【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

文字の大きさ
58 / 185

第58話 広告代理店

しおりを挟む
~伊手野エミル視点~

 私、伊手野いでのエミルはブルーナイツ7期生としてデビューをした。

 前世では大学を卒業後、憧れていた広告代理店に就職をする。1年目は刺激的な毎日を過ごしていた。覚える業務や工程、先輩達やクライアントとの交流、競合他社と行うコンペティション等に胸を踊らせていた。しかし2年目、3年目と過ぎた辺りで気が付いた。同僚も先輩もクライアントも皆、クリエイティブな仕事・斬新なアイディアなんかよりも過去、或いは競合他社と同じような広告を造り出すことを目標とし、そして依頼される。

 いくらこっちが企画、提案しても苦笑いで受け流され、こっちも愛想笑いで冗談だと受け返した。

 そんな仕事内容に対しての鬱憤が溜まる一方で、当たり前のような残業に、当たり前のような土日出勤。男性上司から充血した目で出勤して来るなと指摘され、女子力がどうとかいじられて笑い者にされた。

 やがて感情が欠如し始め、無理矢理とって付けた笑顔で、なんとか業務をこなしてきた私だがそんなある日、とある動画投稿サイトに流すCMの企画立案を任された。

 テレビCMと違って、決まった時間に流れるものでもなく、スポンサーとなった番組の合間に流れるものでもない。その動画投稿サイトを利用するユーザーが興味を引くような商品のCMが流れるシステムで放映される。話はズレるが最近では、カスタマーサービス等の電話対応で、電話をかけた者の声をAIが解析してそのユーザーが好きそうな電話対応をする従業員に割り当てるようなシステムなんかもある。

 話を戻そう。

 クライアントはゲーム会社だ。ゲームに疎かった私は、直ぐにそのゲーム会社のゲームを検索した。そのゲームの関連動画としてVチューバーのゲーム実況動画が現れた。

 私は何気なくその実況動画を見た。私がVチューバーに初めて触れた瞬間だった。所詮、ナード達の文化だと思っていた私だったが、そこで繰り広げられる会話、コメントとのやり取り、ゲームのプレイングに私は圧倒され魅了された。

 都内で1位2位を争う偏差値の高い私大にいた私は、コミュニケーション能力であったり、会話術等にはそこそこ自信があった。所謂陽キャと呼ばれる部類に入ると思われるが、このゲーム実況を行っているVチューバーの会話術には驚嘆せざるを得なかった。1つの話題に対して幾つものアイディアとユーモアが散りばめられ、そしてまた別の関連する話題に移行する。コメント欄に流れるコメントも秀逸なモノばかりが並べ立てられた。それをまたそのVチューバーが読み上げて笑いを誘う。

 私は笑った。いつもの仕事中に無理矢理笑っていたモノとは全く違う。むしろその自然な笑いが違和感に思える程、私は笑うことすら忘れていたのだ。人の感情に訴えるような広告を造らなければならない筈なのに、業務に追われてそんなことすら忘れてしまっていた。自分の不甲斐なさや懐かしさに涙がこみ上げる。その涙は凍り付いた私の心を溶かしてくれるような、そんな感触がした。

 そこから私は、貪るようにして数多のVチューバーの配信やアーカイブを漁った。自分にない視点や言葉選び、Vチューバーの配信は正に私の求めていた、クリエイティブな日常と重なり、感情が戻ってくる。 

 そしていつしか自分も彼女等彼等と同じようにVチューバーとしてデビューをしたいと思うようになった。

 在職中にオーディションを受け『ブルーナイツ』に所属することとなった私は、仕事を辞めてデビューを果たす。学生時代の友人達は仕事を辞めた私のことをどう思うだろうか?負け組だと蔑むだろうか?いや、特に何も思わないだろう。消費されていく広告と同じように。気にしているのは私だけだ。

 そして今、私橋本あやかは生まれ変わり伊手野エミルとして第2の人生を歩む。

 Vチューバー業界はまだまだ若い文化だ。といっても私もまだ25歳。ブルーナイツの中には年下の先輩もいるだろう。しかし年齢は関係ない!関係ない、筈なのだが……

 同期のパウラ・クレイの実年齢は17歳で薙鬼流ひなみは16歳?

 は?

