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第173話 捨てられる
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~音咲華多莉視点~
元々間に合わなかった。保坂さんが言うには学校まであと2km程だったようだ。私は保坂さんのスマホを再度見た。たくさんの生徒達が私のLIVEを待っている。それだけで十分なのかもしれない。予定より遅れてしまうが自分を待っている人がこんなにもたくさんいる。お父さんだけに拘ることではない。
私はそう思い、画面から眼を離そうとしたその時、お父さんと誰か、男子生徒が話しているのが見えた。その生徒が誰なのか画面からでは暗くて良くわからない。するとお父さんは一度浮かせた腰を再び椅子に落ち着かせた。そして腕時計を確認しているように見える。
私は学校へ向かって走った。
「スマホ借りていきます」
「ちょっ!!?」
後ろを振り向きながら保坂さんに言った。
「ここまで送って頂きありがとうございました!!」
保坂さんはバイクにまたがりながら腕を伸ばす。保坂さんは困ったような笑顔で私を見送ってくれた。
私はただ学校へ向かって走る。
お父さんはまだ学校にいる。元々30分に始まるLIVEを10分観る予定だったのだ。つまりお父さんは40分に学校を出る予定にしていることになる。
36分に着けば、私の歌を1曲聞いて貰える。
お父さんがその時間まで居てくれる確証なんてない。しかし立ち止まってはいられない。私は走った。ただひたすらに。
──────────────────────────────────────────────────
~織原朔真視点~
暗い客席、集まる生徒達の光るスマホ画面。みんな音咲さんの動向をチェックしているのだ。
「やばっ!のんちゃんが近くの公園で写真撮影会開いてるっぽいけどどうする!?」
「かたりんのLIVE優先っしょ!?」
「でもまだ来るまでに時間かかりそうだよ?」
「いや、向こう行ったとしてもすげぇ行列だぞ?ほら?」
そんなやり取りを耳にしながら僕は音咲鏡三を見た。先程席を立とうとする彼に説得を試みたのだ。
LIVEの冒頭10分を観るのだとすれば、帰りは40分だ。ならば36分に音咲さんが間に合えば1曲ぐらいなら聴いて帰れる。
そう提案すると、鏡三さんは渋々了承した。僕は彼の態度に苛立ちを覚える。そしてとうとう僕は彼に思いの丈をぶつけてしまったのだ。これで2度目だ。
◆ ◆ ◆ ◆
「どうして、頑なに観ようとしないんですか!?」
ざわつく体育館。僕は回りを省みずにそこそこ大きな声を出してしまっていた。
「何度も説明したが、下等な表現とそれを持て囃す集団を見るのが不快なんだ」
「それが自分の娘でもですか!?」
「自分の娘だからこそだ。世の中を歪ませる存在を自分の家系から輩出してしまった。それは最も恥ずべきことだ」
「……」
◆ ◆ ◆ ◆
何も言い返せなかった。言葉よりも怒りの感情が前に出たせいで、僕は黙ってしまった。
──恥ずべき存在だから、自分の思い通りに育たなかったから僕らは捨てられるのか?
