俺が侯爵令嬢として愛を知るまで

彼名

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第5章

37.姉のようなマーサ

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長い一日だった。ヴァランド家の屋敷に戻ったユーナは一人での湯浴みをして一息をついた所であった。

最初の頃は戸惑っていた女の体も少しずつ見慣れてきて、無心で体を清めることに成功をしている。

マーサが淹れてくれた紅茶の湯気をゆっくり吸い込んで香りを楽しみ、ゴクリと一口を飲み干した。温かいぬくもりがお腹の奥まで染み渡っていくのが分かった。

「マーサ、今日はいろんなことがあったわ。レオン殿下に言いたいことが言えて、ライオス殿下やロマノール伯爵家のメノウとも仲良くなれて、とっても充実していたわ」

カップをそっとテーブルに置いて、隣に控えているマーサを見れば、嬉しそうにしながら一口サイズにカットされた果物を差し出してくれた。甘酸っぱい苺の香りがとても美味しそうだ。

「それは宜しかったですね、お嬢様!学園に行く楽しみができましたね。それにしても、ライオス殿下とはあまり話をされたことがなかったのではないですか?またなんで急に仲良くなったのですか?」

うん、想像した通り甘くて美味しい。もうひとつ、食べようかな。

「偶然でしたのよ?迷子になってしまって、疲れたから椅子に座ったらライオス殿下の上に座ってしまって怒られたの。そこから、…そうよ!ライオスってば何なの、アイツ!女ったらしなんだわ、きっと!こんな男装令嬢にまで興味をもつなんて、節操なしよね?」

思い出したらライオスの手の早さを思い出して、なんとも言えないイライラとした感情が沸いた。

パクッ、パクッとどんどん果物を口に放り込んでいく。マスカットをフォークで刺そうとしたが、ツルリと滑って床へと逃げてしまった。

いけない、落としてしまった。拾おうと手を伸ばすと、マーサが布巾でくるんで拾い上げてくれた。しまった。前世の癖で拾い食いをしそうであった。

「…お嬢様?」

心なしか普段よりも低い声で名前を呼ばれ、背筋を正してマーサを見る。もしかして、拾い食いをしようとしたのがバレた?

「お嬢様、ライオス殿下に何かされたのですか?」

マーサは微笑んではいたが表情が少しかたい。

「…ゴホゴホッ!何かって何かしら?!何もあるわけないでしょう!?」

予想外の質問に、食べていた林檎が喉に引っ掛かってむせてしまう。胸の辺りをトントンと叩いてつっかえを取ろうとすると、後ろに回ったマーサが優しく背中を擦ってくれた。

「…お嬢様。ムキになるところが怪しいですよ?未婚の令嬢が異性と密室に二人っきりになってはダメですよ!良いですか!?」

擦りながら覗き込むように黒く微笑んで釘を刺されれば、返事はハイとしか言えないだろう。俺も命は惜しい…。

「…分かっておりますわ!ライオスとは良き友ですのよ、心配しないでマーサ!それにメノウという可愛らしい令嬢とも友達になれたのよ?週末にお茶会に呼ばれてるの。楽しみですわ」

無理矢理話題を変えると、マーサは大きな溜め息を一つついて諦めたように首を横に振って話題を変えてくれた。

「…そういえばお嬢様、イシス様が明日の午後に騎士団の練習を見に来てはどうだと伺っておりますよ?」
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