 激務で一度壊れかけた私の心は違う形で抉られる。口の端から生暖かい鉄の味のする赤い液体が流れてきたのを覚えている。

 デビューから2ヶ月程が経ち、順調にチャンネル登録者数が伸びたが、同期の2人と比べたら断トツで最下位だ。私には私のペースがある。チャンネル登録者数が全く気にならないと言えば嘘になるが、そこはあまり重要ではない。むしろ、私達7期生の中でトップにいる薙鬼流ひなみのことが心配だ。

 この間彼女と会った時、胸が締め付けられる想いをした。広告代理店で働いていた時の私と同じような表情を浮かべていたからだ。

 しかしどうやって声をかけて良いかわからない。あの時の私に何を言っても心に響かないだろう。それに他人に気を遣われるのもなんだか自分が出来損ないであるかのように思えて嫌だった。ならば彼女が何に悩んでいるのか調べよう。しかし答えは直ぐに出た。

 誹謗中傷だ。彼女のコメント欄やSNSのリプライには彼女の悪口で埋め尽くされていた。原因は知っている。彼女が薙鬼流ひなみになる前にやっていたVチューバー活動が原因だ。そこで作品をおとしめるような発言をしたことから彼女のアンチが生まれた。

 事務所に相談しても対応を検討中、とのことで動きも遅い。やっと答えを出したかと思えばほとぼりが冷めるまで活動休止を提案する始末。最近だったらあまりにも酷い誹謗中傷ならば訴えて裁判に持ち込むことだってできるがしかし、Vチューバーの裁判なんて今までにあまり前例がないため、長期戦となることを覚悟しなければならない。争点となるのはおそらく自分のアバターに対する誹謗中傷が、それを操る自分自身と同義であるかどうかというところだろう。結局、裁判も広告も、人の心も変革するのには物凄い時間がかかるようだ。だったら私がひなみと一緒にコラボをして彼女を支えようかと思ったが、その時は彼女は幾らか元気を取り戻しているように見えた。そして、彼女が田中カナタさん主催のアーペックス大会に出ることがわかった。

 彼女が元気を取り戻して私も嬉しい。しかし私の力なんて最初から必要ないのかと思うと、少しだけ寂しかった。次に会った時もとてもさっぱりしていて、私が声をかければちゃんと受け答えをしてくれた。だけど私はこの時の彼女の心情に覚えがある。それは私が広告代理店を辞めると決心した翌日の職場だ。

 薙鬼流ひなみはVチューバーを辞めようとしている。これは本人から聞いたわけではないが、私はそうであると半ば確信していた。

 前以て田中カナタさんの大会に出場を決意していてよかった。一緒の大会に出れる。彼女と同じ大会に出ることで一体なんの役に立つのかわからないが、それでも何か彼女のために行動をしたかった。

 勿論、同じチームメイトには迷惑がかからないよう全力でプレイする。そして練習配信中にあることを思いついた。ひなみにメッセージを送ろう。それはDMのような直接的なメッセージではなく、本人だけに伝わるようなメッセージ。

 アーペックスに甦りし者『レヴェナント』というキャラクターがいる。そのレヴェナントのアビリティは、トーテムを置き、それに触れた者はキルやダウンをしても甦ることができる。

 これは正にVチューバーの特性なのではないだろうか。自分の分身のようなアバターにいくら攻撃をされても画面の前に立つ自分は死なない。

 そうだ!これをメッセージにしよう!いくら誹謗中傷を受けたからといってもそれはひなみ自身のことではない。このレヴェナントのアビリティのように何度だって甦ることができる。

 そうして意気込んだ今、大会本番のオープニングゲーム序盤、さっそく私はトーテムを焚き、自分のチームメイト2人に不死を与えた。不死となった2人は目の前のビルから出る敵チームを追う。そして少ししてから私の画面の右端には薙鬼流ひなみが私と同じチームである榊恭平によりダウンさせられたというキルログが流れた。

「っておぉぉ~~い!!ダウンさせてどうする!!私の同期だぞ!!!」

『そういうゲームだから仕方ないだろっ!!』

 榊恭平の声が聞こえた。

「許せねぇよなぁぁ!!もうこのアビリティは使わん!!絶対に使わない!!!」

 私を宥めるように元プロゲーマーのルブタンさんが言った。

『まぁまぁ…って来てる来てる!!』

 トーテムより、榊恭平が帰還した。相手チームに殺られたが、私のアビリティのおかげで甦ったのだ。

『詰めよう詰めよう!!』

 私と甦った榊恭平はひなみ達のチームを追い詰める為、外へと出る。

 ──あぁ、どうかひなみ…私のメッセージに気付いて……誹謗中傷はあなた自身に向けてのことではないわ……それに私達は何度でも甦ることができる。それは貴方のように新しいVチューバーになることも意味しているけれども、文字通り私が甦ったように、貴方もきっと前を向ける筈……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします! 6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします! 間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。 グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。 グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。 書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。 一例 チーム『スペクター』       ↓    チーム『マサムネ』 ※イラスト頂きました。夕凪様より。 http://15452.mitemin.net/i192768/

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。 その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに! 戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2026.1.21)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...