大正ロマンとチョコレヰト

魔法使いアリッサ

文字の大きさ
14 / 23

馴れ初め②安住の地

しおりを挟む
フミが女学校を卒業してからは、海外に行くことを決めた。
神戸は港町なこともあり、海外と日本の装いが独自に発展して、洋装を学ぶのにも学校が設立されたほどである。

フミの通っていた女学校はまさに洋裁中心に学べる女学校であった。

それでも世界での洋装事情を知りたいと父親に打診したところ、一緒に色々なところを旅してから決めよう。ということになり、父親と共に旅に出た。

もちろん、母親や親戚は大反対。

それでも父親が間に入りつつ、フミの口の強さで上手く丸め込み、事なきを得た。

単語アメリカ亜米利加の単語ニューヨーク新約克から始まり、単語シカゴ獅篭を経て欧州に向かった。
その道中、ミュージカルを見たり、活動写真を見たり、そのころ出版されたオズの魔法使いを夢中で読み漁った。

昼夜問わずに移動をしているにもかかわらず、色々なところに行き、吸収し様々なことを感じ取って洋装画に描き起こした。

亜米利加を2年かけて堪能したフミは父親とともに巴里パリに到着した。
その年は巴里万国博覧会の開催年。

フミは博覧会の会場で目を見張った。
そこには世界中の人々や文化や技術が集まっていたからである。
服飾の展覧会では最新の巴里の流行の服がたくさん披露されており、
フミはその美しさと華やかさに感動した。

フミは父親に頼んで、その時の展覧会の服職人の一人のアトリエに連れて行ってもらった。

その名も、ポール・ポワレ。のちの欧州の社交界からコルセットを排除する職人である。

フミはその技術と彼らの美的感覚に感嘆した。

彼女は職人たちに話しかけ、洋装について学びたいと伝えた。
今まで描いてきた洋装画や、日本の洋裁学校で作ってきた作品……。という名の普段着を見せる。

職人たちはフミの熱意と才能を認めて、彼女を弟子に入れてくれることにした。

父もフミの安住の地を見つけたことにほっとしたようで独り立ちをすることになった。

「お父ちゃん、今までありがとうな」

父親が巴里を去る前日、最後の晩餐が巴里の料理店で行われていた。

「今生の別れみたいなことを言うんじゃないよ」

そう微笑む父は少し寂しそうな嬉しそうな顔をしていた。

「住むところはメゾンが用意してくれたの。食事も心配するなって言ってくれたわ」

「そうか。それはよかった。芙美子も大きくなったなあ」

「なによ。しんみりしちゃって」

「そりゃそうだろ。この2年間ずっと一緒にいたんだから」

「お母ちゃんになんて顔したらいいんだか、分んないね」

「お母ちゃん、お前は言い出したら聞かないから仕方ないねって手紙で書いてあったぞ」

「お母ちゃんらしいと言えばお母ちゃんらしいわ」

「口じゃお前のほうが強かったもんな」

一口だけ固い仏蘭西フランスパンをオリーブ油につけて食べるフミ。

「それじゃ私が口だけ強いみたいじゃん」

「そんなこと言ったかなあ」

すっとぼける父は確信犯だ。

頼んだサラミを口に入れ、ワインを口の中に流し込む。

「お父さんのバカあ」

「はしたないぞお。その飲み方は」

「でもこれが美味しいんだよねえワインに合っててさ」

「芙美子のためにいいワインを取ったからなあ」

「シャトー・マルゴーだっけ」

「ワインの名前は教養として覚えておきなさい。あとテーブルマナーも」

「そうね。ありがとう。しかし、このコルセット、きついねえ」

「日本の帯とどっちがきついんだ?」

食べるのが進んでいくうちにきつくなっていくコルセット。

「んー。日本の帯は当たるところに入ると全然苦しくないのよ。着方がある。でもコルセットはそうはいかないわね」

フミはまた何かを思いついたようで帳面を開き、何かを描き始める。
それを見ながらワインを飲む父。2年間での旅での変わらぬ光景だった。

「しっかし、いつ帰ろうかなあ」

帳面を開いて絵を描きながらつぶやくフミ。

父親と過ごすうちにすっかり板についていた関西弁も抜け落ちていた。
こんな姿、キヨが見たらどう思うんだろう。
タヱは上品な朝子が戻ったと喜ぶだろうか。

久しぶりに学友たちを思い出して口元が緩む。

「気が済むまでこっちに居たらいいだろ。くれぐれも親の死に目に会えるような親不孝な子供にはなるなよ」

父親に言われた言葉にハッとする。
そうか。もしかしたらフミにとっても父にとっても、母にとっても…。

永遠の別れかもしれない。

気が付いたら涙が落ちて止まらなかった。

「うん、わか……っ」

それ以上先は言葉が詰まって何も言うことができなかった。
父親も柄にもなく泣いている。

「ばっか、そんな顔するな」

「お父さんこそ」

お互いその日は散々泣いた後、ひどい顔だと笑いあった。
特別美味しいワインを父親が空けてくれたというのにすごくしょっぱかった。

そして別れの日。

港から日本行の船が出ていたので朝早くに起きて父親を見送りに行く。

「それじゃ、またな」

「うん、また。」

散々あの日泣いたので笑顔で別れようと2人で決めた。
そして、絶対にまた生きて会おうと誓う。

小さくなっていく父親の背中を見て、フミが叫ぶ。

「おとうさーーーーん!」

振り返る父親。

「私絶対有名になるからーーー!頑張るからーーー!」

「俺も頑張るぞーー!孫の顔見るまで頑張るからお前も元気でやれー!」

「そんなに時間かけないからーー!」

「日本で待ってるぞー!」

そしてフミは服飾人のもとで修業を始めた。持ち前の洋裁の技術も駆使しながら、新しいことも次々と覚えていく。

フミは東洋と西洋の要素を融合させた独自の体裁を作り出した。
彼女の作品は服職人や顧客から高く評価され、フミは次第に名声を得るようになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】

naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。 舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。 結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。 失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。 やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。 男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。 これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。 静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。 全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

花嫁

一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

処理中です...