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第6章
44.魔力測定
しおりを挟むお兄様に連れてこられたのは、騎士団の寄宿舎の奥にある団長室だった。
意外にもモノトーンでまとめられた家具や壁紙の部屋はオシャレになっていた。一番奥に構える執務机の上にはそびえ立つ書類の棟が二つほど並んでいて、仕事の多さを物語っていた。
「とりあえず、そこのソファにでも座ってくれ」
勧められたソファの前にあるローテーブルの上には大小の透明な水晶が置いてあった。これが、魔力測定と属性魔法を調べる水晶球なのだろう。
革張りの高そうなソファに腰掛けると、ほどよく沈んだ。このソファに寝転がって昼寝をしたら最高なんだろうな。と思考が明後日の方向に行ってしまいそうになる。
お兄様もローテーブルを挟んで反対側のソファへと腰掛け、大きい水晶をユーナの側へと寄せた。
「まずは、魔力量を測っていく。体の中に巡る魔力に意識を集中をさせて、この水晶に流し込むイメージでやると良い」
お兄様のアトバイスを聞き、メロンくらいはありそうな水晶に両手を添えたまま魔力を探る。
カチカチと時を刻む時計の針の音と、ドクドクと波打つ自分の心臓の音。
どれくらい経っただろうか。多分、そんなには経ってはいない。それでも、体内に巡る魔力を感知することができなかった。
もしかして、魔力無しなのだろうか?
「…お兄様。いくら探っても魔力がどのようなモノなのか分かりません。私には魔力は無いのでしょうか?」
おずおずと正直にお兄様に助けを求めてみた。すると、お兄様はソファから立ち上がってユーナの横までやってきた。
「誰にでも多少なりとも魔力はあるものだ。平民でもマッチの火を起こす程度の魔力はある。心配するな。ただ、魔力の形が掴めていないだけだ。私が魔力をユーナに流すから、それを感じ取れ」
お兄様が両手を俺の方へと差し出してきたので、俺も両手を差し出してギュッと手を握った。
剣ダコでゴツゴツとした分厚い掌。逞しいお兄様の手は、鍛練を始めたばかりのユーナとは全く違って男らしい。
なんだか、男と女の差を見せつけられた気分だ。
お兄様が目を閉じて暫くすると、お兄様の掌からジンワリと温かい何かが伝わってきた。掌から腕へ、腕から体に駆け抜けて行ったかと思うと、心臓にまで温もりが来た。
嫌ではない、むしろホッとする温もり。これがきっとお兄様の魔力。
「お兄様の魔力は温かいですのね」
感じたことを素直に伝えると、お兄様は目を開けて魔力を流すことを止めて掌を離した。
「それが魔力だ。さっきの感覚を思い出して、心臓から魔力を生み出すイメージをして、水晶に魔力を流すと良い」
忘れてしまわないうちにと、水晶に掌をつけた。
深呼吸をして、体内を意識する。心臓のドクドクとした音が大きく聞こえる。心臓から、血管を通って血が流れていくのと同じように、さっき感じた温かい魔力が血管を通って体内を巡るイメージをする。
ジンワリと心臓が温かくなってきた。そして、徐々に温もりが流れていく。最初は本当に細い線のような流れだったが、コツを掴めばまるでバケツをひっくり返したような濁流が循環する。
その膨大な濁流を掌を通して水晶へと流し込む。
すると、熱を持ち出しだした透明の水晶が目を開けていられないほどの光を発した。
「ユーナ、もう魔力は充分だ。手を離せ」
横にいたお兄様に肩を叩かれて、慌てて水晶から手を離すと、光を失い元の透明な水晶に戻っていた。
お兄様が水晶を持ち上げて中心をジッと見つめたかと思うと、今度はユーナの目の高さに水晶を持ってきた。
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