何故音咲さんは、あんな奴に自分の姿を観て貰いたいのか。そう思ったがしかし、その気持ちは僕が一番良くわかっていることに気が付いた。
──認めてもらいたいから……自分の価値観を知ってもらいたいから…いや違う、きっと文句の1つでも言ってやりたいからだ……
僕はたくさんの生徒達の間を縫って、ステージ裏へと入った。そこには一ノ瀬さんと薙鬼流と妹の萌がいる。
「どうでした?」
薙鬼流が質問してきた。
「あぁ、36分まで居てくれるみたいだけど……」
「けど?」
「いや、なんか腹が立ってさ……」
「珍しい…ね……?」
一ノ瀬さんが心配そうに見つめてくる。
「ごめん。ただ、大人達は…親は勝手だなって思って……」
萌が呟く。
「お兄ちゃん……」
薙鬼流が訊いてきた。
「あ、あの……もしですよ?かたりんがもし間に合わなかったらどうします?」
一ノ瀬さんが答えた。
「残念だけど、華多莉ちゃんのお父さんなしでLIVEを──」
僕は一ノ瀬さんの言葉を遮るようにして言った。
「いや、その時は──」
リミットまで後4分。
元々間に合わなかった。保坂さんが言うには学校まであと2km程だったようだ。私は保坂さんのスマホを再度見た。たくさんの生徒達が私のLIVEを待っている。それだけで十分なのかもしれない。予定より遅れてしまうが自分を待っている人がこんなにもたくさんいる。お父さんだけに拘ることではない。
私はそう思い、画面から眼を離そうとしたその時、お父さんと誰か、男子生徒が話しているのが見えた。その生徒が誰なのか画面からでは暗くて良くわからない。するとお父さんは一度浮かせた腰を再び椅子に落ち着かせた。そして腕時計を確認しているように見える。
私は学校へ向かって走った。
「スマホ借りていきます」
「ちょっ!!?」
後ろを振り向きながら保坂さんに言った。
「ここまで送って頂きありがとうございました!!」
保坂さんはバイクにまたがりながら腕を伸ばす。保坂さんは困ったような笑顔で私を見送ってくれた。
私はただ学校へ向かって走る。
お父さんはまだ学校にいる。元々30分に始まるLIVEを10分観る予定だったのだ。つまりお父さんは40分に学校を出る予定にしていることになる。
36分に着けば、私の歌を1曲聞いて貰える。
お父さんがその時間まで居てくれる確証なんてない。しかし立ち止まってはいられない。私は走った。ただひたすらに。
──────────────────────────────────────────────────
~織原朔真視点~
暗い客席、集まる生徒達の光るスマホ画面。みんな音咲さんの動向をチェックしているのだ。
「やばっ!のんちゃんが近くの公園で写真撮影会開いてるっぽいけどどうする!?」
「かたりんのLIVE優先っしょ!?」
「でもまだ来るまでに時間かかりそうだよ?」
「いや、向こう行ったとしてもすげぇ行列だぞ?ほら?」
そんなやり取りを耳にしながら僕は音咲鏡三を見た。先程席を立とうとする彼に説得を試みたのだ。
LIVEの冒頭10分を観るのだとすれば、帰りは40分だ。ならば36分に音咲さんが間に合えば1曲ぐらいなら聴いて帰れる。
そう提案すると、鏡三さんは渋々了承した。僕は彼の態度に苛立ちを覚える。そしてとうとう僕は彼に思いの丈をぶつけてしまったのだ。これで2度目だ。
◆ ◆ ◆ ◆
「どうして、頑なに観ようとしないんですか!?」
ざわつく体育館。僕は回りを省みずにそこそこ大きな声を出してしまっていた。
「何度も説明したが、下等な表現とそれを持て囃す集団を見るのが不快なんだ」
「それが自分の娘でもですか!?」
「自分の娘だからこそだ。世の中を歪ませる存在を自分の家系から輩出してしまった。それは最も恥ずべきことだ」
「……」
◆ ◆ ◆ ◆
何も言い返せなかった。言葉よりも怒りの感情が前に出たせいで、僕は黙ってしまった。
──恥ずべき存在だから、自分の思い通りに育たなかったから僕らは捨てられるのか?
何故音咲さんは、あんな奴に自分の姿を観て貰いたいのか。そう思ったがしかし、その気持ちは僕が一番良くわかっていることに気が付いた。
──認めてもらいたいから……自分の価値観を知ってもらいたいから…いや違う、きっと文句の1つでも言ってやりたいからだ……
僕はたくさんの生徒達の間を縫って、ステージ裏へと入った。そこには一ノ瀬さんと薙鬼流と妹の萌がいる。
「どうでした?」
薙鬼流が質問してきた。
「あぁ、36分まで居てくれるみたいだけど……」
「けど?」
「いや、なんか腹が立ってさ……」
「珍しい…ね……?」
一ノ瀬さんが心配そうに見つめてくる。
「ごめん。ただ、大人達は…親は勝手だなって思って……」
萌が呟く。
「お兄ちゃん……」
薙鬼流が訊いてきた。
「あ、あの……もしですよ?かたりんがもし間に合わなかったらどうします?」
一ノ瀬さんが答えた。
「残念だけど、華多莉ちゃんのお父さんなしでLIVEを──」
僕は一ノ瀬さんの言葉を遮るようにして言った。
「いや、その時は──」
リミットまで後4分。
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