。
インストラクターのお兄さんは最早驚くことを止めて一ノ瀬さんに最後の合図を出した。
一ノ瀬さんがこれで10点に命中させればこちら側が負けることはなくなる。僕もお兄さんも引き分けとなった場合どうするのか?と不安を抱く。
そんな不安を突き破るかのように、一ノ瀬さんの矢が放たれた。しかしその時、僕らの横っ面をぶっ叩くように強風が吹いた。
矢は軌道をそらされ、2点のところに的中する。
「あ!!」
一ノ瀬さんは肩を落とす。反対に音咲さん側の人達は大いに盛り上がった。
「華多莉!勝てるよ!!」
「頑張って!!」
「いけー!!」
インストラクターのお兄さんが音咲さんに合図をすると、一ノ瀬さんが彷徨う幽霊のように僕のところにやってきた。そして弓を置いて僕に謝罪する。
「ごめんね。織原くん。負けちゃった……」
一ノ瀬さんの背後で音咲さんが今までのように淀みなく弓を構えているのが見えた。あの調子なら先程の強風が吹き付けない限り、負けちゃうな。僕はそう思い、口を開いた。
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