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馴れ初め②安住の地
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フミが女学校を卒業してからは、海外に行くことを決めた。
神戸は港町なこともあり、海外と日本の装いが独自に発展して、洋装を学ぶのにも学校が設立されたほどである。
フミの通っていた女学校はまさに洋裁中心に学べる女学校であった。
それでも世界での洋装事情を知りたいと父親に打診したところ、一緒に色々なところを旅してから決めよう。ということになり、父親と共に旅に出た。
もちろん、母親や親戚は大反対。
それでも父親が間に入りつつ、フミの口の強さで上手く丸め込み、事なきを得た。
単語亜米利加の単語新約克から始まり、単語獅篭を経て欧州に向かった。
その道中、ミュージカルを見たり、活動写真を見たり、そのころ出版されたオズの魔法使いを夢中で読み漁った。
昼夜問わずに移動をしているにもかかわらず、色々なところに行き、吸収し様々なことを感じ取って洋装画に描き起こした。
亜米利加を2年かけて堪能したフミは父親とともに巴里に到着した。
その年は巴里万国博覧会の開催年。
フミは博覧会の会場で目を見張った。
そこには世界中の人々や文化や技術が集まっていたからである。
服飾の展覧会では最新の巴里の流行の服がたくさん披露されており、
フミはその美しさと華やかさに感動した。
フミは父親に頼んで、その時の展覧会の服職人の一人のアトリエに連れて行ってもらった。
その名も、ポール・ポワレ。のちの欧州の社交界からコルセットを排除する職人である。
フミはその技術と彼らの美的感覚に感嘆した。
彼女は職人たちに話しかけ、洋装について学びたいと伝えた。
今まで描いてきた洋装画や、日本の洋裁学校で作ってきた作品……。という名の普段着を見せる。
職人たちはフミの熱意と才能を認めて、彼女を弟子に入れてくれることにした。
父もフミの安住の地を見つけたことにほっとしたようで独り立ちをすることになった。
「お父ちゃん、今までありがとうな」
父親が巴里を去る前日、最後の晩餐が巴里の料理店で行われていた。
「今生の別れみたいなことを言うんじゃないよ」
そう微笑む父は少し寂しそうな嬉しそうな顔をしていた。
「住むところはメゾンが用意してくれたの。食事も心配するなって言ってくれたわ」
「そうか。それはよかった。芙美子も大きくなったなあ」
「なによ。しんみりしちゃって」
「そりゃそうだろ。この2年間ずっと一緒にいたんだから」
「お母ちゃんになんて顔したらいいんだか、分んないね」
「お母ちゃん、お前は言い出したら聞かないから仕方ないねって手紙で書いてあったぞ」
「お母ちゃんらしいと言えばお母ちゃんらしいわ」
「口じゃお前のほうが強かったもんな」
一口だけ固い仏蘭西パンをオリーブ油につけて食べるフミ。
「それじゃ私が口だけ強いみたいじゃん」
「そんなこと言ったかなあ」
すっとぼける父は確信犯だ。
頼んだサラミを口に入れ、ワインを口の中に流し込む。
「お父さんのバカあ」
「はしたないぞお。その飲み方は」
「でもこれが美味しいんだよねえワインに合っててさ」
「芙美子のためにいいワインを取ったからなあ」
「シャトー・マルゴーだっけ」
「ワインの名前は教養として覚えておきなさい。あとテーブルマナーも」
「そうね。ありがとう。しかし、このコルセット、きついねえ」
「日本の帯とどっちがきついんだ?」
食べるのが進んでいくうちにきつくなっていくコルセット。
「んー。日本の帯は当たるところに入ると全然苦しくないのよ。着方がある。でもコルセットはそうはいかないわね」
フミはまた何かを思いついたようで帳面を開き、何かを描き始める。
それを見ながらワインを飲む父。2年間での旅での変わらぬ光景だった。
「しっかし、いつ帰ろうかなあ」
帳面を開いて絵を描きながらつぶやくフミ。
父親と過ごすうちにすっかり板についていた関西弁も抜け落ちていた。
こんな姿、キヨが見たらどう思うんだろう。
タヱは上品な朝子が戻ったと喜ぶだろうか。
久しぶりに学友たちを思い出して口元が緩む。
「気が済むまでこっちに居たらいいだろ。くれぐれも親の死に目に会えるような親不孝な子供にはなるなよ」
父親に言われた言葉にハッとする。
そうか。もしかしたらフミにとっても父にとっても、母にとっても…。
永遠の別れかもしれない。
気が付いたら涙が落ちて止まらなかった。
「うん、わか……っ」
それ以上先は言葉が詰まって何も言うことができなかった。
父親も柄にもなく泣いている。
「ばっか、そんな顔するな」
「お父さんこそ」
お互いその日は散々泣いた後、ひどい顔だと笑いあった。
特別美味しいワインを父親が空けてくれたというのにすごくしょっぱかった。
そして別れの日。
港から日本行の船が出ていたので朝早くに起きて父親を見送りに行く。
「それじゃ、またな」
「うん、また。」
散々あの日泣いたので笑顔で別れようと2人で決めた。
そして、絶対にまた生きて会おうと誓う。
小さくなっていく父親の背中を見て、フミが叫ぶ。
「おとうさーーーーん!」
振り返る父親。
「私絶対有名になるからーーー!頑張るからーーー!」
「俺も頑張るぞーー!孫の顔見るまで頑張るからお前も元気でやれー!」
「そんなに時間かけないからーー!」
「日本で待ってるぞー!」
そしてフミは服飾人のもとで修業を始めた。持ち前の洋裁の技術も駆使しながら、新しいことも次々と覚えていく。
