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第2章
12.男になりたいのです②
しおりを挟むゲームの時にも思ったが、婚約者がいるのに横から好きな人を手に入れるヒロインのことを俺は好きになれなかった。まあ、ゲームだし好きなタイプの男性を自分のモノにしたい乙女心を満たすには良い戦略だなとは思ったが、実際に現実に起こると気分が悪い。
だから、思うがままに言いたいことをぶちまけたら、お父様の顔面が崩壊していました…。
恐く感じさせる厳つい眉が大きく下がり、いつもある眉間の皺も三割増しだ。細い切れ長のユーナと同じ紫紺の瞳は真ん丸に開かれ、顎が外れんばかりに大きな口を開けていた。
【鉄火面の宰相閣下】と名高いユーノスとは思えないほどの間抜けな顔だった。この顔を執務室の国王陛下にお見せすれば、向こう一週間はネタにされることに違いないだろう、とユーノスの後ろに控えていた執事長は思った。
我に帰ったユーノスはゴホンッと咳払いをすると、娘のユーナに説く。
「確かに…殿下の行いは目に余る。次期国王としての立場としては軽はずみな行動と、判断だと言えよう。そう言った甘さの残る殿下を支えることのできる賢さと包容力を持った者が婚約者として望ましいと、陛下がご判断されたのだ。しかし、私も娘を蔑ろにされ、傷つけられてしまっては納得いかない。明日にでも陛下に婚約破棄を申し立てておく。だからユーナ、男になるなど早まらないでくれ!」
肩に置いたままだったお父様の大きな手に力が入り、不安に揺らぐ瞳にジッと見つめられた。
出掛けていた娘が帰ってきたと思ったら、男の子のように髪を短くして「結婚しない、男になるの!」と言われたら、そりゃあ俺が父親なら卒倒するね…うん。ごめん、お父様。
「お父様、心配ばかりかけてごめんなさい。でも、もう誰かを愛することなんて出来そうにないわ。愛したって、相手からも同じだけ愛してくれる保証なんてないもの…。だからね、お父様。私、強くなる為に男になりたいのですわ!」
両手をグッと握り、ガッツポーズをしながら宣言する。本当は誰かと愛し合い結婚をしてみたい。でも、俺が好きになるのはきっと王妃様のような童顔で可愛らしい女性なのだろう。この世界でも同性愛は受け入れられない。必然的に結婚は諦める他ないのだ。
「ユーナ…おまえは、」
退く気配のない娘の様子に、ユーノスは出かけた言葉を飲み込んだ。
たった十八歳になったばかりの娘が恋愛を諦めている。若い令嬢たちは良い男性に嫁ぐことを夢にし、毎夜のようにどこかの夜会に参加する。そんな年頃なのだ、普通は。
しかし、ユーナは六つの頃にはレオン殿下の婚約者として決まっていた。誰かを好きになる前に結婚相手が決まり、婚約者を愛そうとレオン殿下を見続けた。年月と共にレオン殿下を慈しみ愛し始めた矢先に、浮気をされて蔑ろにされた。
当然、トラウマにもなるだろう。娘にこんな苦しい想いをさせてしまったのは、婚約を許した父であるユーノスにも責任がある。こんな男だと知っていれば、私だって許しはしなかったのに…!いまさら後悔をしたところで娘の傷は癒えないし、男になることを諦めないのだろう。
ユーノスは一つ溜め息を吐く。
「ユーナ、良く聞くんだ。もう男になることを止めはしない。けれど、男の世界も厳しい。剣を習うと言ったね、今まで体を動かしたこともなかった女性のユーナと男では体力も筋力も段違いに違う。鍛錬も辛いものになるだろう、それでも男になることを諦めないか?」
見つめてくるお父様の瞳に迷いが無くなっていた。真剣な目をしたお父様に応えるように頷いた。
「ええ、覚悟はしてるわ。男になんて負けないもの!」
ニコリと笑って宣言する。
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