SNSが結ぶ恋

TERU

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第7話「DM」

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第7話「DM」

「プシュ~!」っとビールの蓋を開けて、昼間から堤防の上に座り、のどかな海を眺めながらビールを飲み干す。
「は~どうしよう!」正樹はインスタグラムの投稿を今更ながら恥ずかしく思っていた。
『今、ここにいます。』ってどうなのよ?ツイッターみたいに『~ナウ』の書き方ではなく、『今、ここにいます。』ってどうなの?誰かに宛てたみたいだよね?考えすぎ?
「は~恥ずかしい。」正樹は後悔した。だったら彼女のインスタの投稿に『僕も今ここにいますよ。』って入れたらよかった。と色々考えてしまって、なんとも言えない恥ずかしい感情に襲われていた。
「正樹さ~ん、お疲れ様でした。」堤防の下から呼びかけられて振り向くとスッキリしたような、爽やかな笑顔を見せて、漁協組合の石上が見上げていた。
「漁業就業者フェアの引率ありがとうございました。これお土産です。」にこにこしながら『信玄餅』を差し出した。
「散々な目にあったよ。それで旅行は楽しかったか?」『信玄餅』を受け取り何処に旅行に行ったか推測する。
「いや~ホント山中湖のリゾートホテル最高ですね。でも僕の財布はもうすっからかんですけどね。(笑)彼女も喜んでくれました。これも正樹さんのおかげです。」よくベラベラ喋るな~!っと思いつつも悪気の無い爽やかな笑顔にタメ息をついて許してあげた。
「ならよかった。次は付いて来てくれよ。俺一人じゃもう無理だよ。」
「了解しました。なんかメイド喫茶に行ったみたいじゃないですか?いいな~楽しそうで!」
「俺は行ってないし、楽しくない!」人の苦労も知らないで!と沸々怒りが沸いてくるが、そんな事も気にしない“KY”な石上は『次は一緒に行きます!』っと正樹の怒りの矛先を風のように巻き取って、漁協組合に去って行った。
「恐るべし、ゆとり世代!」信玄餅片手に、堤防に一人取り残された正樹は思わず呟いた。



「は~どうしよう美佳~?これなんてコメントしたらいいと思う。」
「知らないわよ。適当にコメントしたらいいじゃない。」
「え~なんて入れるの?『私はあの後あなたを探しにお店に戻りました。』とか?そんなの、もし私に向けての投稿じゃなかったら恥ずかしいじゃん。あ~どうしよう!?」
週末のファッションショーを無事に成功させて帰宅する際に、秋葉原駅で突然引き返した真咲の行動に不信に思った美佳が、週明けに真相を突き詰めようと思ったのだが、逆にインスタグラムの“彼”の話を聞かされて、悩み相談会となっていた。
「それじゃ~いっそDM送ってみたら?」
「えっ!DM?無理無理無理・・・・絶対無理、そんなの恥ずかしくて送れないよ~!」
「なんで?そんなの直接話して真相聞いた方がスッキリするじゃない。」明らかに恥ずかしがっている真咲を見て美佳は楽しんでいた。
「なっなんて入れるの。すっすきです。とか・・・。」
「パニックって何言っているのよ。いきなりコクってどうするの!」美佳は笑いが止まらず腹を抱える。
「えーそんなつもりじゃ・・・・。」言って恥ずかしくなって顔が真っ赤になっている。
「私が文章考えるからDM開いて。」笑い過ぎて涙目の美佳が、その余韻を残しつつもお節介をやこうとしていた。
「ちょっと待って!心の準備が・・・。」さっきの『すき』という自分の言葉に、心の動揺が抑えられない。
「ここは動かないと何も始まらないよ!」美佳は自分事で無いので、明らかに楽しんでいた。
「他人事だと思って~!」真咲は涙目になりつつインスタグラムを立ち上げた。
『♪♪♪』その時メッセージの着信が入る。
「どうしよう~美佳~!」涙目の真咲が振り返る。
「どうしたの?」
「彼からDM来ちゃった・・・。」


『う~ん。』正樹は指の震えが抑えられない。昼間からビールを飲んだ勢いで、彼女にDMを書き出したのであるが、結局何回も書き直して打ち終わった頃には酔いはすっかり冷めてしまい。文章を読み直して恥ずかしくなっていた。
『これを本当に送っていいのか?わざとらしくない?どうするか?』そう考えながら、指が止まり送信のボタンを押せなくなっていた。
『本当に送っていいのか?俺の思い込みかもしれない。ストーカーとかキモイとか思われたらどうしよう?』ネガティブ思考が広がっていく。
『普通に考えたら40過ぎのオッサンが20代の若者に声をかけるなんてキモすぎる。』インスタグラムで年齢も写真も公表していないのだから相手に分かりようがないのだが、ネガティブ思考全開の時は被害妄想がヒドイくなるのである。
「正樹さん~!」突然の石上の呼びかけに、正樹は驚きのあまり『ポチ』っと送信ボタンを押してしまう。
「あ・・・・・・・・。」
「正樹さん、組合長さん呼んでいますよ。あれ?正樹さん」正樹の震えが止まらない。
「石上~!」振り向いた正樹は涙目で石上を睨む。
「えっえ~!僕、何かしました!」いや、何もしてないけど・・・。っと心の中でなんとも言えない感情に押し包まれた。


「美佳さん~どうしよう。」真咲と美佳は同期のなのだが、困った時だけ敬語になるのが癖になっているようだ。
「開けて見たらいいじゃない。一緒に見てあげる。」
「いやです。」困った時は頼るくせに肝心の所は乙女になるのね。と美佳は残念がる。美佳も他人の恋愛は楽しいのだ。
「ちょっと先に見るから待っていて。」そういってオフィスのトイレに駆け込む。
「乙女なの!?」小走りで走り出す後ろ姿は、インスタグラム・フォロワー数10万人以上の人気インスタグラマー(?)の姿ではなかった。


トイレに駆け込んだ真咲はドキドキしながら『DM』を開いた。
「こんにちはMASAKI87さん。私は正樹といいます。同じ名前だったので、勝手に親近感を持ってしまって、いつもいいねさせて貰っています。^^
突然DMしてしまってごめんなさい。実は先週土曜日に秋葉原に行って、たまたま入ったお店で『カナダ産メープルシロップをふんだんにかけた、ふわふわパンケーキ』を頼んだのですが、MASAKI87さんのインスタを見たら偶然同じ日に同じ店に行っていたので、ビックリしてその日ついつい探してしまいました。(笑)
これをご縁にこれからもよろしくお願い致します。よかったら私も同じパンケーキアップしているので投稿見てくださいね。」読み終えて彼も私に気が付いて探してくれていたんだと思うと嬉しくなった。
真咲が返信をどうかこうか悩みながらトイレを出ると、美佳が何か面白いオモチャを見つけた少女のように目を輝かせて待っていた。

「真咲~作戦会議しようか~!」



次回、第8話「指恋(ゆびこい)」につづく・・・。




第8話「指恋(ゆびこい)」
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