フミは東洋と西洋の要素を融合させた独自の体裁を作り出した。
彼女の作品は服職人や顧客から高く評価され、フミは次第に名声を得るようになったのだった。
神戸は港町なこともあり、海外と日本の装いが独自に発展して、洋装を学ぶのにも学校が設立されたほどである。
フミの通っていた女学校はまさに洋裁中心に学べる女学校であった。
それでも世界での洋装事情を知りたいと父親に打診したところ、一緒に色々なところを旅してから決めよう。ということになり、父親と共に旅に出た。
もちろん、母親や親戚は大反対。
それでも父親が間に入りつつ、フミの口の強さで上手く丸め込み、事なきを得た。
単語亜米利加の単語新約克から始まり、単語獅篭を経て欧州に向かった。
その道中、ミュージカルを見たり、活動写真を見たり、そのころ出版されたオズの魔法使いを夢中で読み漁った。
昼夜問わずに移動をしているにもかかわらず、色々なところに行き、吸収し様々なことを感じ取って洋装画に描き起こした。
亜米利加を2年かけて堪能したフミは父親とともに巴里に到着した。
その年は巴里万国博覧会の開催年。
フミは博覧会の会場で目を見張った。
そこには世界中の人々や文化や技術が集まっていたからである。
服飾の展覧会では最新の巴里の流行の服がたくさん披露されており、
フミはその美しさと華やかさに感動した。
フミは父親に頼んで、その時の展覧会の服職人の一人のアトリエに連れて行ってもらった。
その名も、ポール・ポワレ。のちの欧州の社交界からコルセットを排除する職人である。
フミはその技術と彼らの美的感覚に感嘆した。
彼女は職人たちに話しかけ、洋装について学びたいと伝えた。
今まで描いてきた洋装画や、日本の洋裁学校で作ってきた作品……。という名の普段着を見せる。
職人たちはフミの熱意と才能を認めて、彼女を弟子に入れてくれることにした。
父もフミの安住の地を見つけたことにほっとしたようで独り立ちをすることになった。
「お父ちゃん、今までありがとうな」
父親が巴里を去る前日、最後の晩餐が巴里の料理店で行われていた。
「今生の別れみたいなことを言うんじゃないよ」
そう微笑む父は少し寂しそうな嬉しそうな顔をしていた。
「住むところはメゾンが用意してくれたの。食事も心配するなって言ってくれたわ」
「そうか。それはよかった。芙美子も大きくなったなあ」
「なによ。しんみりしちゃって」
「そりゃそうだろ。この2年間ずっと一緒にいたんだから」
「お母ちゃんになんて顔したらいいんだか、分んないね」
「お母ちゃん、お前は言い出したら聞かないから仕方ないねって手紙で書いてあったぞ」
「お母ちゃんらしいと言えばお母ちゃんらしいわ」
「口じゃお前のほうが強かったもんな」
一口だけ固い仏蘭西パンをオリーブ油につけて食べるフミ。
「それじゃ私が口だけ強いみたいじゃん」
「そんなこと言ったかなあ」
すっとぼける父は確信犯だ。
頼んだサラミを口に入れ、ワインを口の中に流し込む。
「お父さんのバカあ」
「はしたないぞお。その飲み方は」
「でもこれが美味しいんだよねえワインに合っててさ」
「芙美子のためにいいワインを取ったからなあ」
「シャトー・マルゴーだっけ」
「ワインの名前は教養として覚えておきなさい。あとテーブルマナーも」
「そうね。ありがとう。しかし、このコルセット、きついねえ」
「日本の帯とどっちがきついんだ?」
食べるのが進んでいくうちにきつくなっていくコルセット。
「んー。日本の帯は当たるところに入ると全然苦しくないのよ。着方がある。でもコルセットはそうはいかないわね」
フミはまた何かを思いついたようで帳面を開き、何かを描き始める。
それを見ながらワインを飲む父。2年間での旅での変わらぬ光景だった。
「しっかし、いつ帰ろうかなあ」
帳面を開いて絵を描きながらつぶやくフミ。
父親と過ごすうちにすっかり板についていた関西弁も抜け落ちていた。
こんな姿、キヨが見たらどう思うんだろう。
タヱは上品な朝子が戻ったと喜ぶだろうか。
久しぶりに学友たちを思い出して口元が緩む。
「気が済むまでこっちに居たらいいだろ。くれぐれも親の死に目に会えるような親不孝な子供にはなるなよ」
父親に言われた言葉にハッとする。
そうか。もしかしたらフミにとっても父にとっても、母にとっても…。
永遠の別れかもしれない。
気が付いたら涙が落ちて止まらなかった。
「うん、わか……っ」
それ以上先は言葉が詰まって何も言うことができなかった。
父親も柄にもなく泣いている。
「ばっか、そんな顔するな」
「お父さんこそ」
お互いその日は散々泣いた後、ひどい顔だと笑いあった。
特別美味しいワインを父親が空けてくれたというのにすごくしょっぱかった。
そして別れの日。
港から日本行の船が出ていたので朝早くに起きて父親を見送りに行く。
「それじゃ、またな」
「うん、また。」
散々あの日泣いたので笑顔で別れようと2人で決めた。
そして、絶対にまた生きて会おうと誓う。
小さくなっていく父親の背中を見て、フミが叫ぶ。
「おとうさーーーーん!」
振り返る父親。
「私絶対有名になるからーーー!頑張るからーーー!」
「俺も頑張るぞーー!孫の顔見るまで頑張るからお前も元気でやれー!」
「そんなに時間かけないからーー!」
「日本で待ってるぞー!」
そしてフミは服飾人のもとで修業を始めた。持ち前の洋裁の技術も駆使しながら、新しいことも次々と覚えていく。
フミは東洋と西洋の要素を融合させた独自の体裁を作り出した。
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