俺が侯爵令嬢として愛を知るまで

彼名

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第5章

35.時計の意匠は

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あれから、やる気に満ちあふれたユーナ達は、服やドレスについて熱く語りあっていた。そして時間を忘れて語り合っていた二人を、昼休みの終わりを報せる鐘が鳴り響いたことで現実に戻した。

ポケットに入れていた隠れ家で見つけた銀の懐中時計を出して時間を確認すると、メノウと話し初めてからゆうに半刻は経っていた。

「あら、つい熱く語りすぎていたようね。メノウさんのお昼休みを頂いてしまいましたわ。用事はありませんでしたか?」

銀の懐中時計から目線を上げてメノウを伺う。

「とんでもありません!私こそ、ユーナ様の貴重なお時間を頂いてしまいましたわ。ユーナ様との時間より大事な用事などございません!」

両手を小さい体の前で必死に振って否定するメノウは、まるで小動物を連想させる愛らしさだった。桃色の髪はとても甘そうなストロベリーパフェを想像させる色合いで、彼女に甘めのロリータ服のドレスを着させたら可愛いに違いない。

一人妄想にふけるユーナをよそに、メノウはユーナが持つ銀の懐中時計に目が行く。

「…あら、ユーナ様の懐中時計に施されてる家紋、花菖蒲ではありませんのね。とても複雑な意匠ですが…」

「そうなの。偶然見つけたのだけど、ほら、私記憶が無いでしょう?何故この懐中時計を持っているのかも思い出せなくて。メノウさんも何かご存じないかしら、この家紋…」

懐中時計がよく見えるように、メノウの目の前に懐中時計を差し出す。メノウが言うように、懐中時計に描かれている家紋はヴァランド侯爵家のように花菖蒲の花だけをモチーフにしたデザインではなく、いくつかのモチーフを描いていてとても複雑なのだ。

外交を司るロマノール伯爵家のメノウなら、何か知っているかもしれないと、期待の眼差しで見る。

難しい顔をして懐中時計の模様をなぞりながら、唸るようにしてメノウは呟いた。

「どこかで見たことがある気がするのですが…。カサブランカに逆さの獅子…。後はカサブランカに隠れるようにしてあるコレは剣でしょうか?獅子は王族にしか使えません。ですが、逆さまなのは何故かしら…?」

暫く唸りながら、一生賢明に思い出そうとしてくれたメノウだったが、申し訳ありません。と悔しそうに小さく謝った。

メノウにも、家紋が誰の物か分からなかったらしい。それでも、意匠を読み取ってくれた。それだけでも十分な進歩である。

「…そう、メノウさんも知りませんのね。また思い出したら教えて下さいませ。それでもメノウさんの見る目は凄いのね。私には何の花かも分からなかったし、剣なんてとてもとても。流石はロマノール家ですわ!家紋を読むのに長けてらっしゃる!凄いですわ!」

素直に喜んでメノウを褒め称えると、メノウは複雑そうな顔をしていた。

「そんな、それほど凄いことでもありません!父や姉なら、きっと分かったのでしょうから。お役に立てませんでした」

「メノウさん、服作りも外交に必要な知識や情報を持っていることも全てメノウさんの魅力ですわ。私には刺繍も服作りもできません。知識や情報もメノウさんの武器になります。そういったモノ全てがメノウさんの魅力なのです。魅力が無いわけありませんわ」

みるみるうちに涙が浮かび、メノウの艶やかな頬に雫が流れ落ちていった。あぁ、綺麗な涙だなと思って指で涙をすくうように拭った。
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