エプロンパンダのおめがね屋

ヒノモト テルヲ

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ハナコの鼻は

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*** コパンのうどん ***

 お昼どきに、コパンの作るうどんのいい匂いに誘われて黒豚のハナコがお店に入ってきました。
「こ、こんにちはなのね。ブッ、いい匂いなのね。こ、これはうどんね。私にも食べさせてほしいのね、ブッ」
 店主もコパンもうどん屋と勘違いされたたようで驚きました。
「ホッホッホッ、残念ながら当店はうどん屋ではございません。おめがね屋です。ご希望に合わせて、おめがねにかなったピッタリのメガネをお作りいたします」
 店主がそう言ってもハナコはメガネに興味がないようです。
「ブッ、メガネは食べられないのね。歩き回ってとってもおなかが空いているのね。もう、うどんを食べないと動けないのね」
 どうやらうどんを食べるまでハナコは帰らないようです。店主はコパンに、私の分を半分にして彼女に出してあげるよう言いました。
「あ、ありがとうね」
 ハナコはちゃっかりと椅子に座り、うどんが出てくると一口で食べてしまいました。
「う、うまいのね。こ、こんなうまいうどんは初めてなのね」
 コパンはほめられて嬉しそうです。食べて落ち着いたハナコは話し始めました。
「これはどうも失礼しました、ブッ。わたしはハナコというのね。このあたりの山にトリュフを探しに来たのね。でもいい匂いがして、たどって来たらこのうどん屋だったのね」
「ホッホッホッ、うどん屋ではございません。おめがね屋です。それに、この山は竹林が多くトリュフは採れませんよ」
 少し食べてお腹が落ち着いたハナコはうなずきながら、何かひらめいたようです。
「そ、そうなのね。わたし最近鼻が利かなくなって困っているのね。トリュフは埋まっていて鼻が利かないとだめなのね。でも、見ただけで埋まっているトリュフが見えるメガネがあればいいのね。ブヒヒヒヒ」
 ハナコは冗談のつもりで言ったようですが、店主は彼女の希望だと思いました。コパンは、遠くからここのうどんの匂いがわかったのだから充分鼻が利く、と思っています。
「ホッホッホッ、もしもご希望であれば、トリュフを見つけられるメガネをお作りすることもできますが、いかがでしょう。ただしとても難しいご注文になりますので、お高くはなりますが」
 ハナコはしばらく考えて答えました。
「そうね、お金があれば作って欲しいのね。でも全然ないのね。それにこの辺りにはトリュフはなさそうだし。でも、トリュフの代わりにいいものを見つけたのね。ここのうどんはとってもおいしいのね。ぜひ作り方を教えてほしいのね」
 彼女はそう言って椅子から降りると、床に手をついて頭を下げ、お願いしました。額はつけられませんが土下座のようです。店主は困りました。なにせうどんを作っているのはコパンですし、うどんは粉をこねる練習で作らせているだけです。コパンのほうを見ると、ほめられてうれしいからニコニコしています。店主は教えるまで彼女は帰らないだろうと思いました。
「ホッホッホッ、ここはうどん屋ではありませんが、どうやらうどんがあなたのおめがねにかなったようです。わかりました、教えましょう。ただしうどんを作るのは私ではなく、弟子のコパンです。ええ、今日はもう店じまいをしますので、奥でゆっくりと教わっていってください。材料も自由に使っていいですよ」
 誰かに教えることもコパンの練習になると店主は考えたのです。ハナコは喜びました。コパンも大喜びです。

 店主はお店を閉め、夕食用の笹を取りに出かけました。いないほうがコパンも教えやすいと思いましたから。コパンは初めて誰かに教えるので緊張したようですが、うどん作りに自信を持ち始めていましたので、だんだん面白くなったようです。ハナコもまじめにコパンの言うことを聞き、うどんをこね、汁を作りました。
 夕方に笹を担いで店主が帰ってくると、ハナコはもういませんでした。コパンは疲れたのか、テーブルのところで寝ていました。二人が一生懸命だったことはテーブルにあるうどんの山でわかります。店主はコパンを起こさないように抱いてベッドに寝かせました。

 ロッキングチェアに座り、ゆらゆら揺れながら、店主は一人で夕食の笹を食べました。この店を作ってから初めての一人夕食でした。ハナコの鼻はうどんを作るには充分だと思っています。彼女ならおいしいうどんが作れるはずです。店主はゆっくりと笹を食べながら、そろそろコパンにメガネを作ってあげようと思いました。
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